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2 大賢者 エクレール・アドルノート

『ふぁぁぁー! まさかこんな形で封印が破られるとはぁ! 長生きしてみるもんだねぇ! あ、私はもう死んでるか! キャハハハハハハッ!』


 !!?


 突如として聞こえてきたバカみたいな甲高い声に俺はハタと意識を取り戻す。

 俺は今……何を……。


『ちょっとぉー、バカみたいはひどくない? こんな知的でグラマラスでセクシーで知的な大賢者様を捕まえといてその言い草は見逃せませんなぁ。こいつぁちぃっとばかしお灸をすえる必要がありそうだぜ!』


 パンッ!


「痛っ……」


 子気味良く乾いた音の出どころは俺の右頬。


 は? え? なんで?


 俺の右手が勝手に動いて勝手に頬を叩いて……。


 なんだこれは?


 それにさっきから聞こえる声は俺の頭の中から?

 いや、その前に俺はリリアに借りたペンダントを食ったのか?


 何が起きてる?

 俺は気でも狂ったのか?


『おーけーおーけー。落ち着きたまえ少年。混乱している頭では何も解決しないよ。まずは深呼吸からだ。私の言う通りにしてごらん、まずは吸って~』


 …………スゥー。


『吐いて~』


 フゥー。


『もういっちょ吸って~』


 スゥー。


『もっと吸って~』


 スゥー。


『おまけでワンモア吸って~』


 ス……


『まだだ! まだ君なら吸える! 吸い尽くせ! 諦めるな! 限界を超えろぉぉぉぉぉ!!!』


 ゥ…… ブッハッッッ!!


「って何やらせんだよ! 死ぬ一歩手前じゃねぇか!」


 危ない危ない……じーちゃんとばーちゃんが川の向こうで手振ってたぞ。


『頭は冷えただろ?』


 まぁ……おかげさまでな。


『なに、大賢者たるもの迷える子羊の世話など造作も無い事さ』


 そうですか……。で、アンタは結局何なんだ?


『おや、そう言えばまだ名乗っていなかったね。聞いて驚け! 私こそが伝説の大賢者エクレール・アドルノートその人なのだ!!』


 大賢者エクレール・アドルノート……。

 リリアの先祖であり魔を極め、伝説の勇者と共に大魔王を倒した英雄の一人。

 その名を知らぬものはいない程の歴史的偉人。


『そうそう、良く知ってるじゃん。でもちょっと補足ね、救国の英雄して絶世の美女であり世界の(ことわり)を解きし者、が正解かな。まぁ気軽にエクレールちゃんと呼んでくれたまえ』


 大賢者……本物なのか?


『おっ、意外と用心深いねー。でもそうやって物事の真意を見極め様とする姿勢は好きだよ。短絡的な脳筋ヤローは滅ぶべきだし』


 ……脳筋ヤローになんか恨みでもあるのかよ?


『恨み? 恨みはないさ、恨む前に滅ぼしたから。強いて言うならもう少しじっくりと地獄を見せてやりたかったってところかな』


 アンタが危険人物だって事は理解したよ。


『ひどい! こんな清廉無垢な乙女に対してそんな……! しくしくしく……』


 話が進まないから嘘泣き止めて貰っていいですか?


『つれないなぁ。こちとら数百年ぶりのシャバなんだぜ! もっと楽しく行こうぜ! ヒャッハァァァー!!』


 ……アンタと話してると疲れてくるよ。

 だいたい本物の大賢者なら今アンタが言ったように数百歳は優に超えている。

 クソババァじゃねぇか。


『あ゛ぁん゛? んだとごらぁクソガキィィ!!! もっぺん言ってみろや゛ぁぁぁぁ!!! こちとらテメェの体は使えんだ! 今から全裸で逆立ちして街中歩き回ってもいんだぞごらぁ!!』


 !?

 手が勝手に服を……!

 ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!


 許してくださいエクレール様!!


『……今回だけだぞ? 次は無いと思え』


 御意。


『で、いい加減本題に入りたいんけどもういいかな?』


 アンタが無駄口叩いて――


『何か言ったか?』


 ――何でもないです! 是非お話を聞かせてください!


『良い心がけよ。そうね、どれから話しましょうか……まずは私が君の頭の中にいる理由からにしましょう』


 頼む、俺としてもこの意味の分からない状況になった原因は把握しておきたい。


『ま、それ程難しい話でも無いわ。私は君がリリアに借りたアドルノート家のペンダントに封印していた残留思念とも呼ぶべき存在。君がペンダントを食べた事で封印が解かれ今に至るって感じよ』


 あぁ……やっぱ俺ペンダント(あれ)を食ったんだな……。


『本来の目的としては可愛い子孫が困った時の為に一度だけ使えるお助けアイテムとして自分の記憶を封印したんだけどね。まさか赤の他人が封印を解くどころか、ガリガリ食ってその体に定着するなんて予想外にも程があるわ』


 なんかすみませ……


 ん?


 待って?


 定着?


 定着って言った?


 定着って事は……


『そう、私と君は一心同体! 二人で一つ! 表裏一体! 運命共同体になったのだよ! ヒャッホッー! こんな美少女と一緒だなんて君は果報者だね!』


 はいぃぃぃぃ!?

 ちょっと待て!


 これは一時的なもんじゃないのか?

 さっきは一度だけ助けるみたいな事言ってたよな?


 一度助けたら終わりじゃないのかよ?


『あ、それは正規手順の話ね。本当は代々受け継がせてる解除の儀で私の残留思念が顕現できるのは僅かな時間だけなんだけど、君が直接体内に取り込んで君の魔力も勝手に供給されるから消えようが無い! これは大賢者としてお墨付きの事実だよ!』


 まじかよ……。

 一生……なんだよな?


『死が二人を別つまで共に生きようではないか! あ、私の体はもう死んでるけど、テヘッ!』


 テヘッ、じゃねぇよ!

 俺のプライバシーはどうなるんだよ!?


『プライバシーは無いね、諦めな』


 そんな殺生な……。


 だいたいアンタも一生俺の体の中なんて嫌じゃないのか?


『それがそうでもないのよね、私としてはこんな形でも現世に顕現できるなら楽しみの方が強いぐらいだし。体はレイドのだけど好きに使えるし、これだったら()()()()()()()()も出来る気がするしさ』


 やり残した事?


『それはこっちの話、気にしなくて良いわよ』


 いや、俺の体を使うんだろ?

 なら気にするだろ普通。


『ふむ……初めて君の口から正論を聞いた気がするがこの話はここでお終いだ。それよりも君がペンダントを食った理由、そっちの話を聞きたくない?』


 うっ……

 確かにそっちの方が気になる……。


 そもそも俺はあの時自分の意志で食べたつもりは一切無い。

 気がついたら咀嚼し飲み込んでいた、が正しい表現だ。


 普通に考えてあんな真鍮製の物体を食べようなんて、想像すらした事の無い暴挙と言える……。


 分かった、アンタがやり残した話は一旦置いとこう。

 でも俺の体なんだ、変な事はしないでくれよ?


『分かってる、傷つけたりはしないわよ。で、君がペンダントを食べた理由は簡単で、君のお腹が空いていたからだ』


 はい?

 お腹が空いてたから?


『冗談だ』


 分かり辛ぇ! 大賢者ジョーク分かり辛ぇぇぇ!


『おかしいわね? 社交界ではこの手のボケは鉄板だったのに……。まぁいいわ、話を戻すと君がペンダントを食った理由は二つ。一つはスキル【採取】が覚醒に近づいている事。もう一つは君が<暴食>に呪われている事。この二つが奇跡的に重なった結果ね』


 …………。


 覚醒?



 暴食?



 こいつは一体何を言ってるんだ?……



 エクレールの言葉に、俺はしばらく呆然とする事しか出来なかった。

【作者からのお願い】

お読みいただきありがとうございます!


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