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13 ラッキーボーイ

『待ってくれ……流石にそれは……』


 エクレールの脳筋思考に待ったを掛けようとした直後、


「あらぁ~もうダウンしたの? そんなんじゃつまらないわ。もっと楽しませてよ」


 対策を考える暇もあらばこそ。

 ルクセリアが掴んだ腕を目線より高く上げると、俺はさながら釣り上げられた魚の如くブラリと垂れ下がり状態となる。


 抵抗しようにも体に力が入らない。

 この短期間で瘴気が体中を巡ったのか頭痛や耳鳴り、不整脈も酷く今すぐにでもベッドに飛び込みたい衝動に駆られる。


()()で少しは目が覚めるかしら?」


 現実逃避をし始めた俺の耳に響く醜悪な声。

 目の前ではルクセリアがドス黒い瘴気の塊を纏わせた貫き手を振りかぶる。


 っ!?

 あれは……危険すぎる。


 意識も薄れだした脳が覚醒する程に死を連想させる圧倒的なまでの禍々しさ。

 生物としての生存本能が激しく警鐘を鳴らす。


『エクレール! 腕一本で済むなら頼む! あれはヤバイ!』


 命の前には腕一本など安いもの。

 覚悟を決めた俺は先ほどの迷いなど無かったように腕を諦めるが……、


『分かってる! ……けど体が、体が動かないのよ!』


 エクレールの悲痛な叫びと、微かに感じる自分の意識外で動こうとする体。

 しかしそれは数ミリ動いただけで力尽きたように動きを止める。


『エクレール早く!』


『五月蠅いわね! 今必死で……!』


 しかし、俺の必死の願いを嘲笑うかのように、魔人は小さく呟いた。


「死んじゃぁだめよぉ?」


 ザシュッ!


 言葉と同時、ニタリと嗤いながら俺の腹部を抉るように貫通する貫き手。


「ガハッ……」


 逆流した血が口から溢れ出す。

 貫かれた腹は痛いのか熱いのか……。

 もはや感覚すら覚束ない。


「まだ息はあるわよね? 少し寝てなさい。あっちでこそこそ魔力を溜めてる女を殺したら魔王城に帰るわよ」


 そう言うと掴んだ腕ごと振りかぶり、地上へ向けて勢いよく投げ捨てられる。


 ミーアっ……

 逃げてくれ……!


 声にならない声を上げ薄れゆく意識の中でミーアを探すが終ぞその姿が視界に入る事は無かった。


 こりゃ……相当ヤバイな……。


 今まで何度も死にかけた事はあったがその比じゃない。


 ここで意識を失えば二度と目覚める事は無い。

 そう確信できる程の逼迫した状況。


 ダメだ……

 意識が飛び……そ…………



『レイド!!!』


 飛びかけた意識をエクレールの叫びによって取り戻す。


『っ……大丈夫だ……まだ生きてる……』


 そう答えつつ、俺は自分の命がまだある事を改めて自覚する。

 とは言えこのまま高速で地面に叩きつけられれば死ぬ以外の道は無いだろう。


『幸か不幸か投げ捨てられたおかげで助かったわ! あなたラッキーボーイね!』


『この状況のどこがラッキーなんだよ』


 大賢者の考えはよく分からん。

 こちとら土手っ腹に風穴あけられて、絶賛落下中の身。


 一ミリたりとも幸運要素は感じない。


『拘束解かれて瘴気からも逃げだせたラッキー以外ないじゃない』


『そう言われると確かに?』


 ちょっと前向き過ぎな気もするが。


『すぐにお腹の傷は回復するわ! だからアンタは体勢を整えなさい!』


 加速度的に落下速度が上がるさなか、感覚の無くなっていた腹部に不思議な温かさを感じる。


『体勢って言われても体が言う事聞いてくれないんだよ……』


『そこを気合でどうにかするのよ! 体勢さえ整えばこの高さから落ちてもレイドの防御力なら致命傷にはならないわ!』


 簡単に言いやがって……。

 人生気合でどうにかなる程甘くないんだ…………よ?


 あれ?

 回復魔法のおかげか?

 気づけば瘴気に当てられた苦痛やダルさが幾分和らいでいた。


 これなら……!


 機敏な動きこそまだ出来ないものの、どうにか動けそうだ。



 そして、俺が覚悟を決めた次の瞬間、


 ドォォォォン!


 まるで爆発の様な重低音を響かせて俺は地上に着地…………叩きつけられる。


「っ痛てててて……」


 幸いと自分から飛び込む気持ちで受け身をとれたので怪我らしい怪我はない。

 が、街の大通りのド真ん中にクレーターが出来てしまった……。


 大体「少し寝てろ」と言って軽く放り投げるならともかく、勢い任せに投げつけるってどーなの?

 魔人のチカラ加減バカ過ぎない?


 俺じゃなきゃ間違いなく死んでるよ?

 九割九分エクレールのおかげだけど。


「ま、今はそれどころじゃないか」


 痛む体に鞭を打ち空を見上げれば、ルクセリアから逃げ惑うミーアの姿が見て取れた。


 右手が赤く輝き魔力を纏っているようにも見えるが恐らくまだ溜め切れてないのだろう、放つ素振りは見られない。


『休んでる暇なんて無いわよ! リベンジよリベンジ!』


『分かってるって!』


 言いつつ俺は再び空へと駆け上がる。


「あっ!」


 ミーアの元へと飛ぶ最中、俺は非常に重要な事を思いだす。


『なによ? どうしたの?』


『武器が……ルクセリアに刺したままだ……』


 あれが無ければ俺の攻撃力は激減……どころか皆無。

 少なくとも徒手空拳では牽制にすらならないだろう。


『そうだったわね……。はぁ……仕方ない、もう出し惜しみしてる場合でも無さそうだしレイドの魔力を全部使って一時的にやつの動きを封じるわ。その隙に取り返しなさい』


『そんな事出来るのか!?』


『期待はしないで、レイドの魔力なんだから残り全部振り絞っても五秒持てば御の字ってところよ』


『ちなみにその魔力を攻撃に回して倒す事は?』


『それが出来たら最初からしてるわよ。明らかに魔力が足りなくて無理。一応生命力を削って無理矢理打つ事も出来るけど、あれを倒せる程の威力となるとレイドは確実に死ぬわよ?』


『それは流石に本末転倒だな……』


 少なくとも俺はまだ死ぬ覚悟は出来ていない。


『とりあえずはミーアとルクセリアの間に割って入りなさい! このままじゃあの子が持たないわ』


『おう!』


 気合と共に速度を上げる。


 汗を滲ませ苦悶を浮かべるミーアと薄ら嗤いを浮かべるルクセリア。




 そんな対照的な二人の間へと、俺は無造作に割り込んだ。



【作者からのお願い】


お読みいただきありがとうございます!

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