22 あいつきらーい
「それじゃあ、行ってきます。レイドさんはゆっくり休んでくださいね」
朝日の差し込む部屋に響く凛とした声。
爽やかな笑みを浮かべたミーアはそう言って仕事へと出て行った。
『良く耐えたわねー』
『おかげで一睡もできなかったよ……』
昨夜は結局ミーアに押し切られる形で、
「一緒に寝るだけです。何もしませんよ?」
と、世の男が言えば120パーセント嘘にしかならない言葉を並べ有言実行してみせたミーア。
何もしないの言葉通り……なのかは微妙な所だが、俺の腕を枕にしてスヤスヤと寝息を立てる様はハッキリ言って生殺し以外の何物でもなかった。
考えてみて欲しい。
俺はただでさえ三日も寝ていて体力はバッチリ。
その状況で隣に美女が身を寄せて眠っている。
これがどれ程の苦痛だったことかぁぁぁぁぁ!!!
エクレールからは、
『睡眠は三日取った、ご飯もお腹いっぱい食べた、後は分かるな? 本能に従うだけだ!!』
などと散々煽られたが、無防備に寝ているミーアに手なんか出せるはずもなく……。
『君にはがっかりだよ。そんなんじゃラノベの主人公にはなれないな』
と、良く分からない捨て台詞を吐かれ途中で飽きられた。
しかし、飽きられたからと言って状況が変わるはずもない。
むしろ寝相なのかワザとなのか分からない程くっついてくるミーア。
俺の死闘は当然の如く朝まで続いた。
たった一人の孤独な闘い。
味方は俺一人、敵もまた俺一人。
そしてようやく、朝が来た。
ミーアの目覚めと同時。
絶望からの夜明けを告げる様にエクレールは語り出す。
『ほんっっとに手出さないのね。呆れたと言うか頑固と言うか……。ある意味暴勇とも呼べる精神力を評して、大賢者からあなたに二つ名をつけてあげるわ!』
そして授かった二つ名は……
『聖剣を使わない勇者』
微妙に上手い所が腹立たしい。
こんちきしょぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!
数時間後。
ミーアと合流し、件の恩人が待つ酒場へと向かう。
「こちらが私達を助けてくれたアイシャさんとメイさんです」
そう言ってミーアが紹介してくれた命の恩人。
それは俺の予想に反し、絵に描いたような美人姉妹、と呼べる程に整った顔立ちの二人組だった。
「お初にお目にかかるレイド殿。拙者がアイシャ、こちらは妹のメイ。貴重なお時間を頂き、ありがたく思う」
「メイです。よろしくお願いしまぁす」
あ、やっぱ姉妹なんだ。
堅苦しい喋り方のアイシャさんは長い金髪と青い目が特徴の綺麗系美人、目立つ顔立ちをしているが一番目を引いたのは腰に差している刀。
侍……だっただろうか?
確か極東の島国では剣士では無く侍と呼ばれる剣客集団がいるとかいないとか。
妹のメイさんはショートカットであどけなさの残る可愛らしい子だった。
こちらも極東の島国に伝わると言う忍者の様な出で立ちなのだが、忍装束なのに色々と極端に短く、素肌が露わになっている部分の方が多い。
もう忍装束じゃなくていいじゃん。
聞けばアイシャさんは18歳で俺の一つ上、メイさんは15歳で俺の二個下との事。
「ご丁寧にありがとうございます。レイドと言います。この度は助けていただいたようでありがとうございました」
まずは何よりも命の恩人に対するお礼。
俺は深々と頭を下げて感謝を示す。
「なに、それに関しては礼には及ばん。魔人を倒した英雄の命だ、誰が見捨てる事など出来ようか」
「そう言って貰えると助かります。それで、俺達に話があると聞いているのですが?」
単純に金の類かと思っていたが、この二人を見ているとそんな話ではなさそうだ。
「ああ、実は拙者達は勇者を探しにこの街へ来たのだ」
「勇者を?」
チクリ、と少しだけ胸が痛むと同時、俺は話しの流れが少し視えた気がした。
「そうだ、拙者達の故郷にあるダンジョンで魔物の集団暴走が多発し始めた。これはダンジョン完成間近の予兆と言われている。だが、拙者達の実力ではダンジョン攻略はおろか集団暴走すらも止められない程に疲弊してしまい……」
「それで勇者の手が必要、と」
どこからか俺が勇者パーティにいたと聞きつけたのだろう。
俺から勇者につないで欲しい、恐らくこれがアイシャの望み。
だが……俺はもう追放された身……。
口利きくらいできなくも無いが、正直あいつらとはもう関わりたくない。
「ああ、その通りだ。しかし驚いたぞ。街ついたとたんに魔人とドンパチだ、タイミングの悪さに一瞬自分の悪運を呪ったが、まさかたった二人で魔人を倒すものが現れたのだ。正直こんなに早く二人の勇者を見つける事が出来るなんて運命としか思えなくてな!」
「「二人の勇者?」」
興奮した様子のアイシャさんと綺麗にハモる俺とミーア。
「あの、ひょっとして私とレイドさんを勇者と仰ってますか?」
「いかにも! たった二人で魔人を倒すなど勇者以外の何物でもない」
「レイド君もミーアちゃんもかっこよかったよっ!」
興奮気味にピョンピョン跳ねるメイさん。
この子は割と落ち着きが無いタイプの様だ。
「それはどうも……でも俺達は勇者じゃないですよ? 一応この街には勇者と呼ばれる人間は別にいますし……」
性格は最悪だが。
「むろんそれについてもレイド殿が寝込んでいる間に調べはしたが……あれは駄目だな……。大した実力も無い癖に威張り散らす無能だ、それに拙者と妹を下卑た目で見てくる醜悪さ。とても勇者の器とは思えんクズだった」
何かを思い出したのか、怒りに拳を握りしめるアイシャさん。
その横ではメイさんも「あいつきらーい」とぼやいでいる。
「そうですね、アレは間違いなく勇者では無くただのクズです。そしてこちらにいるレイドさんこそ本物の勇者。ですがすみません、私達はこれからレイドさんの治療のために急ぎここを離れなければなりませんので、残念ながらお手伝いは出来かねます」
……?
おーいっ!
ミーアさぁーん!?
ツッコミどころが多くて困るんですけどー!?
「なんとっ!? 勇者レイド殿はご病気か何かか?」
「ええ、詳しくは言えませんが勇者レイドの命に関わる大事です、心苦しいですが他をあたって頂けますと」
「それは……くっ、ならば仕方あるまい……他をあたるとしよう……。勇者レイド殿の健勝を心より祈念致す」
おーい……
勝手に話を……いや、断ってくれるのはありがたいけど勇者て……
完全に蚊帳の外に追いやられた俺だったが、
「ねぇねぇレイド君、どんな病気なの?」
ある意味では純粋、空気を読めないのか読まないのか、そう疑問を投げるのはメイさん。
病気の類は個人の問題と深入りしてこなかった姉と違ってこっちは随分と自由奔放な妹の様だ。
「……ちょっと呪われちゃってね」
一瞬隠し通そうかとも思ったが、命の恩人であり故郷の為に戦力を探しに来た二人に対し、本当の意味で納得してもらうには包み隠さず伝えた方が良いと判断した。
俺の事を思って具体的には答えなかったミーアには申し訳ないが、これも命の恩人に対する礼儀のひとつだと思って納得してもらおう。
「どんな呪い?」
「魔人の呪い」
「誰が呪いを解くの?」
「聖女をこれから探すんだ」
矢継ぎ早の質問。
メイさんは意外と聞き出し上手なのかもしれない。
「それなら治せるよ」
「そう、だから俺は呪いを解くために…………え!?」
この子、今何て言った?
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