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14 もういっちょおぉぉ!

「ごめんミーア。少しばかり油断した」


「……レイドさん! 良かった生きてた……」


 辛そうな顔を一変させ、瞳を潤ませたミーアが安堵の息を漏らす。


「ここからはまた俺が引き付ける。無理させてすまなかったな」


 ミーアへ謝罪を送りつつもルクセリアへの警戒は怠らない。

 この魔人は面白いものでも見るかのように、ニヤニヤと笑うだけで動く様子がないのが不気味だ。


「いえ! それよりも本当に無事でよかったです」


「結構ボロボロだけどな……。ミーアはあとどれくらいで溜まりそうだ?」


「あと1分あれば……」


 あと1分か……。

 さっきは2分で死にかけた事を考えれば、その半分なら死ぬ事は無いだろう。


 何の根拠も整合性も無いけど。


「分かった。確実に溜まりきるまで無理はしないでくれよ?」


「はい、レイドさんも死なないで下さいね」


 ミーアの言葉に頷きを返すと、俺は静観していたルクセリアへと口を開く。


「待たせたか?」


「いいぇ~いいものを見せてもらったわ。あなたの前であの小娘を殺したら面白い事になりそうねぇ」


「趣味が悪いにも程がある。どんな思考回路でそうなるんだよ」


「私はね、まだ希望はあると信じているその目……それが絶望に変わる瞬間がたまらなく好きなのよ!」


 言葉と同時、その目に狂気を宿らせて一瞬で間合いを詰めてくるルクセリア。


 もっと時間を使いたかったが仕方ない。


『エクレール!』


『合点承知の助ぇ!』


拘束光帯(バインドウィップ)!」


 勝手に動く手と口に違和感を感じつつ、俺の手から放たれたのは眩い輝きを放つ光の帯。

 それは高速でルクセリアに巻き付くと、いとも簡単にその自由を奪い去ってしまう。


「なっ!? くっ……これは……」


 驚愕に目を見開くルクセリア。

 まさか自分から突っ込んで来て拘束されるとは夢にも思ってなかっただろう。


「返してもらうぞ」


 幸いと刺さったままの短剣を引き抜き無事回収成功。

 このまま攻勢に出……たい欲が顔を出すが、残念ながら帯の光が次第に弱まっていく。


 大方の予想通り5秒程度の短い拘束時間。

 最低限の成果は得られた……が、体中が重くて怠い。


 瘴気の感覚とはまた違う体の不調。

 恐らくエクレールが言っていた「全魔力を使う」の意味、人生初の魔力切れによる疲労感が俺の体に襲いくる。


 マズいな……。

 ここまで悪影響が出るとは思ってなかった。


 こんな状態じゃまともに……、


「あなた……何者なの?」


 俺の思考を遮って、ルクセリアは心底不思議そうな顔で呟いた。

 光の帯も消え、てっきり怒り散らしてくるかと思えば予想外のリアクション。


「何者って言われてもな……強いて言うなら昨日パーティーをクビになってギルドからもつまはじきにされた現在無職の自称冒険者。最底辺の一般人だよ」


 自分で言ってて虚しくなる。


「ふざけないで。さっきの拘束魔法は自称冒険者に出来る範疇を超えているわ。何を隠しているの?」


 流石は魔人と言うべきか?

 恐らく想定外の魔法に警戒レベルを上げたのだろう。


「仮に隠してるとしてもお前に教える義理は無いだろ?」


「……それもそうね。ならいいわ。グラトニーのついでにあなたの体も調べるとしましょう」


「いい加減それは諦めてくれない? 俺にその気は……無いんでね!」


 先手必勝。

 止まっていた戦いの時間を再び動かす。


 ダラダラと時間を潰してやりたいが、それはそれで体が重くなる一方だ。

 もう数十秒もすればミーアの準備も整うはず。


 ならば自分の気合と根性に期待して死ぬ気で攻めてやろうじゃないか。


「ハァッ!」


 空中を蹴るように一足飛びでルクセリアとの間合いを詰めると、全力で短剣を振り下ろす。


「いきなりビックリするじゃない」


 余裕を崩さぬルクセリアは軽くあしらう様に爪で受け流すが、


「まだまだぁ!」


 受け流された勢いに逆らう事無く、俺は体を半回転させるとその勢いのまま腕を狙って薙ぎ払いを繰り出す。


 キィンッ!


 固い金属音を響かせてルクセリアの爪と俺の短剣が火花を散らす。

 一瞬の硬直から鍔迫り合いへ。


 力では圧倒的に不利。

 俺は張り合う力を唐突に抜き、動揺を誘発させる。


「っ!?」


 読み通り僅かにバランスを崩したところで、すかさず俺は短剣の柄頭をやつの手の甲へと振り下ろす。


「ヒギィッ……!」


 奇妙な呻き声を上げて苦痛に顔を歪めるルクセリア。

 このチャンスを逃す手はない。


「もういっちょおぉぉ!」


 と言いつつ隙だらけのルクセリアへ柄頭の連続殴打。

 肩、肘、こめかみ、眉間、隙があればどこだっていい。


 そこには技術的な駆け引きも洗練された動作も存在しない。

 あるのはただただ力任せの暴力のみ。


 斬りつけた時よりも激しく痛がるそぶりを見せる事から、こいつは斬るよりも殴った方が有効だったのかもしれない。


「いい加減になさいっ!」


 調子に乗ってガンガン叩きつけていたところで、堪忍袋の緒が切れたと言わんばかりの咆哮と溢れ出す瘴気。

 それはまたしても俺の周りを取り囲む様に密集し始める。


「くっそまたかよ……」


 俺は高度を下げて瘴気の渦から脱出すると、ルクセリアから大きく距離を取る。


 根本的な対策は無いが逃げてしまえばどうと言う事は無い。

 問題はあの濃さの瘴気を出されては迂闊に近づけない事だ。


「さて、どうしたもんかね……」


 俺が次の一手に考えを巡らせた直後、



「レイドさん! 準備出来ました!」



 ついに、待ち望んでいた声が耳へと入った。


【作者からのお願い】

お読みいただきありがとうございます!

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