第十六話 偽らされた英雄
すみません、魔術などの名称を変更します。
旧)上位魔術《運動偏向》
↓
新)最上位魔術《運動偏向》
《永久夢中》と同じです。上位魔術では少々簡単すぎると感じたので。
過去の話の方は既に変更いたしました。
宜しくお願いします。
ミラストリア王国の王城は、どちらかというと要塞に近い。
それは、もし一般街城壁、貴族街城壁、王都城壁の全てを突破された場合に、全国民をその内部に収容して文字通り最後の砦になるからだと、昔、まだ九つのカンナが、花が咲いたような笑顔で教えてくれた。
煌びやかや荘厳、華々しいという言葉が似合いそうな宮廷や城は他の国でいっぱい見てきたけど、ミラストリアの武骨で厳然とした王城が、やっぱり一番私は好きだ。そこには、国民のことを本気で守ろうとしている、ミラストリア国王の意思が現れているように感じるから。
まぁ、いくらそんな半要塞の王城とはいっても、こういう場所は他と変わらず、綺麗に飾られているんだけどね。
「吾、第十八代目ミラストリア国王、グランク・ミラストリアの名に、及び、ミラストリア王国の名に於いて、其方、ミーナ・フレッシュに、〈英雄〉の称号を授ける。この王国の名と称号に恥じぬ、素晴らしい活躍を期待している」
「誠にありがとうございます」
だってここは、王国の第一謁見室。
国王の座がある場所だからね。
――って、私、なんでこんなとこにいるの!?!?
*
「…それで、ジィ。これからどうするんだ?」
取り敢えずぶった切った颱風竜の胴体二つを《座標固定》でその場に固定し、飛んで来た飛竜の背に飛び乗った俺は、ジィの後ろからそう声を掛けた。太陽の光を反射して明るく輝く靄の中で、俺は言葉を継ぐ。
「この胴体は消し飛ばせるから処理には困らないが……俺らは地上に戻るのか?それか…」
帰る方法について考えようとしたら、
「いえ、坊ちゃま。颱風竜の遺体は、処理すべきではないかもしれません」
ジィは、別のところを指摘してきた。
「どうしてだ?」
「遺体が無ければ、王国は今後も颱風竜に怯え続けることとなりましょう」
「あぁ…」
そう言われて俺も、ジィが何が言いたいか察しがつく。
「しかし、坊ちゃまや私が討伐したと言ってもまず誰も信じないでしょうし…」
「…逆に下手に信じられると、注目が集まって面倒、か。俺一人ならまだしも、ジィまで目立つのはな」
あの約束は決して形だけのもののつもりでしてはいない。約束は、履行されなければ意味がないのだ。
「分かった。颱風竜の遺体は、人の多い何処かに落とそう。俺らは逆に、それと同時に人の少なそうな場所に降りるか」
「良い案かと存じます、坊ちゃま」
「じゃあ、それで頼む」
「承知致しました」
そういった瞬間に飛竜が下を向いて垂直落下を始め、鋭く冷えた風が耳を刺すように駆け抜ける。別にこの程度の寒さに今更震えたりはしないが、不快なことには変わりないので、《空気誘導》を俺とジィの周りにだけ展開する。
そして雲を抜けた瞬間、視界一杯に超大型の大都市――ミラストリア王国の全貌が目に入った。
中央に悠然とそびえたつ、大型要塞のような黒々とした王城。
王城と対比するような白い建築が目立つ、美しく整えられた王都。
所有者の財力と権力を主張して、様々な趣を醸し出す貴族街。
判別出来ないほど小さい、無数の家々が連なって出来た一般街。
俺とジィが……俺らが救った、無数の人々の生活の痕が、それらのそこかしこにあった。
「…人助けってのは、良いもんだな、ジィ」
不意に口元に浮かんだ笑みを隠すこともなく、俺はジィの背中に言葉を投げる。
「これほど壮大な人助けでは、余計にでございましょう」
「あぁ。正直、颱風竜倒すのに目一杯でつい忘れてたぜ。俺らは人の命と、その生活を救ってたんだったな」
俺の行動は、きっと誰かの救いになっている。それを実感出来ていなかったかもな、俺は。
「…まぁ、これで魔術ミスってこいつ落下させようもんなら、結局大惨事だけどな」
なんて呟いた俺の言う「こいつ」は、言うまでもなく颱風竜の遺体のことだ。真っ二つに裂かれた遺体の《座標固定》はもう解除してあり、一つは王城内部、もう一つは冒険者ギルド本部前に向けて、《運動偏向》で――《空気誘導》で操作するには、断ち切られたドラゴンは些か形が複雑すぎた――誘導している。だが、落ちてきてるのはドラゴンの身体の半分、落ち始めた高さは上空およそ一万メル。もし最後の魔術に失敗してそのまま落下させようもんなら、それこそ大災害になるのが目に見える。
「こいつ落としても、颱風竜撃退したので清算出来ると良いが」
「まず落とさなければ良いだけではないでしょうか、坊ちゃま」
「まぁ、そりゃそうだがな」
とは言え流石に失敗することもなく、颱風竜の遺体は目的地に落とした。一方俺らは、幾つかの隠蔽魔法を纏って丁度入国した城門前の大広場に降り立つ。
「さて、後はこいつをどうするか…。勝手に飛び帰ってくれると思ってたんだけどな」
飛竜から飛び降りた俺は、その巨体の真っ赤な竜皮を右手でとんとんと叩いた。
「よく躾けられているのが災いしたようでございますね。どうやら、騎乗者が居ないと飛ばないようです」
どうやら、騎乗者に操られるまで一歩たりとも動かないよう躾けられているらしい。いくらジィが言い聞かせても、帰ってくれそうにない。
「流石に精神干渉系魔術なんて使えないしな…。勝手には帰ってくんねぇが、だからといって放置したら大惨事が起こるし…」
ドラゴンが攻めてきた、と言う情報こそ持っていても、それがどんな種類かまで国民に情報が回っているとは思えない。こいつを見れば、多分ここら辺のシェルターから出てきた住民がパニックに陥る。それでは余りにも、国民の皆が不憫だ。…何でか、カイト総ギルド長が不憫とは感じなかった。
「しゃあねぇ。少し遅れるが、先にこいつを送り届けるか」
とぼやいた、その直後。
「ミラストリア王国全区域の全国民の皆様。ミラストリア王国軍臨時総指揮官、〈天馬の翼〉所属の〈白金の称号者〉、ミーナ・フレッシュと申します。私は、本日午後一時三十一分現在をもちまして、颱風竜の討伐が完了したと判断致しました。それに伴い、全国全区域の緊急臨時避難体制を解除致します」
王国全域に配置された音声伝達用魔術道具から、良く通る女性の声が流れて、人気のない大通りに静かに響いた。
勿論その声は、地下シェルターの方にも流れていたようだ。地底から響いた勝利の雄叫びが、地面を揺らしたような錯覚を覚えた。いや、錯覚ではなく、実際にシェルターから、声と振動が漏れているのかも知れない。
「勝ったぞぉぉおおおお!!!!!」
「やっったああぁぁあああ!!!!」
「王国軍と冒険者の人達お疲れ様ぁぁぁああ!!!!」
何故なら、口々にそんなことを叫びながら、シェルターの入り口があったのであろう建物から、一斉に人が雪崩出てきたからだ。彼らは歓喜の元に外に出て、颱風竜がもたらした惨状に息を呑み、それでも、
「王国軍と冒険者の皆がやってくれたんだ。街の修復ぐらい、俺らがやってやんぞ!」
「「「応ッッ!!!」」」
誰かが叫んだこの言葉に、力強く応える。大通りに立つ男達、女達の目は、決意と闘志でギラギラと光っていた。
そして次の瞬間、
「お、おい、ドラゴンだ!ドラゴンがまだ居るぞ!!」
「待て、あれは飛竜だ!あいつは乗り物で…」
「知ったことか!同じ竜族だろ!みんな逃げろ!!」
「「「きゃあああぁぁああああああ!!!!!!!」」」
…案の定、大混乱に陥った。
これには思わず俺もジィも失笑してしまう。いくら予想出来ていたとは言え、ここまでのものか。どうやらこの様子だと、飛竜の背に乗った鞍にも、その横にいる俺らにも気付いていないみたいだ。隠蔽魔術掛けといたら、もうちょい違ったかな。
…まぁ、これだけで済んでくれれば、別にまだ良かったんだが。
別な意味で面倒なことを、音声伝達用魔術道具から流れる声がやらかしてくれた。
「西部一般街第八区の皆様、並びに、現在城門前大広場におります飛竜と、それに騎乗なさっておりました二名の冒険者方。現在、二名の冒険者の方の闘志を讃えまして、王国軍から迎えの者を向けております。どうかそちらでお待ち頂けますと幸いです。また、その場におります国民の皆様も、不敬なきようどうぞよろしくお願い致します」
今度の声は、先程の女性とは違う、軍紀の匂いを感じさせるような、丁寧で抑揚の薄い女性の声だった。
…って、それがなんかの慰めになるよ?
今の、殆ど俺らがドラゴン倒したって宣言したようなもんじゃねぇか!!
「え、王国軍が迎えって…」
「何、あの二人組相当やばいのか?」
「ちょ、え、もしかして」
そして、残念ながら勘の良いミラストリア王国の国民の皆様は気付いてしまう。
「あいつが、ドラゴンを倒した、とか…?」
一人の男の呟きが、漣のように交わされていた声を、静寂に均し上げていく。
痛いほどの視線が俺らに刺さり、俺とジィの動きを抑え込む。悪意に満ちた視線なら、俺は幾らでも撥ね退ける自信がある。だが、この類の視線に晒されるのは、正直言って初めてだ。
「あー、えっとー…」
結局、内心結構狼狽していた俺が身体で取れた行動は、その情けない声を上げるだけだった。また声の漣が大広場と大通りに広がって、俺らに遠巻きに見る視線が集中する。
やがて、王国軍が派遣したんであろう馬車の音が聞こえてきた。その頃合いを見計らって、やっと硬直が解けた俺は、一つ息を吸ってから、声を上げた。
「みんな、聞いてくれ! 俺は、ただの〈天馬の翼〉所属の冒険者だ。別に何も、凄いことはしていない。自らのやるべきことをやり抜いただけだ。…だが、今回の颱風竜討伐は、全て総指揮官殿の指揮あってこそだった。総指揮官殿がいなければ、俺達はドラゴンを討伐出来てなかっただろう。あの人こそ、フレッシュ総指揮官殿こそが、この王国の救世主様だ!」
数瞬の間、路地は馬車の音以外が静寂に包まれ、
「そうだったのか!!」
「全ては総指揮官殿が!」
「助かったわ!凄い!」
「総指揮官殿万歳!ミーナ殿万歳!」
「「「「万歳っ!万歳っ!万歳っ!」」」」
次の瞬間、口々に叫ばれた感謝の声の渦がそれを吞み込む。
ミーナ総指揮官を讃える声が大広場と大通りに響き渡る中、俺とジィはいそいそと到着した大型の馬車に乗り込み、そこに従者が来た飛竜も固定されたところで、
「さて、ここまででいいか」
ジィ諸共、馬車の中から消えた。
*
ロンガルソさんめ……勝手に私に栄光を押し付けて。命の恩人とはいえ、帰ったらうんと文句言ってやる。
それにしても、カンナ……。ロンガルソさんの話をすると急にしどろもどろになるから、何かと思って問い詰めたら。まさか、ロンガルソさんがカンナのとこの宿に泊まってるなんて。
まぁ、今回は好都合だったけどね。
さぁ、覚悟なさい、ロンガルソさん…?
クリム「ん?何か今寒気が…」
今回の剣技・魔術・その他です。
運動偏向
最上位魔術。指定した物体、または指定範囲内の物体全ての運動方向を、指定した方向に捻じ曲げる。発動の対象となる物体は制限されないが、運動速度の加減速などは出来ない。
お読み下さり、ありがとうございます!
もしよろしければ、評価やブックマークをしていただけると、筆者の執筆の心の支えになります。
これからもどうぞ、よろしくお願いします!




