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第十八話 黒幕

颱風竜(ハリケーノ)を操っていた黒幕は、一体…?

 ミラストリア王国は、〈悠久の草原〉という広大な草原に囲われている。

 草原を超えて王国に入るなら、大体どこからでも徒歩で丸一週間ぐらいはかかる。それぐらいに、この草原は広い。

 とはいえ、周りに何もないわけではもちろんない。

 ミラストリア王国は、〈大陸〉の中だと西南に位置する国家だ。

 北に行けば、〈頂上の山脈グレイテスト・マウンテンチェーン〉を始めとする山と荒野の世界。

 東に行けば、〈歎きの渓谷(ディストレス)〉に阻まれた後、豊かな自然が広がる大地。

 南に行けば、港町の国の一つ〈スワイル〉を跨いで広がる大海。

 そして西には、大陸の西南の海岸全てを埋め尽くす、〈終わりの樹海(エンドフォレスト)〉。


 俺らが入国したのは、王国の西側の城門だった。そして今は、東側の城門付近にいる。だが、向かうのは西北――〈終わりの樹海(エンドフォレスト)〉の北東に存在する共和国、〈ガーツ〉。


 そこが、颱風竜(ハリケーノ)を操って、王国にけしかけた奴の根城だ。



 *


『何者だ』


 それは、疑問を呈する。


『どうやって、気付いた』


 誰もいない地下円蓋(ドーム)の中で、それの声は誰にも答えられずに、反響する。


『何故こうも運悪く、あれは現れた』


 それは、難しい顔をして、独白を進める。


『人間の暗殺者は、雇った』

『暗殺者は、無能ではなかった』

『だが、死ななかった』

『むしろ、一瞬で無力化された』


銀色の魔狼(シルバー・ハイウルフ)も、撃退された』

颱風竜(ハリケーノ)も、撃退された』


『あれは、ただの人間ではない』


 それは、そう結論付ける。


『では』

『あれは、余にとって、脅威か?』

『否。脅威ではない』

『但し、小賢しい』

『潰しておくのが賢明だ』

『〈軍〉の進軍を早めるとする』


 それは、手だと思われるものに顔を近づける。


『何者だ』


『この余の計画を覆さんとする、人間は』


『何者だ』


 それが握る、魔石の表面。

 そこには、黒の短髪に黒のコートを羽織る、若い男が映っていた。


 *


「…見られてるな」

「はい。恐らく、魔術道具の類でしょう。魔力を追跡することは可能で御座いますが、如何なさいますか?」

「いや、良い。勘だが、分かる。颱風竜(ハリケーノ)をけしかけた奴と同じ奴だ。場所はガーツ中央部。…逃げる気は、無さそうだな」


 王国から出て、約十分。昨日入国してきた時と全く同じ魔術を発動して、俺とジィは草原を駆け抜けていく。


 ちなみに今のこの会話は、《魔力念話(トランシーバー)》で行われたものだ。だが昨日の俺は、《最々上位身体強化(アシスト・マキシマム)》《最々上位疲労緩和(リリーブ・マキシマム)》《最々上位体力節約リデュース・マキシマム》《空気誘導(エアラン)》《地面硬化(ハードロード)》の五つの魔術の術式を、全て同時並行で制御していた。

 そして俺では、その五つを全て処理するのが限界で、《魔力念話(トランシーバー)》で話す余裕が無かった。

 それが悔しかった俺は、今朝の散歩中、〈(いざない)〉に追跡されながら、この五つの魔術の術式を一つに融合させた術式を考えていたのだ。

 それぞれを独立した魔術として扱うのではなく、合体させた一つの魔術とすることで、それぞれの術式をそれぞれに制御することなく、より安定して制御出来る。

 元々《最々上位身体強化(アシスト・マキシマム)》《最々上位疲労緩和(リリーブ・マキシマム)》《最々上位体力節約リデュース・マキシマム》の三つは元から関数がないから術式をくっつけてもあまり問題なかったし、《空気誘導(エアラン)》《地面硬化(ハードロード)》も関数を廃して術式を単純化することで、術式それ自体の強度や制御性を引き上げてある。

 《空気誘導(エアラン)》を関数処理しない分以前より空気抵抗は増しているかもしれないが、それでも魔術の発動は結果として格段に容易になった。


 それが、俺が今朝編み出した最々上位強化魔術、《流星(スターラン)》。


 高速で走るだけという()()()魔術だが、こういう障害の少ない地形なら、その速度は飛竜(ワイバーン)の最高飛行速度のそれに匹敵する。こんな()()()をしなくても《流星(スターラン)》以上の性能を出すジィは相変わらず規格外だが、今はそれでいい。


 その規格外っぷりが、今は最高に頼もしい。


「ぶっ飛ばすぜ、ジィ。最高速でな」

「勿論で御座いますとも、坊ちゃま」


 *


『〈軍〉の用意が整った』


 それは一人、地下円蓋(ドーム)の中で呟く。


『少々予定は狂ったが、始めるとするか』


 そしてそれは、その場で立ち上がる。


『全〈軍〉の指揮官どもに告ぐ!』


 地下円蓋(ドーム)をビリビリと震わせる声、否、咆哮で、それはそう言い放った。


『進軍を開始せよ』

『進軍先、ミラストリア王国』

『憎き大地に、終局を(もたら)せ』


 それが放つ獣の咆哮に呼応して、地上が(たけ)りの熱で震え出す。

 そして青空が急に、紫電を纏う黒雲で覆われた。


 *


「…おい、嘘だろ…」


 あれからさらに走り続けて十分。やっと《魔力探知(パワーサーチ)》の範囲内にガーツ共和国が入った。《流星(スターラン)》のおかげで《魔力探知(パワーサーチ)》を使えるようになった俺は、自分でもガーツの魔力反応を確かめている。

 そこで感じたのは、


共和国(ガーツ)全土が、魔族(モンスター)で埋め尽くされてる…?」


 しかし、想像したくもない、悪夢だった。


「《最々上位魔力探知パワーサーチ・マキシマム》で確認致しましたが――間違いありません、坊ちゃま」


 だがジィの淡々とした声が、しっかりと俺に現実を突きつけてくれる。ジィは、こう言う時でもやっぱり頼もしい。


「共和国内の魔力反応は全て魔族(モンスター)。人間、獣人、その他生物の魔力反応は――ゼロで御座います」


 つまり。


「ガーツ共和国が、陥落した…?」


 今日、国家が一つ、消滅した。



 ガーツ共和国は、〈終わりの樹海(エンドフォレスト)〉北西部に面して国土を持つ、対魔族(モンスター)()()の国家だ。


 国の祖とされるのは、ガーツ何とか。〈終わりの樹海(エンドフォレスト)〉内に居座っていためちゃ強いモンスターをその外まで引き出し、最後は相打ちで仕留めた、ガーツ共和国の〈英雄(ヒーロー)〉。〈終わりの樹海(エンドフォレスト)〉最大の怪物を単身撃破したことで〈終わりの樹海(エンドフォレスト)〉に充満していた魔力の濃度が下がり、それまではモンスターが狂暴すぎて近づくことすら不可能だった〈終わりの樹海(エンドフォレスト)〉にも、人間が行けるようになったという。


 そんな〈英雄(ヒーロー)〉の栄光を讃え、その従者達などが建国したのがガーツ共和国だ。ガーツ何とかの永眠の地を中心(首都)として作られたその国家は、立地の都合上モンスターの侵略を頻繁に受ける。なので、ミラストリア王国を参考として築き上げた何重もの城壁が、その国家を囲っているのだ。


 対モンスター特化型の地対地攻撃用魔術道具や籠城戦用攻撃兵器を豊富に揃え、共和国ながら闘志ある志願兵で編成された防衛軍に、世界でも屈指の実力を誇る国防軍を備える、対モンスター戦なら三大軍事国家をも凌ぐと言われる、対モンスター戦に精通した国家。


 それが今日、モンスターによって壊滅させられた。



「数万…いや、数十万体だ。下手したら百万ぐらいいるぞ、これ」


 魔力反応を大雑把に数え上げた俺は、その数を述べた自分の声を聞いて、軽く身震いした。百万体ものモンスター。一体一体はどうしようもないぐらい雑魚いが、百万もいれば話が違う。それらが同時に進軍すれば、人口数十万ぐらいの国家なら、きっと容易く滅ぼせる――


 ――人口数十万ぐらいの国家?


 ……あぁ、あるな。ここのすぐ近くに。


「坊ちゃま、モンスターが進軍しているようです。城壁内から出てきております。進軍方向は」

「ミラストリア王国、だろ」

「左様で御座います」


 なるほど、な。


「誰だが、または何だか知らねぇが、こいつらの将軍様の目的は、ミラストリア王国の奪取。三大軍事国家のうち最も籠城戦に強いミラストリアを抑えて、今後の拠点にでもするつもりか。銀色の魔狼(シルバー・ハイウルフ)颱風竜(ハリケーノ)は、所詮実力の見定めと損耗狙い。本命は、今から来るこの大軍勢ってわけだな」


 そして、普通の魔族(モンスター)に、そこまでの知能はない。モンスター(あいつら)が出来ることは精々、同族と協力するぐらいのことだ。戦略を考えたり、ましてや他のモンスターを従えたりすることなんてまずない。

 つまり。


「今回の将軍様は――魔人(デーモン)、か?」


 俺の口から、うんざりしたような声が漏れる。

 しかしその言葉とは反対に、俺の口角はニヤリと上がっていた。



 魔人(デーモン)。幼い時に大量の魔力に侵されたことで、(ヒューマン)を辞めることになった人型族(ヒューマン)

 普通人間は、外部の魔力が自分の身体の中に流入しないようにするための魔力の壁を、生まれた時から持っている。これは人型族(ヒューマン)――人間だけでなく、獣人やドワーフ、小人(ホビット)など――全てで言えることだ。しかし、これが生まれつき弱い者や、あまりにも周りの魔力が強すぎると、人型族(ヒューマン)は魔人になってしまう。


 魔人の姿形は、人間のそれと特に変わらない。だが違いは、肌が特徴的な紫色であることと、明らかに人間のそれではない体躯だ。

 小さな者でも、身長2メルには達する。観測史上最大の魔人は、身長70メルに迫っていたと言われる。どの個体も筋骨隆々で、魔術の扱いも上手い。

 生まれつきの障害で魔人になってしまう子供も稀に存在していて、そういう魔人が人間界で生活している例は割とあるらしい。ただまぁ、どうしても迫害やいじめの対象になってしまっているのが現実らしいが。


 だが今の問題は、そうじゃない魔人。


 悲しいことだが、生まれた子供を捨ててしまう人は未だに多い。国が法律で禁止していても、法を破る人間は後を断たない。

 しかし結構頻繁に、そういう子供は死ぬより先に攫われる。攫うのは大抵、自分の子供だと思い込んだ小魔族(ゴブリン)。そしてそいつらはそのまま、その子供を自分の子供と一緒に育ててしまう。


 ゴブリンの子供がいる場所で、だ。

 つまり、魔力濃度が高く、普通の人間はあまり近づかない場所。


 ただの子供が、その魔力に耐えられるはずがない。

 そうして生まれてしまった魔人は、モンスター達の中で育っていく。そうなれば勿論、常識も性格もモンスター達に近いものになる。


 即ち、強いものが偉い。

 即ち、獰猛であり、残虐であることが美徳。


 そのような性格(こころ)を持つ生物が、人間の知能(あたま)、そしてモンスターの実力(ちから)を兼ね備える。


 それが魔人(デーモン)魔族(モンスター)と化した人型族(ヒューマン)



「坊ちゃまの御予想は正解かと。共和国上空に、大規模な魔術で出来た黒雲があります。これほどの魔術を展開出来るのでは、やはり魔人でしょう」

「…面白ぇ」


 だが、そんな敵を前にしても俺の顔には、笑顔が浮かんでいる。


「さぁ将軍様よ、俺の前にその無様な顔、晒してもらおうか」


 きっと他人が見れば、獰猛と言うであろう笑みが。

今回の剣技・魔術・その他です。


流星(スターラン)

本話参照


最々上位魔力探知パワーサーチ・マキシマム

魔力探知(パワーサーチ)》の最々上位魔術。《魔力探知(パワーサーチ)》の範囲を格段に広げ、情報を完璧に鮮明にする。



お読み下さり、ありがとうございます!

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これからもどうぞ、よろしくお願いします!

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