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第五話 冒険者登録

さぁ、規格外達の無双といこう!

「今朝は災難だったねー」

「まぁ、誰かの被害を抑えられたんだ。それで良しとしよう」

「ん、そうだね!クリムさんは優しいなぁ~」


 温かい太陽の光と涼しい秋風を浴びながら、俺とジィ、カンナは大通りを歩いていた。


 現在時刻、朝八時四十五分。四人の男を王国憲兵に突き出し、六時頃に俺が宿に戻れば、もうカンナもジィも食堂にいた。カンナに至っては、朝六時だというのに既に完全武装。気が早すぎやしないか、カンナ。

 二人と朝食を食べ、俺らが少し準備を済ませればもう出られたので、九時に開く冒険者登録所に速攻で入ろうと、集合時刻より早く宿を出たのだった。ちなみに朝九時と言うのは、早いパーティはとっくにダンジョンに潜り始めてる時間のようだ。例えば俺らが宿に来た時食堂にいたあの四人組は、五時ちょうどに朝飯を食い、そのままダンジョンに行ったらしい。

 結局今朝のことを俺は、「武器を抜いてる奴がいたから止めた」という風にカンナに話している。全てを話さなきゃいけないほど、俺はまだカンナと親しくない。それに、暗殺者が出てくるような何かが、この事件の裏にはあるのだ。それが何か今は見当もつかないが、事実を知ってる奴は少ないほどいい。


「クリムさんは、冒険者がどういうものかは知ってるんだよね?」

「まぁ、ある程度は。ただ習ったわけじゃないからな、間違いがあるかもしれない」

「そっかー!まぁじゃあ、軽く説明しておくね!」


 そういってカンナは後ろ歩きで、()()()()()()説明を始める。…ジィは相変わらず《上位気配隠蔽サインハイディング・ハイ》の中だ。


「冒険者っていうのは、一応定義で言うと、「依頼されたことを金銭を見返りとして実行する、冒険者ギルド本部が冒険者と認定した人間」のことだよー。つまり、ある意味何でも屋! だけど、そのほとんどが戦闘職だね。何故なら、戦闘が関わってくることだと、一般人は無力だから。そこで、冒険者がその役目を負う、ってこと!」


 肩まである綺麗な茶髪を揺らして、彼女はテンポよく言葉を継いでいく。


「あとは、別にギルド本部からの依頼が無くても、冒険者は魔族(モンスター)の狩りが認められてるよ!いや、厳密には、常時モンスター狩りの依頼が本部から出てる、っていうべきかな。だから、〈迷宮(ダンジョン)〉でモンスターを倒して魔石を手に入れれば、いつでもギルドはお金に換えてくれるんだ!

 依頼をこなして、魔族(モンスター)を倒して、お金を手に入れる。これが、「冒険者」っていう仕事だよ!」


 カンナはとても楽しそうに、一気にそう言い切った。


「ありがとう、よく分かった。冒険者が何でも屋ってのは知らなかったがな」

「冒険者っていうと、戦ってばっかだと思われてるからねー。一般人でも、少し時間はかかるけど依頼を出せるんだよ!結構あるよ、荷物運び手伝ってー、とかいう依頼もね」

「そうなんだな、知らなかった」

「私、これでもギルド本部所属だからね!分かんないことがあったら何でも答えるよ!」

「そうか。それはありがたい。…っと、ここでいいのか?」


 そんな話をしていたら、俺達は冒険者登録所に着いていた。余り大きくはないが、歴史を感じさせる建物だ。そのすぐ横には、冒険者ギルド本部のミラストリア王国支部がある。冒険者登録をしたらそのまま、ギルト選択や依頼入手が出来るようになってるんだろう。


「ん、そうだね~! …ってジィさん!? …あぁ、《気配隠蔽(サインハイディング)》かぁ…。びっくりしたー、突然出てきたのかと思ったよ!」


 カンナが、《上位気配隠蔽サインハイディング・ハイ》を解いたジィに驚いていた。

 気配隠蔽魔術は、対象の気配を消すことで認識し辛くさせる。だが、上手な人間が発動すれば、視界内にいたとしても認識し辛くなる。だから視界内で発動を解かれると、その人が急にその場に現れたような錯覚に陥るのだ。今のが本当は上位魔術だということは……まぁ、言わなくていいか。


「リードさん、登録お願いで~す!」


 変わらない明るさでカンナが、冒険者登録所の門を叩く。中ではがっちりした体格の男が一人、カウンターに立っていた。


「カンナか。分かった、準備する。お二人様方、この用紙に必要事項をご記入ください。記入次第、登録試験を行います」

「分かった」


 そう言って俺とジィは用紙を受け取り、そこに必要事項を記入していく。数分経って、俺らが用紙を書き終えるのと、リードと呼ばれた男が裏手から戻ってくるのが同時だった。


「ここに置けば問題ないだろうか、リード殿」

「いえ、大丈夫です、私の方で預かります。では、こちらへどうぞ」


 用紙をリード殿に渡して、カンナを残して俺とジィは登録所の奥へ移動する。

 これから、冒険者登録試験だ。



 奥の通路を進んでいくと、円形の広場に出た。

 その広場に幾つかの巻き藁が、壁で仕切って置かれている。スタートラインと巻き藁の距離は、ちょうど5メルというところか。広場からはその全てが見えるが、部屋に入れば他の部屋は見えない。勿論、壁などに沿って魔力遮断系の魔術が張られてるから、密かに連携したりするのも無理だ。


「まずはここで、この巻き藁を壊していただきます。壊す方法は自由です。破損したと()()()()認識したら、そこで試験は終了です。制限時間は一分です。一分以内に成功さえすれば、時間は特に関係ありません」


 リード殿が、最初の試験の説明をしてくれた。 

 確かに、そこに置かれた巻き藁には割と強力な防護魔術と、破損か否かを判断する基準が織り込まれたような魔術が掛かっていた。人間の目で確認すれば不正が起きるかもしれないが、魔術なら無理だ。無効化しても、偽装しても、上書きしても、それらがされたことが必ず分かる。理に適った判断方法だ。


「準備はよろしいですか?」


 俺とジィがスタートラインに立って、目の前の巻き藁を見据える。


「あぁ」

「大丈夫でございます」

「では、始めましょう。三、二、一、…始め」


 リード殿の声が、静かな部屋に響いた。


 そして、俺の視界に一瞬、青い光の弧が閃く。


「え?」


 この声は、勿論俺の声じゃない。少し後ろで試験を見ていた、リード殿の声だ。

 青い光の弧は、俺の左腰辺りから逆袈裟斬りのように閃いて……巻き藁を両断していた。


「えっ、今の…」

「いや、ただの《蒼の剣術・大弧閃(だいこせん)》ですが」


 目にも止まらぬ速さで剣を抜いて振るい、また鞘に戻す。居合系の基本的な剣技、《蒼の剣術・弧閃(こせん)》。これに《翠華》などと同じ要領で魔力の刃をつけて射程を引き延ばしたのが、《蒼の剣術・大弧閃》だ。魔術ならだいたい、中位というところだろう。別に、冒険者じゃない俺が使えてもそこまで不思議じゃない。


「えっ、いや、《大弧閃》ってもっとこう、遅いし…普通、あの防護魔術斬る威力はないはずなんだが……?」


 何かリード殿が呟いている間に、ジィの方も終わったようだ。大体、十秒ぐらいか。目立たないよう、相当手抜きしたみたいだな。


「えっ、あなたも終わったんですか…?」


 だが、リード殿の声色的に、どうやらこれでも手抜きでなかったようだ。


「そんなに凄いのか?」


 俺のこの質問に、リード殿が驚いたような、そして呆れたような声音で答える。


「えーっと、まず、初めてこの試験を受けた時に十二秒より早く突破出来ると、将来〈白金の称号者(プラチナカラー)〉になれる可能性があると言われています。お二方は、共にこの目安をクリアしています。

 そして、この試験は何時でも誰でも行うことが可能なのですが、この冒険者登録所で歴代で最も早くこの試験を突破した人が、一秒と十分の六秒。冒険者ギルド全体では、記録が残っている三千年前からですと、測定可能だったもので零秒と百分の一秒、測定不能が二十一人です。

 現代に於いてこの試験の最速記録を持つ人は、現ブルー家当主のオードリー・ブルー。記録、零秒と百分の三秒です」


 なるほど。つまり俺もジィも、〈白金の称号者(プラチナカラー)〉になれる可能性があるというわけか。


「なら、俺の記録は?」

「まず、ジィ氏の記録が、十秒と十分の七秒。そして、クリム氏の記録は……


 測定不能、です」


 リード殿は、凄いものを、そして恐ろしいものを見ているような声で、そう告げた。


「だが、十分の一秒刻みだろう?」


 しかし俺はそれを意に介することもなく、疑問に思ったことを聞く。


「えっ?」


 リード殿は、俺の質問を理解出来なかったようで、きょとんとしている。いや、まさか俺が質問してくるとは思わなかったのかもしれない。


「ギルド全体の方の記録は百分の一秒刻みだったのに対し、こっちの記録は十分の一秒刻み。つまり、この登録所には、百分の一秒まで測定できる魔術の使い手、または魔術道具がない。そして多分だが、百分の一秒まで測定した結果が、正式な記録となる。そうじゃないか?」

「は、はい、確かにそうですが…」

「ならば、俺の記録はまだ不詳だ。だから、驚く必要もない」

「は、はぁ…。いや、実は、その……」


 それに多分、世界にはもっと凄い奴らが大量にいる。例えば俺の横のジィがこれを本気でやれば、余裕で測定不能をたたき出すに違いない。流石にジィに勝る奴はいないかもしれないが、測定不能を出せる人間ぐらい、いくらでもいそうなものだ。ブルーとかなんとかいう奴がどれだけの人間か知らんが、多分そこまで凄くもないんだろう。多くの冒険者は、面倒くさくてこの試験なんて真面目に受けてないんじゃないか?



「と、とにかく、次の試験へいきましょうか。必要あるとも思えませんが……」


 そういって俺らは通路を歩き、さらに奥の部屋に入る。強力な結界魔術が張られた、城門前の大広場ぐらい広さのあるそこには、


「……機械人形か」

「よく分かりましたね。そうです、こういう時には役立ちますから」


 魔力ではなくばねなどを動力として動く、機械人形が大量に配置されていた。

 機械人形は魔術人形と比べて動きが大雑把で、複雑なことは出来ないが、魔力を動力源としないので、このような試験では魔力干渉が起きずに済んで、便利なのだ。


「次に行っていただく試験は、集団でも個人でも挑戦可能です。ここにいる大量の機械人形を倒して、五分間耐久していただきます。もちろん機械人形は攻撃してきますし、あの穴から追加で現れもします。機械人形の武器の赤く塗られた部分に身体や衣服が触れると魔術道具が発動し、行動不能となります。行動不能となった味方を復活させることは出来ません。もし復活させた場合、その場で試験に脱落します。集団で挑戦する際は、一人でも残っていれば成功です」


 なるほど、今度は数的不利な状況での立ち回りを見るわけか。


「使っちゃダメな魔術や剣技はあるか?」

「特にありません。勿論、〈禁忌〉に触れない限り、です。あ、でも、できればその、この魔術結界を破るような大技は控えていただけると……」

「あぁ、分かった」


 まぁ確かに、俺の《翠華》で余裕で破れそうだしな、この結界。


「それではまず、集団と個人、どちらにしますか?」


 俺とジィはお互いに顔を見合わせ、そしてすぐに、


「集団で頼みたい」

「分かりました。そのように設定します。それでは、私は退出しますね」


 そういって、一旦リード殿は部屋を出る。部屋には、動きを止めた大量の機械人形と、俺とジィが残った。


「さて、なんかやばい奴ら認定されてるっぽいんだが…どうするべきだと思う、ジィ?実力を隠して、適当にあしらうか?」


 すぐさま俺は、ジィにそんな問いかけをする。無論、リード殿が扉裏にいたりしないのは確認済みだ。


「いえ、もう先ほど目をつけられたのなら、むしろ変に隠そうとするほうが大きな違和感を残すかと。本気にならない程度で、素早く片付ければいいのではないでしょうか」

「そうか、確かにな。…はぁ、面倒な輩に目を付けられなきゃいいが」

「目を付けられるとは、今朝のようなことでしょうか?」

「あれは武力でどうにかなるだけマシだろうな。世の中、武力じゃない力を持つ奴らもいる。そんな奴らの相手なんて、武力しかない俺はしたくねぇからな」

「そのようにはならないと、今は信じるしかありませんとも、坊ちゃま」

「あぁ、そうだな」


「準備は出来ましたでしょうか?」


 そこまで話したところで、頭上からリード殿の声が掛かる。俺はそれへの返事として、右手を挙げた。それと同時に、俺らの向かいの壁の上の方に、「五分」と書かれた幻影が現れる。


「それでは、始めます」


 俺とジィが、魔力を操ることはせず、魔力回路だけ活性化させて制御力を広げる。


「三、二、一、……始め」


 リード殿の声に合わせて、機械人形の目が光り始める。

 そして、その光が灯り終わるよりも先に、それらが全て爆発した。


 *


「な、なんだ。何者だ……」


 俺は映像投影用の魔術道具を通じて大部屋での試験を見ながら、無意識にそう呟いていた。


 魔術道具に映る人影は二人。


 一人は、真っ黒いコートを羽織り、短く刈り込んだ黒髪に、鋭い光を湛えた目を持つ、まだ二十代であろう男。

 もう一人は、上品なスーツと、オールバックにした白髪に、柔和な顔立ちの、もう六十近いであろう老紳士。


 その二人組が、機械人形を起動するよりも早く爆発させ、追加で出てくる機械人形も、一定数まとめてから、肉眼では見えない魔力によって押しつぶす。

 開始地点から、一歩も動かず。身じろぎすらせず、武器も抜かず。

 二人とも一つ目の試験では、魔術ではなく剣技と純粋な武術で巻き藁を壊していた。そして今は、その場から全く動かずに、魔術のみで機械人形を壊している。つまりこの二人は、魔術と剣技、そのどちらに於いても卓越した能力を持っているわけだ。

 一回目の試練……

 先ほどのそれを思い出し、俺はまた、どうしようもなく強い感情に襲われる。


 それは、畏怖。

 そして、興奮。


 実は、クリム氏は一つだけ思い違いをしていた。

 それは、俺が、自分で買った魔術道具でも、測定していたということ。知り合いに頼まれて別の目的で買ったものだったが、自動測定式のその魔術道具はこの部屋にあるので、部屋に入ってすぐに記録履歴を確認した。

 二百分の一秒まで測定出来るというその最新魔術道具で記録した数値は――


 同じく、計測不能だった。


 記録を確認して三分以上経った今でも、未だに戦慄が走っているような感覚がある。

 これまで計測不能を記録した二十一人が用いた測定用魔術道具は、最も最新のものでこれの前世代型。つまり百分の一秒まで計測出来るもので、それで計測不能を記録した人の速度は、百分の一秒未満だということになる。

 それに対して、クリム氏は、二百分の一秒未満。

 つまり、記録上では、最速記録保持者。

 それが、まだ、冒険者ですらないときた。


「何者なんだ、彼は……!?」


 俺はただひたすら、その言葉を繰り返していた。

今回の剣技・魔術・その他です。


気配隠蔽(サインハイディング)

下位魔術。下位看破魔術を使われない限り、気配を読めなくする。気配を失っても視覚でなら捉えられるが、認識し辛くはなる。


蒼の剣術・大弧閃

魔力で刀身を延長しながら、《蒼の剣術・弧閃》と同じ要領で斬る、居合系の剣技。


蒼の剣術・弧閃

鞘に納めた剣を目にも止まらぬ速さで抜刀して斬り、すぐさま鞘に戻す、居合系の剣技。上半身のみの動きで行われることが多く、始まりと終わりの姿勢が一致しているのが特徴。



お読み下さり、ありがとうございます!

もしよろしければ、評価やブックマークをしていただけると、筆者の執筆の心の支えになります。

これからもどうぞ、よろしくお願いします!

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