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第七話 〈天馬の翼〉からの勧誘

続いてやっぱり説明回のような話です。読みにくくはなくなった……と信じるッ……!←

 ギルドが何なのか、俺は知らない。


 …いや、冗談じゃなくて、これは本当だ。ジィが説明してくれてた時は、「どうせ入らないから」と聞き流してたから、本当に何なのか全く分かってない。


「冒険者じゃないのに、雷撃竜(パラライザー)を倒したって言うのかい…? 全く、つくづく恐ろしい人間だね、君は」


 カイト総ギルド長はやや呆れた声でそう言って、小さく笑った。


「いいだろう。私がギルドについて、説明するとしようか」



「私が今言うギルドとは、正式には〈冒険者ギルド本部公認支部ギルド〉という名称で、冒険者ギルド本部、通称〈ギルド本部〉とは本質的に異なる。簡単に言えば、ギルド本部に認められた経営者が、ギルド本部の支部として組合を作り、そこに冒険者が加入する仕組みが、私の言うギルド、時に〈民間ギルド〉とも呼ばれるそれのことだね」


 カイト総ギルド長の口からは、専門用語チックな言葉がどんどん飛び出してくる。集中して聞いてないと、聞き逃しそうだ。


「ギルドの役目は、民間やギルド本部からの依頼を受け付けて、適切なギルドメンバーに委託すること、そしてギルドに所属するギルドメンバーの保護や支援を行うこと、の二つが主なものかな。

 ギルドに加入すると、ギルドメンバーには毎月、決まった額のお金をギルドに支払ってもらう。その代わりに、ギルドはギルドメンバーが負傷したり、厄介ごとに巻き込まれた時に、それを助ける義務を背負う。つまり、保険なわけだね。他にも、自分に向いた仕事を回してもらえる、任務に失敗しても食いっぱぐれることがない、のような利点があるよ」


 どうやら利点は利点であるらしい。つまり、ちょっとした保険のようなもんでもあるのか。


「活動は基本的に自由。私のギルドなら原則、ギルドメンバー同士で六人組パーティを組んでもらうかな。だけど、ギルド側から集合令や出頭令があった場合は、ギルドの本部又は支部に顔を出さなきゃいけないよ。理由なく来ないとあんまり依頼を回してもらえなくなったり、最悪の場合追放になっちゃうから。

 勿論、ギルドから回された依頼を蹴って、本部の方から上がってる依頼を受けてもオッケー。だけど、ギルドに入ってない人がギルドの依頼を受けることは出来ないし、大抵の大物依頼はギルドに流れるから、入っていないと依頼の選択肢が狭まっちゃうのが現状かな。だから、冒険者の七割ぐらいは民間ギルドに所属していて、残った三割のうち二割はギルド本部所属、一割がその他ってところだね」



「なるほど、よく分かった」


 いかんせん話が長かったが、それでもちゃんと言うべきことのみ厳選して言ってるのか、頭の中にはスっと入った。そして、ジィに確認するまでもなく、これからされる質問の答えも決まった。


「そして、僕がこれからなんて言うかも分かってるんでしょ?」

「勿論だ」

「まぁ、だよね。それじゃあ、もったいぶらずに言うとしよう」


 カイト総ギルド長は、自信に満ちた顔で、俺に質問する。


「クリム君、僕のギルドに来ないかい?」

「断らさせてもらう」


 即答だった。



「えぇっ!?」


 その場で絶叫したのは、俺でもカイト総ギルド長でもなく、カンナだ。


「ちょっと、クリムさん、断っちゃうの!?だって、あの〈天馬の翼(ペガサス)〉だよ!?いくらクリムさんが規格外だったとしても、〈石の称号者(ストーンカラー)〉が〈天馬の翼(ペガサス)〉の総ギルド長に直々に招待されるなんて、どう考えても普通あり得ないよ!?入ったって悪いことないんだし、入っちゃいなよ!」


 凄い気負いでまくし立てて、俺を〈天馬の翼(ペガサス)〉に入れようと必死だ。

 まぁ、気持ちは分かるか。目の前で知人が超有名ギルドへの加入を拒否したら、理由を知らない限り俺でも正気を疑う。


「俺らは二人で充分だからな。パーティにあと四人もいらない」

「そこは原則だから、望むのなら二人パーティでも全然対応出来るよ」

「それがそうだとしても、俺らは基本的に放浪してるし、自由に生きたい。ギルドに顔出せとか金払えとかはまっぴらごめんだ」


 などとさも本心かのように言っているが、本当の理由は一つだけだ。


 そして、それは今ここでは、絶対に言えない。


「そうか……。流石に、君だけにそんな特別優待を掛けるわけにもいかないし…。仕方がないか、諦めるとするよ」


 カイト総ギルド長は、まだ諦めきれない、でも諦めるしかないと分かったような顔で頷いた。


「だが、今ここで、他のどのギルドにも入らないという契約をしてほしいんだが、どうだい? 勿論、ちゃんと高く買うよ」


 しかしすぐに、幾つもの商業戦を勝ち抜いてきた男の顔が出てきた。

 そのカイト総ギルド長の申し出を聞いて、ちょっとあることを思いついた俺は《魔力念話(トランシーバー)》でジィに話しかける。


「どうしたんだい?」


 突然無言になった俺らを、カイト総ギルド長が心配したぐらいのところで話がまとまり、俺はおもむろに口を開いた。


「いいだろう。いくらだ?」

「そうだな……君への報酬を出すつもりで来たから、今懐が暖かいんだよね。だから、大金貨三枚でどう?」

「乗った」


 その瞬間、カイト総ギルド長の後ろにまるで彫像のように控えていた執事が、紙とペンとインク壺を持ってきた。別の執事が持ってきた小さな机と椅子に座り、カイト総ギルド長がさらさらと筆を(したた)める。書き終えたその契約用紙に俺は目を通し、そこに「クリム・ロンガルソは永久に、如何なるギルドにも加入しない」と示されていることを確認して、カイト総ギルド長のサインの隣に名前を書き込んだ。

 そして、借りたペンを返しながら、俺はカイト総ギルド長に笑いかける。


「それと、雷撃竜(パラライザー)を撃退したお礼だが、やっぱり慎んで受けることにするよ」

「なんて?」


 俺の急な手のひらを返す申し出に、何を言われたのか理解が追い付かなかったようで、カイト総ギルド長は目を見開いて俺の方を見てきた。

 ……いや、違うな。この顔は、理解してるけどしたくない顔だ。


「あぁ、さっきの報酬の話だ。くれるというのにもらわないのも、また失礼に当たると思ってな。そうだな……あのレイドパーティ、二十人ぐらいだったな。一人金貨五枚として、大金貨十枚ぐらいでどうだ?このぐらい、〈天馬の翼(ペガサス)〉としては、大した痛手ではないだろう。むしろ、〈白金の称号者(プラチナカラー)〉の連結部隊(レイドパーティ)を助けてもらった報酬としては、格安なんじゃないか?」


 勿論、本当に俺の気が変わったわけじゃない。さっきの契約のおかげで、カイト総ギルド長は俺を()()()()()()()()呼べなくなっているのだ。だから、報酬を理由にギルドに勧誘する手は、もう使えない。まさか〈天馬の翼(ペガサス)〉の総ギルト長がこんなミスを犯すとは思わなかったが、一応ジィに話しておいて良かった。

 そしてこれにこの目の前の男が、気付かないわけがない。


「…君ほどに恐ろしい人間は滅多にいないよ、全く」


 全てを諦めきったような表情で、小柄な男は笑った。




「な、なんか、色々凄かった……」


 いろんなことが起きすぎたせいか、カンナはちょっと放心状態になってしまっていた。

 まぁ、〈天馬の翼(ペガサス)〉の総ギルド長ご本人が登場したと思ったら、俺(とジィだが、多分ジィの方は気づいてない)が殺気を放ち、総ギルド長直々の報酬提案を蹴り、カイト総ギルド長が元冒険者だと見破り、〈天馬の翼(ペガサス)〉の勧誘を即答で断り、そして結んだ契約を利用して金を巻き上げた。カンナはカイト総ギルド長とも知り合いのようなので、内心相当ヒヤヒヤしていたに違いない。


「二人とも、凄すぎだよぉ…」


 精神的な疲労のせいか、カンナは飲んでもないのに酔っぱらったようになってる。この状態でダンジョンに入るわけにもいかないので、すぐ近くの酒場で個室を取り、カンナを寝かせて休ませることにした。三十分もすれば、すぐ復活して起きてくるだろう。

 ノンアルコールを頼んだ俺とジィは、個室の外のカウンターでちびちびとそれを飲む。ちなみに、個室には俺とジィが二重で検知魔術と結界魔術を展開したうえで、ジィが《上位魔力探知(パワーサーチ・ハイ)》でカンナの魔力反応を捉えている。勿論王国法に違反しているが、そもそも危害さえ加えなければあんまり細かくは言われない法律だし、実は結構女性に優しいこの国なら「女性を守るためだった」とでも言えば大目に見てもらえるだろう。…まぁ、その前に俺もジィも、簡単に探知されるような魔術の発動の仕方をしてないのだが。


「それで、坊ちゃま。どうして勧誘をお受けしなかったのです?」


 唐突に、ジィが声を潜めて聞いてきた。


「分かるだろ、ジィ」

「ですが、いつもいつも依頼を掠め取っていますと、いつか民間ギルドに嫌われますよ」

「その時はその時だ」


 そう。実は、〈天馬の翼(ペガサス)〉に入ることは別に俺らにとってなんの被害にもならないのだ。

 まぁ確かに出頭とかは面倒だが、金なら適当に魔族や竜を狩れば充分払えるし、ほとんど全部の国に支部がある〈天馬の翼(ペガサス)〉なら、顔を出すのもそこまで面倒ではない。

 でも、俺は独断で加入を断った。

 一つは、ジィの実力すら測れないような奴のギルドに、入りたくなかったというのがある。多分あれでは、ジィはいずれギルド内で居場所を失う。実力の片鱗を見られたせいで皆から敬遠されるか、実力を隠し続けたせいでお払い箱にされるかのどちらかだ。まぁこれは、ただの俺のわがままと言えばわがままだが。

 そしてもう一つは――


 必要な時に、ジィの実力を借りられなきゃ意味がないからだ。



 ジィの実力だけは、絶対に隠さないといけない。

 しかし、もしもの事態に巻き込まれたときには、その力を遺憾なく使ってもらわなくてはならない。

 だが、その時にもし周りにパーティメンバーやギルドメンバーがいれば、ジィは本気を出せない。

 それではジィは、必要な時に、必要なことが出来ない。



 だから、俺らはいつまでも、二人で行く。

 これまでも、これからも。



 *


「ごめん、お待たせしました!」


 あっちゃ~、私のせいでダンジョン攻略を遅らせちゃった。申し訳ないや。


「気にしなくていい、カンナ。それじゃあ」


 でも、クリムさんの優しい言葉が嬉しくて、私はいつもの二倍増しぐらいのハイテンションで言う。三十分ぐらい休ませてもらったから、今は身体(からだ)精神(こころ)も元気いっぱい!準備万端!

 さぁ、お仕事の時間だ!


「うん!行こっか! ――〈迷宮(ダンジョン)〉に!」


さて、迷宮(ダンジョン)の敵は、この二人に通用するか……?(笑)



お読み下さり、ありがとうございます!

もしよろしければ、評価やブックマークをしていただけると、筆者の執筆の心の支えになります。

これからもどうぞ、よろしくお願いします!

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