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12 諦めましょう

「少し、みっともない所を見せちゃったみたいね」


 俺の放った時間稼ぎの一撃を軽く躱し、ルクセリアはまるで反省でもするかのように静かに語る。


 その様子は先ほどまでとは打って変わり、幾分落ち着きを取り戻したようだ。


「急に冷静になってどうした? 反省して家に帰る気にでもなったか?」


「まさか、瘴気を出した以上中途半端は出来ないわ。この街を瘴気で埋め尽くし私の物とする、そしてあなたを魔王城に持ち帰る。グラトニーの事はそれから考えましょう」


『お持ち帰り宣言キター! モテモテじゃないかこのヤロウ!』


『ふざけんな! 魔王城なんて持ち帰られた時点で人生詰みじゃねぇか』


「折角のお誘いだけどお断りさせてもらうよ。俺に魔王城は()()()()


 いずれはお邪魔すると思うんで、その時はすんなりやられてくれると嬉しいです。と、心の中で付け加えておく。


「貴方が何を言おうと結果は変わらないわ。どうしても抗いたいなら本気になった私を倒してみるのね! さっきは体が思う様に動かなかったけれどもうあんな醜態は晒さないわよ」


 やはりさっきの謎挙動は弱体化が影響か。

 この自信から察するに弱体化した体の使い方をある程度は把握できたのだろう。


「精々楽しませてね」


 一方的にそう宣言すると一瞬で俺の目の前へと移動してくるルクセリア。


「っ!?」


 それはまるで瞬間移動かと錯覚する程の速さ。


「あはぁ~」


 俺の動揺に気を良くしたのかニタリと怪しい笑みを浮かべると、瘴気を纏った爪を振るい猛攻を仕掛けて来る。


「くっそ……最初より強くなってないか?」


 嵐の様に繰り出される斬撃を紙一重で躱し隙を伺うも、全くと言っていい程隙が無い。


 弱体化しているはずなのに、体のキレも斬撃の重さも明らかに弱体化前より上がっている。


「ふふふ。言ったでしょ、本気になったと」


「そりゃどうも、でもどうせなら最後まで手を抜いてて欲しかったけどね!」


 軽口を叩くその裏で、俺の体には鈍い痛みが蓄積されていた。


 この猛攻全てを捌くのは不可能と判断し首や顔、心臓と言った重要箇所に守りの比重を高めるが、躱しきれない斬撃は俺の装備を貫きはせずとも、打撃としての痛みとなり襲い掛かる。


 まぁ、貫通しないのは不幸中の幸いだったな。

 高い金出して買った甲斐があったのとエクレールの付与魔法のおかげだ。


 どちらもこんなに早く活躍してくれるとは夢にも思ってなかったが。


「避けてばかりじゃ私は倒せないわよ?」


「なら少しは攻め手を緩めてくれないか?」


 余裕を見せるルクセリアに軽口で応じれば、返って来たのは無言の圧力と苛烈な連撃。


 割と本気のお願いだったが受け入れてもらえなかったようだ。


「ったく、魔人相手に時間稼ぎとか俺は一体何をやってんだろーなっ!」


 少しだけ今の状況に可笑しさを感じ、無意識の内に愚痴を吐く。

 昨日の夜は仲間から切り捨てられて枕を涙で濡らしてたんだぜ?


 それがどんなルートを辿れば魔人と戦う事になるんだよ。

 人生の波が激しくて若干船酔いしそうだ。


『はいはい、無駄口叩いてると死ぬわよ! もっと集中しなさい!』


『さっきまでおちょくってたやつが良く言うよ!』


 エクレールのまともな意見に逸れかけた意識を戻す。

 ついさっきまで浮気だのモテモテだの囃し立ててきたやつに言われるのも釈然としないが、そこは気にしたら負けなんだろう。


 幸いなことに目線さえ切らなければルクセリアの斬撃パターンも慣れて来たところだ。

 嵐の様な猛攻にもクセはあった。


 取り分けルクセリアはわかりやすく、初撃は必ず右手から。

 左手は俺の対応次第で動きを変えるが、一連のフィニッシュは必ず右手で決めに来る。


 そこまで分かれば俺が狙うのは左右の手が切り替わる瞬間。

 流れる様に動き続ける戦闘ではそれも一瞬の間でしかないが、その一瞬でしか隙を見いだせない以上やるしかない。


 ……ここっ!


「ハァッッ!」


 十爪の包囲を掻い潜り、僅かに出来た隙に体を滑り込ませると右肩目掛けて突きを繰り出す。


「チッ……!」


 ルクセリアの顔が微かに歪む。

 短剣は肩を深々と突き刺し、魔人に僅かばかりのダメージを与えた。


「やるじゃない、でも……」


 一瞬で膨らむ殺気と溢れ出す瘴気。


「詰めが甘いわね!」


 ルクセリアは短剣を握る俺の腕を掴み自由を奪うと、溢れ出した瘴気が俺を囲む様に密集しはじめる。


『まずいわ! すぐに逃げて!』


 逃げろと言われても……!

 万力かと錯覚するほどの力で握られた腕はどれだけ足掻いてもびくともしない。


 クソ……

 逃げるのが無理なら、


「ォラァッ!」


 空いている左手で渾身の顔面パンチ。


 ゴンッ!


 重たい音を響かせて、俺の拳は伸び切る前に途中で止まる。

 それはまるで壁でも殴ったかのような感触と左手に奔る僅かな痺れ。


 ルクセリアは微動だにしないどころか薄っすらと笑みさえ浮かべている。


 嘘だろ?

 利き手じゃ無いとは言え全くの無傷……。


「それでお終いなの?」


 俺の足掻くさまを楽しむ様に嗤い見下した視線。


「まさか、これからが……ゴホッゴホッ! ……っ……」


『バカ! まともに吸ってんじゃないわよ!』


 売り言葉に買い言葉と軽口を返す事もままならず、大量に瘴気を吸い込んだ俺は呼吸器官を潰されたかと思う程の息苦しさをと悪寒が全身を襲う。


 頭がクラクラする……。

 吐き気も……気持ち悪ぃ……。


『エクレール、マジでヤバイ……。何か手はないか?』


 大賢者の知恵、魔法何でもいい。

 この状況を打破しない限り逆転の目も無くなってしまう。


『仕方ないわね。腕一本、諦めましょう』


 !!?


『なんですと?』


 え?


 今何て言った?


 聞き間違えだよね?


 まさか英知の結晶である大賢者様がそんなアバウトな……


『だーかーらー、腕掴まれて逃げられないのなら切り捨てるしかないでしょ? 私が肘から先を爆破してあげるわよ』


 アバウトだった……。


 しかも完全脳筋思考。


 

この大賢者もう駄目かもしれん……。



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