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18 side勇者 ~リリアの憂鬱と崩壊計画 その3~

※リリア視点です

 勇者(笑)の思考に辟易させられましたがある意味ではこの状況にも意味はあります。


 どれだけレイドが上手く立ち回っていたのか。


 それをこいつらにわからせるいい機会なのでもう少し静観しま……、


「一旦引こう! ガリューゼ、殿(しんがり)を頼む!」


「待ってくれよ! その前に俺もポーションが欲しいんだが」


「僕が持ってるわけないだろ! 自分でどうにかしろ!」


 うわぁ……。


 撤退宣言早っ。

 もう少し頭を使って戦えば善戦出来るはずですけど。


 しかもあのクズ勇者、傷ついた仲間を置いて我先にと逃げていきましたよ。


 あなた達の事が大嫌いな私でさえ思いついても実行しなかった事をナチュラルにやってのけましたね。


 流石は勇者(笑)。凡人では測れない価値観をお持ちで。

 それに道を知らないやつが先頭で逃げるなんて迷惑の極み。


 本当にバラバラになって帰れなくなりますよ?

 それならそれで大歓迎ではありますが。



 はぁ……。


 仕方ないですね。


 大事な魔力をこんな奴らの為に使うのは癪ですが……。


氷結弾(フリーズバレット)!」


 羊たちの頭上に現れた無数の氷塊。

 人の頭ほどの大きさを持つ鋭利なそれは高速で降り注ぐと、無情なまでの殺傷力でキラーシープをいともたやすく絶命させます。


 攻撃範囲に無能ゴリラ(ガリューゼ)も混じっていましたが気にしたら負けです。


「流石リリア! 見事な魔法だよ!」


 キラーシープが全滅し安全が確保された途端、踵を返してのこのこと戻って来たゴミからの称賛。


 反吐が出ますね。


 こいつにはプライドがないのでしょうか?


「皆、少し休憩にしよう」


 そう言って我先にと腰を降ろす汚物。

 休憩って……幼児以下のチャンバラやって逃げただけのクセに休憩だけは立派にとるんですね。


「痛ててて……誰かポーションもってないのかよ?」


 哀れ血まみれのゴリラさん。

 そこまで深い傷もなさそうですし、唾でもつけとけば治りますよ。


「持って無いわよ。それよりアンタ水持ってない? のど乾いちゃった」


「僕も水を貰おうかな」


「俺が水なんて持ってるわけ無いだろ」


「おいおい、水の携帯もしていないのかい? ダンジョンを舐めすぎじゃないか? 状況によっては泊まり込みになる事だってあるんだぞ?」


 何の準備もして無い奴がよくもまぁ偉そうに。


「ポーションも水もいつもはレイドが人数分準備してくれていましたからね。ちなみにそこのキラーシープはどうします? いつもはレイドが解体してくれてましたが解体できる人はいますか? いませんよね?」


「「「…………」」」


 あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!


 クズ共のこの苦虫を噛み潰したような顔!


 なんて素敵なんでしょう!!


 ゾクゾクします。

 そうやって少しずつレイドの偉大さを噛み締めて後悔なさい。


「……ま、まあ、準備ぐらいうっかり忘れる事はあるよな」


 ほう?

 最初から考えもしなかったクセに忘れたとのたまうんですかこのゴリラは。


「そ、そうだね。解体も……汚れるし今回はやめておこう」


 ほうほう。

 せっかくの素材を汚れるからと諦めるんですかそうですか。

 この勇者(笑)こそ本当に冒険者家業を舐めてますね。


 勇者パーティーとは呼ばれていますがそれはあくまで呼称でしかなく、実際には普通の冒険者と何も変わりません。


 特にギジル(このゴミ)の場合は親の威光で勇者と名乗っているだけのハリボテ勇者。


 取り立てて特別スキルや能力もなく、金の力で世間に勇者と認識させただけの愚図になります。


 最初の時点でそれに気づく事が出来ていれば、わたしもレイドも絶対にこんなパーティーには入りませんでしたが、良くも悪くも田舎育ちのわたし達は貴族の風評操作を見抜けず加入してしまいました。


 まあ、あの頃はこのゴミ共も今ほど酷くはありませんでしたが……と、少し思考が反れましたね。


 普通と変わらない以上、収入源はクエスト達成での報奨金や素材を売る事で資金繰りをしています。


 そんな当たり前の事すら理解出来ていないなんて……。


 いや、ひょっとして理解は出来ていてもレイドが完璧にこなしていたが故に、誰かが勝手にやってくれると高を括っているのかもしれません。


 ある意味ではレイドも罪な男です。

 流石は私のレイド、とも言えますが。


「ね、ねぇ……あれって……」


「なっ!? キラーシープの集団!?」


「こっちに向かって来るぞ!」


 脳筋ビッチ(セルカ)が震えながら指をさした先。

 そこには地鳴りを上げて猛進してくる大量のキラーシープ達。


 何をそんなに驚いているのでしょうかね、このボンクラ共は。


「血の匂いに誘われたみたいですね。こんなところで休憩するからですよ」


 目の前には先ほど倒した血だらけのキラーシープ。

 こんなところで休憩だなんて、駆け出しの冒険者でもしませんよ?


「で、でもレイドが解体してる時はモンスターなんて寄ってこなかったじゃないか!?」


 脳ミソ皆無の勇者(笑)の割には中々良い着眼点ですね。

 レイドの名前に免じて説明してあげましょう。


「それはレイドが自前で匂い消しの香をたいていたからです。それにまさか今まで運よく休憩中は襲われないとでも思っていたんですか? 常にレイドがモンスターの位置や周りの環境を確認して安全な場所を選んでくれていたから安心して休めていたんですよ?」


「「「…………」」」


 良いですね! 良いですね!

 その絶句した顔も非常に滑稽で良いですよ!


 わたしとしてはそのアホ面をもう少し嘲笑いたいところですが……、


「いいんですか? キラーシープの大群がもうそこまで迫って来てますよ?」


「「「……!」」」


 わたしの言葉に我に返った三馬鹿でしたが時すでに遅し。


 無様に慌てふためき逃げようとしましたが多勢に無勢。


 めでたく魔物の餌食となるのでした。


 おしまい。





 と、なってくれればどれほど気分が良いか……。

 人生はそう甘くはありません。


 まぁ流石に見殺しは気が引けますからね。

 不本意ながら慈愛の心も持ってわたしがキラーシープを殲滅してあげましたよ。


 とは言えいくらわたしでもあの大群を相手に一人で対処するのは厳しかったので、我先にと逃げようとした三馬鹿の足を凍らせ、羊さんに遊んでもらっているところをまとめて吹き飛ばしました。


 なかなかどうしてサンドバックとしてみれば優秀な人材たち。

 思わぬところで良い使い方を見つけました。


 今後も私のストレス発散……では無く魔物討伐の為に役立ってほしいものです。



「どうします? まだ探索を続けますか?」


 わたしとしてはいい加減お守りも疲れました。

 なによりこいつらの顔を見るのが限界で吐きそう。


 四人パーティーではありますが実質的に孤立しているわたしの心はひどく寂しい。

 頼れる人のいないダンジョン探索は思った以上に心細いです。


 どれだけ強がってみせても所詮は17歳のか弱い乙女。


 疲れと寂しさでイライラが募ればついうっかり三馬鹿を抹殺……じゃなくて、サンドバックにするとも限りません。


 レイドがいないだけでここまで情緒不安定になるなんて……。

 わたしは自分が思ってる以上に弱い人間でした。


「いや、今日はもう疲れた……街に戻ろう」


 サンドバックにしかならないクセに疲れたとは生意気ですね。

 疲れたアピールはモンスターの一体でも倒してから言って欲しいものです。


 せっかく人がセンチな気分に浸っていたのに。

 どうしてこうも綺麗に私の神経を逆なでするのでしょうか?


「そうだな、俺も傷だらけだしこれ以上は無理だ」


「なんだかどっと疲れたわ。早く帰ってお風呂に入りたい……。そうだ! ギジル、今日は一緒に入りましょうよ!」


「フッ、そうだね。たまには二人で入るのも悪くないかな」


 あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁん!?


 二人まとめて地獄に叩き落としてやろうかごらぁぁぁぁァッ!!!


 クソの役にもたって無い癖にヤル事だけは一人前だな!


 サカる事しか頭にねぇのかよ!


 ちったぁレイドの偉大さを噛み締めて反省しやがれってんだ!


 ここで羊の餌にしてやってもいんだぞクソ虫がぁぁぁぁぁぁぁ!!



 …………。


 ふぅ。


 いけませんね、わたしの疲労もピークの様です。


 ここは速やかに撤退が吉でしょう。



「生ゴ……皆さん、それでは街に戻りましょう。わたしが先導するのでしっかりとついて来てくださいね」



 なんだかんだ言いつつわたしは優しいのです。


 いくらボンクラ集団とは言え簡単に死なせるつもりはあません。


 当面は生かさず殺さず飼いましょう。


 こいつらには肉体的な死で楽になるより、社会的な死でレイドを追放した罪を償わせようと思います。


 今日の様子を見る限り放っておいてもこのパーティーは勝手に崩壊しそうではありますが、そうなる前に徹底的に評判を落としておきたいところです。




 楽しみですね、全てを失った勇者(笑)の絶望した顔が。


 そしてレイドに泣き縋り地に頭をこすり着けて許しを請う。


 想像するだけで笑いが抑えきれません。


 これから忙しくなりそうです。





 だから……






 ごめんなさいレイド。






 わたしまだ、あなたの元へは行けません。



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お読みいただきありがとうございます!

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