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第六話 謎の男

若干説明回っぽくになってしまいました。流し読みしても多分大丈夫ですが、この世界のいろいろについて書いてるので、もし興味があれば読み込んでみてください。

「お疲れ様でした!それじゃ、早速〈迷宮(ダンジョン)〉に行こっか!」


 冒険者登録試験を突破し、冒険者登録を済ませた俺らは、外で待っていたカンナと合流した。

 時刻はまだ九時半。そのままその足で、俺らとカンナはダンジョンに向かうことにした。

 俺らの右手には、真新しいギルドカードが握られている。冒険者である証明と共に、身分証明書にもなる、金属製のカードだ。そこに記されているのは、登録番号、名前、登録年月日、生年月日、冒険者登録所印、魔術刻印、そして……


「〈石の称号者(ストーンカラー)〉、か」

「まぁ、登録したてだからね~。クリムさんがどれだけ強くても、そればっかは仕方がないや」


 現在の〈称号(カラー)〉だった。


称号(カラー)は、要は信頼度みたいなもんだったよな、ジィ」


 間違ってたら嫌なのでジィに小声で確認したが、


「大変恐縮ですが坊ちゃま、私ではなくカンナ様にお聞きなさるほうが確実かと」


 話を別の人(カンナ)に振りやがった。


「ん、クリムさん、どうしたの~?」


 案の定、カンナもそれを聞きつけて俺に聞いてくる。…おいジジィ。あんた俺と放浪してた時に、冒険者関係のこと全部完璧に説明してただろうが。何露骨に俺がカンナに話しかけるように仕向けてんだ。

 まぁ、この状態でカンナに聞かないのも失礼なので、ジィを一瞬本気の殺気を込めて睨みつけておいて、カンナの方を向く。…ちなみにジィは、《上位気配隠蔽サインハイディング・ハイ》が多分王国法に違反するとカンナに言われたので、今は使ってない。


「実は、〈称号(カラー)〉のことがよく分かってなくてな。信頼度みたいなもんだったとは思うんだが……」


 俺がそのように言えば、カンナはいつでも笑顔で答えてくれる。


「それで大体あってるよ! 〈称号(カラー)〉は、依頼を忠実にこなしていくと付く、自分の実力の証明書みたいなものだね。例えば私ならね、私も最初は〈石の称号者(ストーンカラー)〉だったんだけど、一個一個依頼を完了(コンプリート)していって、〈鉄の称号者(アイアンカラー)〉を経て、今〈銅の称号者(ブロンズカラー)〉を持ってるの!だから私はみんなに向けて、「私は〈銅の称号者(ブロンズカラー)〉の実力と信頼度がありますよ!」ってアピール出来る、ってことなんだ! …まぁ、〈銀の称号者(シルバーカラー)〉とか〈金の称号者(ゴールドカラー)〉とかには、まだまだ程遠いけどね~」

「なるほどな。ありがとう」

「いえいえ~。私、一応先輩冒険者だしね!」


 そう言って、カンナは黒い双眸を細めて、嬉しそうに笑った。その花が咲いたような笑顔に、つられて俺の頬も緩む。

 ……あと、その後ろで笑ってる(ニヤついてる)ジィ。あんたは許さん。



 背中が無性に痒くなる魔術とか、トイレに行きたくて仕方が無いように錯覚させる魔術とか、みたいなしょうもない魔術をジィと本気で掛け合い無効化し合いながら、大通りを三十分ほど歩いていた時。


 俺らが通る大通りの右手に、何やら大きな建物が見えてきた。


 まるで宮殿のように見えなくもないその建物からは、忙しなく人が出入りしている。その服装や武装を見る限り、間違いなく冒険者だ。つまりここが……


「ようこそ、ミラストリア王国名所の一つ、〈迷宮(ダンジョン)〉へ!」


 この国が誇る名所、ダンジョンということだ。


「……思ったより、気楽に出入りするんだな」

「あっ、まさかクリムさん、あそこがダンジョンの入口だと思ってる?流石にそんな危険な真似はしてないよ! このおっきい建物は、〈迷宮宮殿(ダンジョンパレス)〉。誰かが間違えてダンジョンに入ったり、ダンジョンが壊されたりしないようにするための「覆い」、かな」

「じゃあ、この中にダンジョンがあると?」

「ん、そういうこと!じゃあ入ろっか……ってそうだ、ジィさんもクリムさんも、そのままの格好で大丈夫?鎧着るとかだったら、迷宮宮殿(ダンジョンパレス)の外でやったほうが良いからさ!」


 そういうカンナは、割とがっちりした金属製の鎧に、同じく金属製の手甲と脛当てを纏っている。全身鎧(フルアーマー)の冒険者と比べれば軽装だが、普段着のような服で活動する冒険者もいるから、カンナのこれはそこそこ重装備なほうかもしれない。


「気遣ってくれてありがとう。俺はこれで平気だ」

「私もこのままで大丈夫です、カンナ様」

「防具もなしで凄いなぁ~。うん、分かった!じゃあ入ろ――


「ああぁぁぁっっっっ!?!?」


 ――って、なんで邪魔するかな!!誰!?」


 気合一発、中に入ろうとしたところで、誰かの絶叫によって台詞を断ち切られたカンナは、若干ふくれながら声のした方を振り向き、


「カイト総ギルド長(ギルドマスター)!?」


 眼を剝くほどに驚いた。


「カイト…なんだって?」

「あ、わ、え、えっと…ってこっち来るんですか!?えぇ!?」

「カンナ、取り敢えず落ち着いてくれ」


 取り乱してテンションが変なことになってるカンナの肩に手を置き、俺は向かってきた男と相対する。


「カイトギルドマスター、とかいうそうだが。何の用だ?」

「おぉ、私を見て怯まない若者には久しぶりにあったよ」


 少々小柄なその男は、先ほどヒステリックな高音で絶叫したとは思えないほど、渋く余裕たっぷりな声でそう言った。


「先にそっちが名乗れ。話はそれからだ」



「分かっているとも。そう急かさんでくれ、()()()()



 その瞬間、俺は警戒心をほぼ最高まで引き上げる。動きこそ大きくはないが、身体は半身、腕は力を抜き、魔力回路を活性化させて周囲の魔力を制御下に。右手は何時でも剣を抜けるように構え、左手は一振りすれば前腕に仕込んだ短剣が飛び出す。俺の周囲には、もう既に幾つかの術式が組み上がっていた。


「俺の名をどこで知った?」


 俺は威嚇も兼ねて分かりやすく敵対姿勢を取ったが、その後ろのジィも、身体を全く動かさず警戒姿勢に入っている。ジィの内部の魔力が鋭い刃のように整えられたのが感じられて、それがよく分かった。


「これはこれは。全く、おっかないねぇ。何も怪しいことをしたわけじゃないんだ」


 だが、その男は全く焦る様子もなく、飄々と話を続ける。相当肝っ玉が据わってるか、それか相当空気が読めないか。多分、前者だな。


「ただ、二日前、草原で雷撃竜(パラライザー)に襲われていたパーティ達を助けてくれたろう?あのパーティのメンバーから聞いたのさ。「クリム・ロンガルソっていう、やべぇぐらい強いやつがいるぞ」、ってね」

「それをどう信じろと?」

「そこで私の話になるわけだよ、クリム君」

「その名を呼んでいいと言った記憶はない」

「そうピリピリしないでくれ。私はもう、そういうのからは退いたものでね」


 そして、その男は優雅に一礼すると、堂々とその名を名乗った。


「私の名前は、カイト・ティール。ギルド〈天馬の翼(ペガサス)〉の、総ギルド長(ギルドマスター)だ」


「〈天馬の翼(ペガサス)〉……」



 それは、冒険者でない者ですら知っている、世界に名を轟かせる超大規模ギルドの名。

 世界で二十四人しかいない〈黒の称号者(ブラックカラー)〉のうち十人近くが所属し、ギルド本部と同等近い影響力を持つとすら言われる、大手中の大手だ。



「そんな大物が、どうしてこんな辺境の国にいる」


 だがその名が出たぐらいで、俺の追及の手が緩むわけがない。むしろ、より強くなった。


「ギルドとしては、ダンジョンだらけのこの国はむしろ重要なギルド進出国だがね。私が来たのは、そのレイドパーティ達と君を、直接迎えるためさ。あの報告を聞いて私は、アトランダ皇国から私有の飛竜(ワイバーン)を使ってこっちまで飛んで来たのだよ。文字通り、ね」


 飛竜(ワイバーン)ってあの、デカくて飼育費が馬鹿みたいにかかるくせに、一回の飛行じゃ一人から精々二人しか乗れない、一日で大陸を横断出来る速度だけが取り柄の、あの飛竜(ワイバーン)かよ。しかも、それを私有って。マジで言ってんのか。


「そして、あの時助けてもらったパーティは、私のギルドの〈白金の称号(プラチナカラー)〉パーティの連結部隊(レイドパーティ)だったのだよ。最近かなり腕が伸びてきていたところでね、あそこで死んでしまったら彼らの輝かしい未来が閉ざされてしまうところだった。だが、それをたった一人で救った男がいるという。これはもう大変に感謝して、そのついでに勧誘でもしたらどうだろうと思ってね」


 なんてすらすらと言葉が出てくるが……あぁ、まぁ、目的は分かったな。


「って言ってるが、要はあんた、俺をあんたのギルドに引き抜きたいだけだろ」

「はは、鋭い若者は困るねぇ。まぁ、そうかな。感謝しているのは本当だがね。総ギルド長の権限で、結構の報酬を出せるがどうだい?」

「断る。報酬だとしても、変に繋がりが出来ると後が怖い。それに、俺はまだ完璧にはお前を信用してない」

「おぉ、これはこれは。全く、何を見せれば信用してもらえるのやら」


 芝居掛かった大袈裟な仕草で落胆するこの男を尻目に、俺はカンナに目を向ける。


「…まず、カンナ」

「は、はい!」

「〈天馬の翼(ペガサス)〉の総ギルド長がカイト・ティールであるのは、間違ってないか?」


 さっきまでは目の焦点も合わない状態のカンナだったが、しどろもどろしながらも、俺の質問に答えてくれた。


「え、えと、うん。冒険者ギルド〈天馬の翼(ペガサス)〉の現ギルド長は、カイト・ティール氏だよ」

「そうか。ありがとう」


 そう言ってから俺は、もう一度この男に目を戻す。


「なら次だ。あんた、元冒険者だろう」

「どうしてそう思うんだい?」


 あくまでしらを切ろうとするこの男だが、しかし俺もただの勘なんかじゃなく、相応の理由あって言っている。


「俺が殺気を放った瞬間、あんたの身体の内部で魔力が反射的に(おこ)った。恐らく、何らかの防護魔術の術式だろう。冒険者として様々なモンスターや人間と相対してないと、絶対に付かない癖だ」


 まぁ、あの感じは対物理攻撃用の防護魔術だったから、ジィの変化には気付いてなかったんだろうがな。もし気付いていたなら、多分別の形をした魔力――もっと複雑で強力な防護魔術か、魔力にも物理にも影響する障壁魔術や減衰魔術のそれ――が(おこ)っていたはず。

 だがこれは心の中に留め置いて、俺は視線だけで相手を威圧する。


 俺は、全てお見通しだぞ、と。


「……そこまで分かったのか。確かに、只者じゃないな、君は」


 その心の声が伝わったのか否か、余裕たっぷりだった男はここで、始めて少し表情が硬くなった。


「そうだよ、私は元冒険者だ。だが、それがどうしたんだい?」

「「冒険者たるもの、常にギルドカードを身に着けておけ」、だろう?」


 丁度今朝、リード殿から聞いた言葉だ。

 冒険者は、ギルドカードを常に身に着けているものだ。

 何故なら、冒険者にとってギルドカードは、武器と同じくらいの必需品だから。


「…あぁ、近年は名詞の交換ばかりで、完全に忘れていたよ。そうだ、ギルドカードならこの上ない身分証明になるじゃないか。全く、歳を取るってのは怖いねぇ」


 そう言ってこの男はギルドカードを取り出し、俺に見せながらそこに彫り込まれた刻印の一つに指を触れた。

 顔を寄せずに記入情報を読み取った俺は、そこに確かに「カイト・ティール」の名が記されているのを、そして刻印が青く光っていることを確認する。

 さらに、


「ジィ、どうだ」

「問題ありません、坊ちゃま」


 ジィの《鑑定眼(ジャッジアイ)》で、本当にギルドから発行されたものか鑑定した。ジィの返事を聞いて、やっと俺はひとまずの警戒姿勢を解く。


 ギルドカードには、ある一つの刻印だけ、カード内部ではなく表面に彫られている。

 それは、その刻印に指を触れた人間が、そのギルドカードの正しい所有者か判断するもの。合っていれば、刻印は青く光る。もし異なれば、刻印は赤く光り、ギルドカードは即座に高熱を発するようになる。

 偽装防止刻印や複製防止刻印などもカード内部に彫られているから、ギルドカードの本体を一から作らない限り、ギルドカードの不正利用は不可能だ。そして、ギルドカード本体のつくり方を知っているのは、ギルド本部でも極々少数の人間だけ。

 だから、この刻印魔術に指を触れるだけで、ギルドカードは冒険者にとって最高で絶対の身分証明書となるのだ。


「取り敢えず、あんたが本当に〈天馬の翼(ペガサス)〉の総ギルド長、カイト・ティールなのは分かった。カンナも顔を知ってるようだしな」


 やっと俺は、その男をカイトと認めることにした。だが、警戒を解いたわけではない。


「それで改めて、用は何だ」

「報酬はいらない、とのことだったから、用事は一つだけだね」


 そしてカイトは、とても大袈裟な仕草で、こういった。


「私のギルドへの、君の勧誘さ」


 まぁ、だと思った。

 思った、が。


「済まないが、実は俺はつい一時間ほど前にやっと冒険者になったんだ。つまり、()()()()()()()()()()()()()()


 いかんせん、俺は無知なのだった。

あれ?クリムって、実は結構色々知らないの?(笑)



今回の剣技・魔術・その他です。


鑑定眼(ジャッジアイ)

上級魔術。その物体が本物か否かを判断する。もし隠蔽魔術が使われていれば、隠蔽魔術が使われていると言うことは見抜ける。



お読み下さり、ありがとうございます!

もしよろしければ、評価やブックマークをしていただけると、筆者の執筆の心の支えになります。

これからもどうぞ、よろしくお願いします!

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