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10 嫉妬の魔人

「嫉妬の魔人……」


 まさかそんな天災級の魔族の登場なんて寝耳に水にも程がある。

 派手な桃色の髪と黒い布を乱雑に巻いただけの無駄に露出の多い格好。

 見た目だけの話であれば魔人とは到底思えない。


 しかし、嫉妬の魔人(ルクセリア)が放つ殺気は間違いなく魔人のもの。

 かつて暴食の魔人(グラトニー)と戦った時に感じた根源的な恐怖を植え付けて来るのと同じだった。


「あぁ~れぇ~? 坊や、グラトニーを取り込んだんじゃなくて呪われてるのね。なら私が手を出さなくても勝手に出てくるかしら?」


「……勝手に出て来られても困るんで呪いだけ引っぺがして帰ってくれると助かるんだがな」


「面白い子ね~。魔族は呪う事はあっても呪いの解除なんて出来ないわよ~必要無いし」


 呪いっぱなしとは何とも魔族らしい。

 軽口で様子を見てみたが、こいつの目的が分からない。


 グラトニーは呪いで忙しいです。

 それだけ分かったんだからもう帰ってくれない?


 さっきから足が震えて冷や汗も止まらないんですよ。

 ミーアの手前毅然とした態度で頑張ってるけどさ。


「ならお引き取り願おうか」


 ってかむしろ帰れ。

 帰って下さい。

 お願いします。


「あの……レイドさん……ひょっとして暴食の魔人から呪いを……」


「ごめんミーア、色々と事情はあるんだけど説明は後回しだ。どうやらやつの狙いは俺みたいだし、君はここから逃げてくれ」


 ルクセリアがこれからどう動くか分からない以上ここに居るのは危険だ。

 少なくとも俺のせいで呼んでしまったこいつの被害者をこれ以上は増やしたくない。


「あら~、そっちのお嬢ちゃんはダメよ~。私に牙を向けた以上は死んで償って貰わなきゃねぇ~」


「なっ!? グラトニーの確認は済んだんだろう? ならもう終わりで良いじゃないか!」


「そうね~だから坊やは下がっていいわよ。グラトニーが中にいる以上下手に手出しも出来ないし。それとは別問題で、私に牙をむく()()()()()()は生かしちゃ置けないのよねぇ」


 クソ……。

「若さ」に嫉妬でもしてんのかね。

 面倒臭い奴だ。


 とは言え、このままではミーアが狙われる。

 仮にも魔人相手だ、この街の全冒険者でも集めなければ撃退は不可能。


 仕方ない……。

 こうなった以上は俺が死ぬ気で引きつけてミーアに援軍を呼んで……、


「わかりました。受けて立ちましょう。元よりあなたを逃がすつもりもないですし」


「……はい? え? ミーアサン?」


 わかったの? 受けて立つの?


「先ほどは後れを取りましたが、次はあんな無様は晒しません」


 どゆこと? さっきも魔人と戦ったの? 

 だからそんなにギルドの制服がボロボロなの?


「いやいやいや! 相手は魔人だぞ!? 言っちゃあなんだがギルドの受付嬢にどうこう出来るレベルじゃないぞ!?」


「大丈夫ですよ。実は私、以前少しだけ冒険者をやっていたんです」


 得意げに微笑むミーア。

 その手にはいつの間にか深紅の槍が握られていた。


「冒険者を?」


 意外な事実が判明したが、それで状況が変わるわけでは無い。

 多少戦いの心得があったとしても、それでどうにかなる程魔人は甘い相手ではないからだ。


「行きますっ!」


 有無を言わせぬ宣言。

 俺が止める間も無くミーアは……、


「消えた?」


『あっちよ』


 エクレールが指さす方へと目を向ける。

 そこには空中を蹴りつけルクセリアに肉薄するミーアの姿。

 一瞬であの距離を詰めたのか……。


『あの子、かなり強いよ。内包する魔力も底が知れない』


 深紅の槍を自在に振るうミーアと爪を刃物の様に長く尖らせたルクセリア。

 自在に空中を飛び回る一進一退の攻防、無数に飛び散る火花。

 ほんの数十秒の戦闘を見ただけでも分かる、


「レベルが違う……」


 俺は二年間の冒険者人生で色々な人を見てきた。

 暴食の魔人との戦いでは屈強な冒険者が集まりその実力も知っている。


 知っているからこそ言える。

 比べるのもおこがましいと。


 ミーアの実力はもはや人知を超えた領域。

 大賢者エクレールをして強いと言わしめるその実力は本物だ。


『で、アンタはなにぼさっとしてんの? さっさと行きなさいよ!』


『はぁ!? あのレベルの戦いに入れるわけないだろう?』


『だいじょーぶ! 装備には永続強化の付与と浮遊魔法も掛けたし、レイド自身にも強化魔法(バフ)はかけてあるわ! これで互角以上に張り合えるわよ!』


 なんだよその至れり尽くせり。

 大人しいと思ってたらそんな事してたのか……。


『強化はありがたいけど……。俺程度の実力だと邪魔になるだけじゃ……』


 俺の脳裏に浮かぶのは、勇者パーティーの一員として活動していた頃の記憶。


 悔しいが実力不足の俺は前衛にも後衛にもなれない中途半端者として戦闘では役に立てなかった。


 俺なりに努力はしていたが戦闘特化のスキル持ちとの実力差は広がるばかり。


 努力なんてスキルの前では何の意味も無い。

 俺はその事を身をもって痛感している。


『しゃらっっぷ! アンタは自分の実力を過小評価し過ぎよ。ま、勇者たち(クズ共)に散々蔑まされて自信を無くしちゃってるのは仕方ないとは思うけどさ、もっと自分を信じなさい』


『……自分を信じる?』


『そうよ、自分の努力を信じなさい。それが無理なら大賢者として保証してあげるわ。リリアと同じで私だって二年間ずっと見てきた、目立つ事しか考えてない勇者と敵を引き付けない脳筋タンク、サボり魔手抜きの格闘家、あの三馬鹿をフォローしてリリアを守ってきたあなたが弱いはずない!』


「……っ!」


 見ててくれたんだな……。


『エクレール…………ありがとう』


 我ながら単純だとは思うがエクレールの励まし効果は絶大だ。

 ルクセリアに対する恐怖心も悲観していた自分の実力も、今は何も不安に感じない。


『お礼なんていらないわよ、本当の事を言っただけだし。それよりも覚悟は決まったわね? あのミーアって子が押されはじめてるわ』


 高速で繰り広げられる空中戦。

 パッと見五分の戦いをしている様だが、よく見ればミーアの生傷だけが増えていく。


 恐らくスタミナの問題だろう。

 現場を離れてどれくらいかは知らないが、少なくとも実戦復帰の相手が魔人と言うのはいくら実力があっても難易度が高過ぎるはずだ。


「行こうっ!」


 軽く地面を蹴れば、まるで無重力かの様に体がフワリと宙を舞う。


「空を飛んだのは初めてだ」


『大賢者謹製のスペシャルな浮遊魔法よ! ぶっつけ本番になっちゃったけど上手く制御しなさいよね』


「スペシャルなだけあって感覚的にわかるよ。十分戦えそうだ」


 俺はエンシェントドラゴンの牙から作られた短剣を握りしめると、一気に加速してルクセリアの背後へと回り込む。


「ハァッッ!」


 勢いを殺すことなく短い呼吸と共に背中へ向けて突きを繰り出す。

 タイミングは完璧、ミーアに集中しているルクセリアに躱す術は……、


「残念。殺気が駄々洩れよ?」


 ミーアの攻撃を凌ぎつつ半身になって俺の一撃を躱すルクセリア。


「バレたか」


 出来れば今の一撃を起点に二人掛かりでフルボッコにしてやりたかったが……

 そう甘くはない様だ。


「レイドさん!」


「ミーア、遅くなってごめん」


 息を整えつつ近づいてくる彼女は見るからに血を流し過ぎている。

 致命傷こそないが、体力的にはきっと辛いところだろう。


「いえ……! でもどうして空を飛んで……」


「そこら辺の説明も後でまとめてだ。俺もミーアの『その眼』の事は気になるけど……今はあいつを倒す事に集中しよう」


 ミーアの右眼は紅く輝き瞳には魔法陣の様な模様が浮かび上がっていた。

 噂でしか聞いた事が無いが、恐らく魔眼と呼ばれるものの一種だろう。


「はい、そうですね」


 ボロボロになりながらも決して諦めない強い眼差し。


 まったく……

 女の子には秘密が多いとよく言うが、ミーアは一体どれ程の秘密を抱えているのやら。


「さっさとこいつを倒して飲みにでも行きますか」


「あら、レイドさんから誘ってくれるなんて初めてじゃないですか? 良いですね、朝まで付き合いますよ!」


【作者からのお願い】

お読みいただきありがとうございます!

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