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21 腹ぁくくりなさいっ!

「ごちそうさまでした」


「おそまつさまでした。お口にあいましたか?」


「あぁ、生き返った気分だ」


「ふふっ、大袈裟ですね。でもそう言って頂けて嬉しいです」


 そう言って微笑むミーアが作ってくれたのは雑炊。

 細かく刻まれた野菜とほのかに香る出汁で仕上げたシンプルな一品。


 三日間空だった胃に負担をかけまいと作ってくれたそれは、空腹の俺の腹に直撃し見事なまでに終始無言でがっついてしまうほど美味いものだった。


 五臓六腑に染みわたるとはまさにこの事なのだろう。


 それにしても、ギルドの受付としてのミーアは知っていたが私生活でもここまで完璧とは……。


 自信の美貌に驕らず駆け出しからベテランまで分け隔てなく接する愛嬌。

 テキパキと仕事をこなし、高い知見を持って捌く事務処理能力。

 荒くれ冒険者に怯む事無い胆力。


 それが俺の知っているギルドでのミーア。

 しかしここに来て色々と知らない面が一気に増えた。


 清潔感のある部屋、可愛らしいエプロン姿、料理上手なところ。

 目の前に在る事象だけでも嫁に来て欲しい人ランキングぶっちぎりのトップになりそうな勢いだが、今はそこに目を瞑り、俺は気になっていた事を口にする。


「一応確認なんだけど、嫉妬の魔人(ルクセリア)は……」


 ここまでミーアが緊張感も無く過ごしてる事から倒したとは思ってるが……。


「無事消滅したようです。瘴気も消えたので間違いないと思いますが……実は私も最後まで見届けてなくて……」


「どう言う事だ?」


魔葬焔(レーヴエンド)の反動で一時的気を失ったようで……レイドさんが落ちていくのを助けようと追いかたんですが、その途中で私の意識も落ちたみたいです」


「マジか……その反動ってのはもう大丈夫なのか?」


 恐らくは俺と同じような症状だったのだろう。

 今でこそ顔色は良いが……


「はい、久しぶりの実戦で急に大規模魔法を行使して魔力切れを起こしただけなので、もう魔力も回復して元気ですよ」


「良かった……無理させてすまない」


「いえ、私は全然元気なので大丈夫ですよ。それで……落ちてくる私達を受け止めて助けてくれた方達がいるんですが……実はその方たちがどうしてもレイドさんと私にお願いしたい事がある、と仰っていて……」


「助けてくれた人からのお願い?」


 命を助けたお礼に金をよこせてきな?

 まぁ、それならそれで払うけど。

 命の恩人にケチるのも嫌だし。


「はい、詳しい事はまだ私も聞いてないのですが、どうしても話がしたいと。レイドさんの目が覚めるまで近くの宿屋にいるそうです」


 なるほど、何の要件かは知らないが命の恩人のお願いとあれば無下には出来ないな。


「わかった。俺は会ってみようと思うけど……ミーアはどうする?」


 既にミーアと恩人たちは顔見知りの様だが、俺が会うからと言ってミーアを強制するわけにもいかない。彼女が嫌であれば当然俺だけで行くと言う選択肢もある。


「私もご一緒します。では明日の夜、私は仕事なのでそれが終わってからでもいいですか?」


「もちろん。俺はいつでも良いよ」


 ギルドの仕事が忙しいミーアと実質無職の俺。

 どちらの事情を優先すべきかは考えるまでもないだろう、と結論付けたところで、



「あの……私からも聞きたいことが……」


 おずおずと遠慮がちに口を開くミーア。


 ()()


 ミーアの意図が直感的に分かる。

 と言うか普通は気になるはずだ。


 なので俺は、端的にありのままを伝える事にした。


「暴食の魔人グラトニーに呪われてるみたいでね、ちなみに余命はあと一年。あ、でもこれから聖女を見つけて呪いは解いてもらう予定だから特に問題は…………ってミーア!?」


 対面で座っていたミーアはガタッと椅子を弾くように席を立つと、一足飛びで俺を抱きしめてくる。


 その突飛な行動に驚きはしたものの、心配してくれるのは素直に嬉しい。


 問題は座っている俺の顔と立っているミーアの胸が真正面にある事で……。


「息が……出来ない……」


 柔らかい二つの何かにうずまる顔。

 締め付ける様に強く抱きしめるミーア。


 あれ? ここが天国か?


「魔人の話を聞いて少しだけ覚悟はしてました……でもあと一年だなんて……」


「……っだ、だから聖女さえ見つかれば解除は出来るはずなんだって。そんなに焦る事でも無いよ、心配してくれてありがとう」


 断腸の思いでミーアを引きはがす。

 叶うなら一生こうして……って、何を考えてるんだ俺は……。


「レイドさんはこれから聖女を探しに行かれるんですか?」


「あぁ、まずは呪いを解く。それが俺の最優先だ」


 不安気な顔でコクリと小さく頷くミーア。

 今更だが余命の事は言わない方が良かったかもしれない。

 余計な心配をかけてしまったようだ……。


「呪いが解けたら会いに来るよ」


 そう言って俺は席を立ち、


「さて、色々と世話になった。本当にありがとう」


 感謝の気持ちを伝えるために深々と頭を下げる。


「レイド……さん? どこかに行くつもりですか?」


 俺の行動に驚き過ぎて呆けるミーア。

 いつも笑顔を崩さない彼女の素面はなかなか珍しい。


「あぁ、おかげで体力は戻ったし、三日も寝てたんだ、これ以上は迷惑掛けられないよ。明日はミーアが終わる頃に……「駄目です! 行かないでください!」」


 縋るように抱き着いてくるミーアは今までで一番力強かった。


「まだ本調子じゃないですよね? それにこんな時間じゃ宿も空いてないですよ? 酔っ払いも多くて危険です」


 宿は空いてると思うけど……。

 それにいくら俺でも酔っ払いぐらいは対処できますよ?


「ミーア、落ち着い「呪いと余命(あんな話)を聞かされて、レイドさんを一人になんかさせられません!」……」


 有無の言わせぬミーアの迫力。

 それに抗う術は……無い。


 正直に言えば、ミーアと居るのが辛い。


 俺に好意を寄せてくれるのは嬉しい。


 美人で気が利いて優しくて料理上手。


 おおよそパーフェクトなこの子とこれ以上一緒にいれば俺の鋼の意志が紙屑の様に決壊するのは目に見えている。


 故にこれは戦略的撤退。


 俺がここで涙を飲めば、誰も傷つかない。


 俺がここで立ち去れば、全て上手くいく。


 俺がここで……、


「せめて、今日だけは一緒に居てください」


 途端にミーアのチカラが抜けていく。

 そして俺に身を任せる様にもたれ掛かる華奢な体。


『おやおやおやっ!?』


 大人しかったエクレールが息を吹き返したかのように騒ぎ出す。


『これはまさかの』


 おい、やめろ……


『ひょっとしてひょっとしちゃうんじゃないっ!?』


 たのむ、それ以上は言わないでくれ……


『腹ぁくくりなさいっ!』


 俺の鋼の意志は決壊寸前……





『れっつ第2ラウンド、開始だぜぇぇぇぇぇぇぇー!!』


 

【作者からのお願い】

お読みいただきありがとうございます!

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