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17 side勇者 ~リリアの憂鬱と崩壊計画 その2~

「なんなんだよあの態度! せっかく勇者である僕自ら誘ってやったのに!」


 激高するように地団太を踏む生ゴミ。


 もうダンジョンへついたのにいつまで引きずれば気が済むのでしょう?


 怒れば誰かがどうにかしてくれるとでも思ってるんですかね?


「それになんだこのゴミみたいな依頼は! ちっとも報酬と危険度が釣り合っていないじゃないか!」


「その通りだ! ギルドは俺達の事舐めてんじゃねぇのか!?」


「あのふざけた受付嬢の事もあるし、ここらへんで一発ガツンとお灸を据える必要がありそうね!」


 ゴミはお前らだろ。


「昼に残ってる依頼はそんな物ばかりです、今まではレイドが朝一で選定してくれてましたけど。明日からは誰かが代表でギルドに行きますか? わたしは朝弱いので無理ですけど」


 わたしの建設的な意見に途端に大人しくなるゴミ達。

 きっと自分は行きたくないから他の誰かが手を上げるのを待っているのでしょう。


 本当にクズの思考です。

 ま、それを読んでわたしは無理だと先手は打ちましたが。


「……その件は帰ってから考えよう。それよりもダンジョン攻略だ、今日は地下七層を探ってみよう」


「おう!」


「そうね!」


 都合の悪い話を棚上げし、表面上は攻略に意欲を見せる彼らですが()()()、歩みを進めようとしません。


「どうしたんですか? 入り口に留まっていても迷惑なだけですよ? 七層へ進みましょう」


 わたしの至極真っ当な発言ですが、困った事に誰一人として足を前に出す者はいませんでした。


 まぁ、当然でしょうね。


 彼らは誰一人として()()()()()()()()のですから。


「そ、そうだ! マップは!? マップはどこにある?」


 天啓を得た様な勢いで汚い口を開きますがこいつは過去に自分で言った事を覚えてないんですかね?


「マップは駆け出しが使う物で必要無いと言ってたじゃないですか。いつもはレイドが道を覚えて引率してくれてましたけど、今後は必要そうですね」


「……い、いや。大丈夫さ。レイドに出来てたんなら僕にも出来るよ。皆ついて来てくれ」


 なにが大丈夫なのでしょう?

 さっそく見当違いの方向に歩いてますけど?


 わたしは道を覚えているので最悪迷う事はありませんが、時間の無駄以外の何物でもありません。


「そっちじゃありません。向こうです」


「わ、わかっていたさ……あっちにモンスターの気配がして気になっただけだよ」


 言い訳を並べる暇があるならさっさと歩けよ。


 このゴミクズが。







「さぁ、狩を始めようか!」


 なに偉そうに仕切ってんですか?

 誰のおかげで七層(ここ)までこれたかわかっていますか?


 指示を出さなければすぐにあらぬ方向へと行く愚図の先導をする身にもなって欲しいです。

 これだけでわたしの体力の大半は奪われました。


「ま、この階層なら楽勝でしょー」


「そうだな! 今日は時間も無いが明日は十階層に行っても良いな!」


 そしてこの能天気二人が道中でもうるさくてたまりませんでした……。

 いつもはレイドと話していて気になりませんでしたが、一人になると不快でしかありません。


 唯一幸いなのは今日の目的が七階層と浅めだったこと。


 ダンジョンは基本的に地下へと続く階層ごとにわかれています。

 深くなればなるほどモンスターは強くなりますが、そのぶん良い素材も手に入ります。


 今いるダンジョンは「リーンゴーウダンジョン」、わたしたちが定住している街がリーンゴーウと言う名前なのでその近くに在る事から命名されたそうです。


 単純ですが分かりやすくて良いですね。

 どこぞの脳ミソがふやけた勇者よりはすこぶる好感が持てます。


 ダンジョンは魔王が作った「魔族の為の拠点」。


 なのでここを放置すれば際限なくモンスターは増え、いづれはダンジョン外にも出てくる危険があるため冒険者は命を懸けてダンジョンを攻略します。


 そして最奥にいるボスを倒せばダンジョンは消滅し脅威は消え去ります、そうやって各地にあるダンジョンを踏破し力をつけて魔王討伐に挑むのが正しい勇者としての在り方なのですが……、


「焦る事は無いさ、僕らはゆっくり進もう」


 当の勇者に全くやる気がみられません。


 本来であれば現状最下層の十二階層を先陣切って攻略するのが勇者の役割なのですが、この男は今日七階層を選びました。


 敢えて理由は聞きませんでしたが、ひょっとしたらレイドがいなくなった事で無意識の内に安全策を取ったのかもしれません。


 こういう奴に限って無駄にしぶとく生き延びる嗅覚だけは高いですからね。



「さっそくお出ましだ。皆、援護を頼む!」


「おう!」


「任せといて!」


 愚図と愚図の部下が張り切りだしました。

 良い心がけです。

 戦闘でくらい役に立たなければ本当に蠅以下になりますからね。


 相手は五体のキラーシープ。


 白いもこもこに覆われた可愛い羊、ではなく返り血を浴びた様な赤黒い斑模様と鉄の盾なら余裕で貫通させる二本のねじれた角がチャームポイントの大きな羊さんです。


 強敵ではありませんが油断していい敵でもありません。

 まあ、階層も浅いですしそこまで苦戦する事は……、


「おいガリューゼ! ちゃんと引き付けろよ」


「わかってるよ! ギジルこそ前に出過ぎだ」


「ガリューゼ! こっちにも二匹来てるんだけどぉ!?」


「ちょっ! お前ら! 俺になすりつけんなよ!」


「タンクなんだからそれぐらい引きつけなさいよね!」


「セルカ、僕がスキルでまとめて吹き飛ばす、フォローを頼む!」


「はぁ~い! セルカちゃん参上!」


「おい! こっちも手伝ってくれよ!」


「痛ったーい! ちょっと血が出ちゃったじゃない! ポーション早く!」


「はぁ!? 俺が持ってる訳無いだろ? それよりも早く手伝ってくれよ!」


 …………。


 なんということでしょう。


 予想はしていましたが予想以上に酷いです。


 バタバタと子供のチャンバラごっこ以下。


 どいつもこいつも自分勝手に動いて連携もなにもあったもんじゃありません。


 どれだけレイドが全体を把握し、攻守のバランスをとって動いていたのか身に染みてわかります。


 レイドがいれば一分かからず倒せていたモンスター。


 それが途端にこのザマです。

 滑稽過ぎて笑う気にすらなれません。


 一瞬、このままこいつらを置き去りにしてわたしだけ帰る選択肢も浮かびましたが、流石にそれは目覚めが悪いですね。


 やるならもっとスマートにすべきです。



「クッ……この羊共前に戦った時より強くなってないか?」


「まさかこいつら……変異種なんじゃないの!?」


「確かにこの強さは異常だ。僕の剣技が全然当たらないなんておかしいと思っていたんだ!」


 …………?


 は?


 いやいやいや。


 どうみても変異種なわけないでしょ!

 今まで散々討伐してきた通常種ですから!


 確かに稀ではありますが突然変異して狂暴化する魔物はいます。

 いるにはいますが……


 どれだけ都合の良い解釈するんです!?

 むしろその発想は天才的過ぎて一瞬なにを言っているのか理解できませんでした。


 自分達が弱いのではなく相手が強いから仕方ない?

 レイドのおかげで戦えていた事に気づかないどころか、通常種を変異種呼ばわり。



 改めて理解しました。



 凡人のわたしではこのゴミ共の思考を理解する事は絶対に不可能なようです。



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お読みいただきありがとうございます!

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