第二話 攻略開始
「ふぁあぁ、長かったぁ~!」
やっと馬車から出られたよ~!三時間座りっぱなしで缶詰は、流石に堪えるなぁ。
場所は、王国南西部一般街第四区の中で、〈骨狼迷宮〉に一番近い馬車駅。ここまでずーっと、馬車の中で揺られつつ、クリムさんとジィさんとおしゃべりしてた。あぁ、お日様の光が懐かしい~…。
「あぁ。もう昼前だな。先に昼飯でも食うか?」
まぁ、私の後に降りてきた二人は、全然平気そうだけどね。
「ううん、私はこのまま行けるよ!クリムさんは?」
「俺は平気だ。ジィ、どうだ?」
「問題ありません、坊ちゃま、カンナ様」
「じゃあ、さっさと行こっか!」
ということで、馬車駅から歩き始めて十数分。大通りの遠くに、派手ででっかい建物が見えてきた。言うまでもない、〈骨狼迷宮〉のダンジョンパレスだ!戦狼の頭蓋骨が飾ってあるから、間違いないね。
「〈骨狼迷宮〉に入場する冒険者は、こちらに並んで下さーい」
って言ってる門番さんの言葉に従って、十人ぐらいの列に並んだ。十分と待たずに列は流れて、すぐに私達の番になる。
「〈銅の称号者〉、カンナ・ベイブスです!」
「〈鉄の称号者〉、クリム・ロンガルソだ」
「〈鉄の称号者〉のジィのと申します」
門番さんにギルドカードを見せて、私達はダンジョンパレスの中に入った。ダンジョンパレスの内装って、どのダンジョンもあんまり変わんないんだよね~。違うのは、魔石の形ぐらいかな?
「このダンジョンも装備とかは中で整えられるから、まずは入っちゃおっか」
「そうだな。さくっと倒そうぜ」
「うん!」
クリムさんに勢いよく返事してから、真ん中に鎮座してる六角柱型の魔石に、三人で手を触れる。
それじゃあ、いざ、転移!
「ここが〈待機エリア〉か」
「うん、そうだよ!前の冒険者さん達はもう入ってるんだね」
私達が転移したのは、〈骨狼迷宮〉第一層の待機エリア。壁の一面に荘厳な大扉がある、学校の教室ぐらいの大きさの、石造りの部屋みたいな場所だ。ここではモンスターは出ないから、装備を整えたり、回復したり出来る。あとは、前の冒険者さん達が中で戦ってる間の待機場所だね!
「あ、もう終わったんだ!」
ってクリムさんに言った瞬間に、大扉が開き始めちゃった。前の冒険者さんが、第一層を突破したんだね!
「お疲れ様でしたー!!」
って、まだフィールドの中にいる三人の冒険者さん達に声を掛けたら、
「ああ」
「お前さんらも頑張ってな!」
「第二層で待ってるわよー!」
って、返事してもらえた。良かった、そう言ってもらえると嬉しいな!
「はい、頑張ります!」
反対側の大扉から出ていく冒険者さん達と入れ替わりで、私達が中に入る。第一層のフィールドは、直径が20メルぐらいのドーム状。前の冒険者さん達は魔石を回収しなかったみたいで、青紫の石がフィールドにポツポツ転がってる。
前の冒険者さん達がフィールドから出て、三人全員が入った時点で、双方の大扉がゴゴゴ……と音を立てて閉まり始めた。
「なぁ、カンナ」
「クリムさん、どうしたの?」
「これ、全力で走ったら戦わずに突破出来そうじゃないか?」
あー。確かに、入れ替わりの瞬間だけは、双方の大扉が開いてるからね。
「ううん。ちゃんと戦ってない人は、なんか結界みたいのにぶち当たっちゃったって、抜けられないんだって。不思議だよね!」
「なるほどな…ありがとう」
「どういたしまして!じゃあ、援護宜しく!」
「勿論だ」
大扉が閉まり切ったら、スケルトン達が湧いて、戦闘開始だ。だからその前に、クリムさんに補助魔法を掛けてもら……
「…おぉお!なにこれ!!」
凄い、凄いよ!どんどん力が湧いてくる!なんか、自分がムキムキマッチョにでもなったみたい!今だったら、ジャンプしただけで城壁を飛び越えられそう!
なんてはしゃいでたら、大扉が閉まり切った。
キンッ……――
その瞬間、視界に散らばっていた魔石が、まるで元々存在などしていなかったかのように消え失せ、その代わりに、この世のどんなものを使ったって再現出来なさそうな、甲高い「音」が響く。
イイィィィィイイイイイン……――
続いて「聞こえる」のは、何かが研ぎ澄まされ、そして凝縮されていくような「音」。
それは、魔力の振動が、自分の魔術回路を揺さぶることで「聞こえる」、「音じゃない音」だ。
魔力が凝縮されて魔物が生まれる時特有の、身体の内側が直接震えてるみたいな、静かで、ちょっと不快な振動。魔術回路がもっと強くなれば、「音」としては聞こえずに、感じることだけ出来るようになるらしいけど、今の私にとっては、この「音」だって大切な、モンスターの出現を察知する「耳」だ。
そして「音」が止んだ瞬間、十一体のスケルトンがフィールド中に現れる。
「「「「ケケケケケッ!!!!!!」」」」
骸骨達の大合唱。まぁ、全然怖くないけどね。私だって、もう〈銅の称号者〉。それに後ろには、クリムさんにジィさんがいる。
むしろ、怖がる理由が見つからないね!
よし、まずは、準備体操からっ!
「じゃあ、行くよ…ぉおおおおお!?!?」
ちょっ!待って!あぶないっ!!危なすぎる!!
「ちょ、ちょっと、クリムさん!!何掛けてるの!?」
地面を一歩蹴っただけで、フィールドの端っこまで吹っ飛んだんだけど!!ギリギリで壁蹴っ飛ばせたから良かったけど、壁にヒビ入っちゃったよ!?ダンジョンの壁に!!破壊不能なはずなのに!!
「あー……」
前にミーナ姉さんに《最々上位身体強化》掛けて貰った時だって、めっちゃ足速くはなったけど、ここまでじゃなかったよ!?しかも、《最々上位身体強化》だったとしたら、使ったら滅茶苦茶消耗するはずなんだけど?
もしかして、これって――
「いや……《最上位身体強化》と《最々上位体力節約》を三重発動しただけだが……足りなかったか?」
やっぱりかあぁぁあああ!!!!!!
「逆!!逆だよクリムさん!!私じゃ扱いきれないって!!多重にしなくていいから!」
補助魔術の複合魔術なんて、慣れてるわけないじゃん!普通二種類ぐらいしか掛けないんだから!
「お、おぉ…分かった」
あぁでも、力が抜けてくのはなんか残念…。
だけどまぁ、一歩走ろうとするたびに吹っ飛ぶわけにもいかないからね!というか普通、〈鉄の称号者〉じゃ《最上位身体強化》を掛けるなんて間違いなく無理だし!今のがちょっとズルかっただけだ!
よし、今からホントに、〈骨狼迷宮〉攻略開始だ!!
「いっけえぇぇぇええ!!!」
「危なげがないな、カンナ」
「《最上位身体強化》に《最々上位疲労緩和》だの《最々上位体力節約》だのいっぱい掛けて貰ったからね!瞬殺出来ないとダメでしょ!」
ホントに、冗談じゃなくて一分も掛からなかったよ!身体が羽根みたいに軽いのに、斬りつけただけでスケルトンの骨がバラバラに砕け散るんだもん!補助魔術の有無が戦闘で凄い大事なのは知ってたけど、ちょっとこれは凄すぎたよ!
さて。
魔石を集めるつもりはないからそのまま放置して、入ってきた方と逆の大扉からフィールドの外に出る。そしたら、右に曲がりながら降りていく階段があった。これを降りていったら今度は普通の大きさの扉があって、
「来たか」
「おぉ、早かったな!」
「ホントに追いつかれちゃうなんてね!」
ついさっき話した三人パーティの冒険者さん達が、第二層の待機エリアにいた。
「はい、追いつきました!」
だけど、大扉が開き始めちゃったから、それ以上お話は出来なさそうだ。残念、もうちょっとお話したかったのに。
「あらら、もう時間みたいだね」
「まぁ仕方がない。次の待機エリアで待ってるぜ!」
「分かりました!頑張って下さい!」
よし、ここも全速力で突破しよう!
…なんだけど。
「ねぇ、クリムさん、ジィさん。第一層は私一人で突破しちゃったけどさ、肩慣らしぐらいはしたほうがいいよね?」
そう。勝手に私、一人で突破しちゃったんだよね。肩慣らしもしてもらわないで。
それに、ずっと補助役やってもらうのも忍びないし。極端な話、私はあのボスだけ倒せれば満足だからね!倒したいんだったら、第三、第四層もクリムさんとジィさんに譲ったっていいんだけど。
「いや、俺は無くても大丈夫だが――」
「でしたら、第二層は私にやらせていただけませんでしょうか?」
「ジィ?」
そっか、クリムさんは要らないか。やっぱり凄いね!
でも、ジィさんはやりたいんだね。だったら、第二層はジィさんにお任せしよう!
「うん、じゃあ、お願いします!」
「…任せた、ジィ」
「承知致しました」
*
おい、ジィの野郎……貴様、本当は肩慣らしどころか、起きてる必要すらないだろうが。補助魔術すら掛ける必要がなくなって暇になったからって……。
まぁ、早く終わればカンナがあの冒険者達と話せるし、良いっちゃ良いか。
*
ということで、数分後。
前の人たちと入れ替わりでフィールドに入った私達は、十体のスケルトンと二体のスケルトンナイトに囲まれてた。
「カンナと俺の周りには障壁を張った。ジィは好きなようにしてくれ」
「ジィさん、頑張って下さい!」
とはいっても、私はクリムさんの障壁の内側だから、全然危なくはないんだけどね!
「そういえば、ジィさんが一人で戦うところって初めて見るなぁ~!ねぇ、クリムさん。ジィさんって、どう戦うの?」
「どう戦う、か……。…あいつにスタイルとかねぇしな……」
「え?」
「いや、すまん。独り言だ。まぁ、見てれば分かる」
そっか、じゃあ見てよう!
「それでは、参りますね」
そう静かに言ったジィさんは、武器を一切手に持ってない。〈回廊迷宮〉でも魔術ばっか撃ってたし、魔術に相当、自信があるみたいだね!でも、いくら魔術が得意だからって、あれはちょっと勇気がいると思うんだけど…。
…なんて思ったのは、杞憂だったかもしれない。
ジィさんは《凍槍》を三本、同時に空中に浮かせてた。
同一上位魔術の三重発動……すごい!私は補助魔術と一緒に上位魔術を一つ使うのでめいいっぱいなのに!流石はクリムさんの執事さん。やっぱり実力は、私より上だね!
そして空中から射出された氷の槍が、近くのスケルトン三体を粉々に砕いて、そのまま骨ごと氷の塊に閉じ込める。まぁ、骨はすぐ魔力に戻って魔石になっちゃったから、へんな空洞がある氷塊が残っただけだけどね。なんか、ちょっと歪なアートみたい!
その攻撃が合図になったみたいで、他のスケルトンもジィさんに殺到してきた。だけど、ジィさんは《爆風砲》を二発同時に撃って、敵をまとめて壁に叩き付ける。スケルトンはそれで粉々になったけど、スケルトンナイトの二体だけは、叩き付けられてもギリギリ生き残ってた。
「ケケッ!?」
「ケタケタッ!?」
おぉ、あのスケルトンナイト、配下のスケルトンが一気にやられたことに驚いてるらしい。スケルトンナイトの間抜け面がよく分かるね!骨だから表情筋ないけど!
「《不可視の圧潰》」
そしてスケルトンナイトは、戦闘態勢を整えさせてすら貰えずに、ジィさんの一言で、見えない力に圧し潰されて骨粉になった。
「凄い、ジィさんも凄いよ!〈鉄の称号者〉じゃ全然無いって!」
「ご冗談を。あれが私の限界で御座いますよ、カンナ様」
「それこそ冗談だってー!」
まぁ、とにかく大扉が開いてきちゃったので、第三層に行こっか。魔石はさっきみたいに、置いとけばダンジョンが勝手に魔力に戻すからね。回収しないんだったら、放置しといて大丈夫。
「それじゃ、次は第三層だね!どんどん行こう!」
だって攻略は、まだ始まったばっかりだもんね!
今回の剣技・魔術・その他です。
凍槍
《氷槍》の上位魔術。物体を穿った後、それを氷の塊に封じ込める。
爆風砲
《爆風》の派生形上位魔術。圧縮空気の爆発に指向性を持たせる。
不可視の圧潰
最上位魔術。魔力をそのまま使って物体に圧力をかけ、抵抗させずに圧し潰す。
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