第二十五話 戦い方
とうとう第一章、完結します!
「改めて、本当に申し訳なかった。まさかあんな面倒なことになってるとは、夢にも思ってなかった」
食後、剣の整備などを一通り終えた、午後十時。カンナは疲れたらしく、もう部屋で寝ているようだ。いつもなら食堂にいる他の冒険者達も、もう各々の部屋に戻っている。服を着替えた俺は、ジィを残して一人で食堂に降りると、両手でマグカップを持って椅子に腰かけるミーナ殿の姿を見かけた。少々時間があるので、ミーナ殿に声をかけて、その席の横に腰を下ろす。
「いいえ、気にしないでください。先程も言いましたが、本当に怒っているわけじゃありませんから。……まぁ、社交が面倒なのは事実ですけどね」
そう言ってミーナ殿はくすりと笑い、マグカップに口をつけた。口調は、どうやらこっちが本来のミーナ殿のようだ。…確かに、ミーナ殿の愚痴を聞く限り、社交と言うのは確かにかなり面倒くさそうだった。
「……むしろ、ロンガルソさんには、感謝しています」
しばらくして、ふと、ミーナ殿が口を開く。
「どのように?」
俺がそう聞くと、一口マグカップのコーヒーを啜ってから、ミーナ殿は話し始めた。
「私達〈白金の称号者〉では、颱風竜に歯が立ちませんでした。それに、増援として来た〈黒の称号者〉の方も、申し訳ないですが、余り竜族討伐依頼に向く方ではなくて」
…あぁ、そうだろうな。〈竜眼〉の名の通り、竜族は俺同様に魔力を見る〈眼〉を持つ。つまりハルツのあの魔法では、俺同様にあまり効果が無いだろう。飛竜に乗れて最々上位魔術を多重発動出来るというだけで、十二分に最高戦力ではあるだろうが。
「……私は、後方支援職です。強化魔術や弱体化魔術を掛けながら、大規模魔術を行使する。そのためには、周りを見て、周りの動きをサポートしてあげないといけません。だからそのために、後方からお願いしたり、提案したりしていました。そうしているうちに、いつの間にか私は、〈我らが指揮官〉だなんて呼ばれるようになって」
小さな呟きは、食堂のランタンの淡い灯の下に溶けていく。
「前線では、本当に技術を使って、武器を振るって戦っている人がいる。なのに私は、後方で気楽に指揮を取っているだけ。なのに、「勝てないかもしれない」って思った瞬間、足が震えて、動けなくなってしまったんです。本当は、前線で戦っている人達の方が、もっともっと怖いだろうに」
ミーナ殿の横顔は、長い髪に隠れて見えない。
「それで立てなくなってしまいそうだった時に、貴方が来てくれたんです、ロンガルソさん。おかげで私はまた、指揮を執れました。守りたかった数十万の人々を、ちゃんと守れたんです」
だけど、こちらを向いたミーナ殿の顔は、儚く笑っていた。
「貴方は、私の、私達の希望だったんです。貴方がいたから、私はあそこに立っていられたし、貴方がいたから、みんなは最後まで戦えた。そういう意味でも、貴方は颱風竜と戦っていたんです」
それからミーナ殿は、ふふっと笑い声を漏らす。
「私が本当に怒っていたのは、きっと、貴方がそれを、認められにいかないからでしょうね」
「面倒ごとは勘弁だ。仮に栄誉あることでも」
思わず咄嗟に反論してしまったが、ミーナ殿は特に気分を害するでもなく、そのまま話し続ける。
「えぇ、そうかもしれませんね。でも、貴方は、それを受ける義務があるんです。だって、貴方は」
雨上がりの山に咲いた、一輪の紫陽花のような笑顔で。
「私達全員の、〈英雄〉なんですから」
「二股とは感心しませんな、坊ちゃま」
「誤解のある発言をするな、ジィ。というかそもそも、ミーナ殿は婚約者がいる」
「それならば、カンナ様一筋で御座いますか」
「…なぁジィ、ちょっと話し合いたいんだが良いか?外の大通りとかどうだ?」
「やめておきましょう、坊ちゃま。この王国が壊れてしまいます」
「まぁ、だろうな」
時刻は、午後十一時。ミーナ殿が帰宅し、ランタンも落ちて本当に暗くなった食堂で、俺とジィは小声で話していた。
「それじゃあ、行くか」
「承知致しました」
音も立てずに表扉の鍵を開けて、そのまま滑り込むように大通りに出た。規則的に並んだ、しかし壊れたのか灯っていないのも時々ある街灯が、人通りの少ない大通りをぼんやりと照らす。
「なぁ、ジィ。ハルツの話は、本当か?」
「ハルツ様の話とは、超能力のことで御座いましょうか」
「あぁ」
目的地に着くまでの間、俺はそんなことをジィに聞いた。
「だって、魔力を見る、つまり術式を見るのは――ジィも出来るだろ?」
ハルツは俺の魔力を見られる能力を〈超能力〉、特殊能力だと言った。
だがその能力は、元から俺が持っていたものじゃない。
幼いころから、ジィに教わったもの、だ。
だから、超能力は教わって身に着くのか否か――それが知りたかった。
「半分本当で、半分間違い、と言うところで御座います」
「どういうことだ?」
ジィは歩きながら、俺の方を見て言う。
「魔力を見ることが出来る〈竜眼〉は、確かに超能力で御座います。凡人が使用可能な能力では御座いません」
「だが?」
「普通に魔力を捉えるのも、〈竜眼〉も、根本的な原理は全く同じなのです」
「つまり?」
「普通の人間は、魔力を手掴みで探っております。ですから触れている部分の魔力の動きしかわかりませんし、気を掛けていないところまで魔力を捉えることは出来ません。ですが、この〈手〉が無限に増え、それで常に周囲を触っていれば……」
「……まるで「見えている」かのように、魔力を捉えられるということか」
「然様で御座います」
なるほどな。つまり俺は、その〈手〉を鍛えたことで、〈竜眼〉が使えるようになったってことか。
……しかし、それにしても。
「なんでジィは、そんなこと知ってんだ?」
「坊ちゃまがお気になさることでは御座いませんよ」
「……つまり、自分で発見したってことな……」
相変わらず、俺の執事は恐ろしいな。
しばらく夜の道を歩き、目的地が見えてきたところで、俺は小声でジィに声をかける。
「ジィ」
「承知致しました」
その瞬間、俺らの周りを莫大な量の魔力が取り囲み、そして視界が真っ白に染まる。そして次の瞬間には、俺らの目の前には、透き通った紫色の、大きな四角錐があった。
その四角錐こそ大型の魔石、つまりダンジョン。つまりここは、迷宮宮殿の中だ。俺とジィは、ジィの転移魔術《土煙に塗れた亡霊》で、ダンジョンパレスの中に転移したのだった。
如何なる魔術であれ、魔力を熾すのがまず犯罪。それもそれが転移魔術となれば、強盗未遂並の重罪だ。
それを俺らは、躊躇いもなく発動した。
そのまま俺とジィは、示し合わせたかのように、二人揃って魔石に手を重ねる。
そして再度、今度は本当に信じられないほど途轍もない魔力が俺らを包み、そしてまた視界が真っ白に染まった。
次に視界に入ったのは、ごつごつとした暗い岩で出来た壁。振り向けば、ジィと台座に乗った魔石だけの、小さな個室の中だ。
つまりここは、今日の昼前、カンナたちと一緒に来たダンジョン。〈回廊迷宮〉だ。
俺とジィは目くばせすらせず、躊躇いなく回転扉を開く。そして襲い来る魔族達を見据えて、
「「《十に分かたれる霹靂》」」
全く同時に、全く同じ〈戦略級〉魔術を、左右に向けて発動した。
目の前の数体の敵に、紫の電撃が放たれる。そして次の瞬間、それを受けた敵から一気に十の雷が別の敵に放たれ、それを受けた敵からもさらに十の雷が放たれ――
ほんの数秒にして、回廊を埋め尽くす全ての魔族に雷撃が伝わり、全てが散った。
「中は」
「無視して大丈夫かと、坊ちゃま」
短く言葉を交わしたのち、俺とジィは外側の壁に向き合う。
「この岩……やっぱり、あれだよな」
「私もそう思います」
「だったら……まず、これでどうだ」
俺は再度魔力を熾し、周囲に千もの水の槍を生み出す。最々上位魔術《千瀧槍》が、目の前の岩の壁に、ほんの少しの時差を持って殺到した。爆発音じみた轟音が狭い空間に轟き、後続の水の槍との摩擦で熱くなった水が蒸発して、濃密な霧のカーテンが生まれる。そしてそれが晴れた時、
破壊不能とされるダンジョンの壁が、10メル近くも穿たれていた。
「〈戦略級〉魔術を使わずに、10メルですか。流石です、坊ちゃま」
「ジィなら余裕だろ、これぐらい。残りは任せたぞ」
「承知致しました」
そう言って俺は下がり、ジィが代わりに穿たれた壁に対面する。ジィはその穴の中に入ると、掘り返されて不安定な地面に片膝をつき、右手を前に突き出した。
ジィの右手の前に、眩く輝きながら高速で回転する、光の円盤が現れる。
「《全ては浮世の憂い如く》」
その円盤は目の前の壁に吸い込まれるかのように進んでいき、
それが通過した壁が、風に流されて崩れ去った。
「……やっぱ、その魔術、反則だろ」
「射程が20メルしか御座いませんから、釣り合いが取れているというものです」
「いや、そうじゃなくてだな……」
なんて愚痴りながらも、俺は完全に貫かれた壁の向こうを見据えて、ジィの横に立つ。
貫かれた壁の向こうは――
どんよりとした黒雲と、焼け焦げた赤褐色の空。
上空を吹き荒れる、微かに砂の混じった暴風。
何処までも続く、赤茶けた岩だらけの荒野。
視界の奥に連なる、黒々とした山脈。
果てしなく広がった、明らかに人間界ではない、世界。
それを俺らは、高度数千メルぐらいの上空から、吹き付ける風に髪を乱しながら、見下ろしていた。
「……やっぱり、か」
「まさかとは思いましたが……」
その荒れ果てた世界を見ながら、俺とジィは半ば無意識に呟く。
「……あぁ、間違いないな」
当たってほしくない、嫌な予感ほど、当たるもんだぜ。
「ここは、――――」
今回の剣技・魔術・その他です。
十に分かたれる霹靂
《電撃》の派生形最々上位魔術。《冪乗放電》で対象に付与する術式の数を10個に増やした魔術。〈戦略級〉魔術に認定されている。
全ては浮世の憂い如く
最々上位魔術。触れた物体の分子結合を断つ光を高速回転させ、円盤状にする。最強の盾かつ矛となり得るが、移動させるのが難しく、また展開可能距離も短い。
ここまでお読み下さり、ありがとうございます!
この話を以て、第一章は完結となります。一応エタったと思われたくないので連載完結とさせて頂きますが、ちゃんと第二章以降も書いていくつもりです。全く方向性は決まっていませんが。← 取り敢えず、カンナ視点で一話、間章として日常の話でも書こうかなぁ。
展開自体は大方予想通りだったんですが、何故か第四話から第二十五話までの二十一話がこれ全部一日の出来事っていうのが() 一日で暗殺者撃退して冒険者登録してダンジョン攻略してドラゴンぶった切ってデビルぶっ倒すって……流石にクリムとジィ、暴れすぎじゃないか?(笑)
あと、やっぱり一話が長すぎる!これじゃ更新追いつかない!…ということで、第一章の一話を全部、1~3話に分割します。これが投稿された時には全話終わってる……といいなぁ。(願望)(多分無理←)
P.S. 完了しました!これで本当に第一章完結です!(2021/02/24)
この後は、少々別作品の執筆に移るつもりでいます。ですので、こっちの更新はさらに遅く――うーん、どれくらい遅くなるかな。((
一応月一では必ず出します。週2回が目標。() あらすじでも書いてますが、ブックマークだけして他作品の下に敷いといてくだされば幸いです。
ということで、かなりの急ピッチで進みましたが、一応これにて第一章は完結です!第二章からも楽しみにしていて下さい!
ここまでどうも、ありがとうございました!
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これからもどうぞ、よろしくお願いします!




