第十四話 第二の戦略級剣技
すみません、魔術などの名称を変更します。
旧)負荷過剰刻印破損
↓
新)負荷過剰刻印破損
旧)《螺旋旋風》
↓
新)《螺旋旋風》
過去の話の方は既に変更いたしました。
宜しくお願いします。
そして、空が凪いだ。
空気の流れが硬直し、翼で飛べなくなった颱風竜は、すぐに翼を羽ばたかせるのをやめて、自身の身体に込める魔力を増やした。これを初めて喰らった時は相当慌ててたけど、何度も喰らわせたせいで颱風竜の方も学習したみたいだ。
それでも、その巨体が飛行し続けるには全く足りない。
そもそもドラゴンは、生物物理学的に、翼だけでは飛べない。それに〈魔法〉を組み合わせることで、やっと飛行出来るようになる生物だ。その一方が欠ければ、落下速度を緩めることは出来ても、その場で飛び続けることは出来ない。
降下中だった颱風竜は、浮遊魔法――気流を操って立体機動するあの魔法とはまた別の、竜族が空を飛ぶために使う魔法――を使って体勢を整えようとしているみたいだ。
だけど、私達だって、それを許すわけにはいかない。
もし私が、魔力を見ることが出来たら。
きっと、王国全土が、眩く輝いたように見えたんだろうな。
地上にいる全ての部隊、そしてその指揮下で動いてくれている冒険者達が、一斉に術式を織り上げる。
一人一人が織り上げる術式は微々たるもの。だけど、何百、何千という人が、王国の土地の上で同時に術式を織り上げたら、やがてそれは、ミラストリアを埋め尽くす。
ミラストリアには、この国を守ろうとして広がった、魔力の海が生まれていた。
そして、それらの魔術が発動する。
王国全土から、七色の光が颱風竜に殺到するのを、映像投影用魔術道具越しに。
一万人近い人々から、様々な姿を描いた魔力が送り出されるのを、自分の魔力回路越しに。
私の身体が、感じていた。
「マツギ!?大丈夫!?」
突然、マツギの魔法を超える魔力が颱風竜から放出されて、マツギの魔法が術式破損する。マツギが反動で受けたダメージを心配して、私は思わず叫んでいた。
「……大丈夫です、ミーナさん。ちゃんと生きてます。それよりも……」
だけど、思ったよりも冷静なマツギの声を聴いて安心した私の意識は、さっきから睨み続けている映像投影用魔術道具に向かった。
そして、
「決まった!ロンガルソさん、叩き付けたよ!!」
皆が知りたかったであろう、結果を伝える。
私達の、最後の賭けの、結末を伝える。
「よっしゃあぁぁあ!」
「やっぱりやってくれたわねぇ、クリムぅ!」
「クリムさん、やっぱりすごいっ!」
「今のうちにサイン貰えて良かった……!」
途端に、部隊長を務めている〈白金の称号者〉の仲間達が、一斉に騒ぎ出す。それは、絶望的な未来を打ち砕くに足りる、明るい歓喜の声だった。
「ロンガルソさんは結局〈黒の称号者〉ではありませんでしたが……この感じだと、すぐにでもなりそうですね」
「ほんとね。と言うか今、何の称号なんだろ?」
そんな軽口をマツギと叩きながら、私もその歓喜の輪に加わる。
そして、
莫大な量の魔力が、
真っ白い閃光が、
地上から空に向けて奔った。
「な、なんだ今の……?」
その過剰魔力の余波に打たれた驚きで、私達は一斉に固まってしまう。私達だけじゃない。国中に散らばった部隊員や冒険者が全員、驚きに身を固めていた。ガルカがどうにか呟いた一言が、やけにはっきり聞こえた。
魔力は地上から斜めに、再び飛び上がった颱風竜に向けて伸びていた。颱風竜の高度は約300メル。それが射程に特化した攻撃用魔術ならいざ知らず、今の術式の織られ方は、明らかに剣技のそれだ。
そして、その白い刃に打たれた颱風竜は、竜皮こそ傷を負ってないものの、飛行能力を崩されたのか空中でよろめいている。
つまり、射程300メル超えの、竜族に攻撃可能な剣技。
(一体、誰が…!?)
とは言ったものの、答えは殆ど出ているようなものだった。
私達〈白金の称号者〉の中には、上空100メルのドラゴンを傷つける魔術を放てる人間すらいなかった。王国軍にもいない。となれば、発動者は十中八九、冒険者。それも、〈黒の称号者〉並みの実力持ち。だけど今、この国には、〈黒の称号者〉がいない。
「ロンガルソ、さん…?」
だとしたら、出来るのはこの人、ただ一人ぐらいじゃないか?
「おいおい、マジ、か…?」
「今の、ほんとに、魔術なの…?魔法だったりしなぁい…?」
ガルカやリテは、半信半疑ってところのようだ。確かにあれが魔法なら、少しは納得いきそうなものだけど、
「……いや、あれは多分、魔術ですらない。剣技だ。魔法にしては術式が整えられすぎていたし、逆に魔術にしては見える術式が小規模すぎた。だが、あれは……」
トーマがその可能性を否定する。だけど、彼の台詞も、語尾がすぼんでいた。
「〈戦略級〉の域、かもしれませんね。少なくとも、明らかに〈戦術級〉の域は超えてます」
束の間の静寂に染み込むようにして、彼の消えた声を、皆の予感を、マツギの透き通った声が代弁する。
〈戦略級〉。
それは、それだけで争いごと全体の戦況を変えうる、超大規模技術の総称。
技術というのは、剣「技」と魔「術」を組み合わせた造語のことだ。剣技や魔術以外でも――例えば〈魔法〉がそうだ――、魔力を用いるものは全て技術と言われてる。
そして技術は、四種類に分類されてる。
戦闘時以外で日常的に使うことを想定した、〈実用級〉。
一個人が戦闘時に用いることを想定した、〈戦闘級〉。
戦闘域全体に対して用いることを想定した、〈戦術級〉。
そして、全ての戦況をひっくり返すことを想定した、〈戦略級〉。
例えば、《小灯》《加熱》《冷却》辺りの魔術は〈実用級〉。
《火球》《鎌鼬》《水弾》辺り、そして大方の剣技が〈戦闘級〉。
《芸術氷原》《螺旋暴風》辺りの魔術、《翠の剣術・翠華》《緋の剣術・閃乱》辺りの剣技、それと幾種類かの魔法が〈戦術級〉。
正直に言って、この三つは差があまりないと言えばない。よっぽど熟達した人なら《小灯》で人を殺せるし、《鎌鼬》だけで戦闘の優位性を逆転させる。逆に、下手な使い手なら《火球》を手元に維持することしか出来ず、《水弾》で出来るのは精々洗濯物洗いだ。勿論術式の強度やそれ自体の効果なども影響するけど、結局は使い手がどれだけその技術を使い込み、習熟させたかで、その技術の強さは決まる。
だけど、〈戦略級〉だけは別だ。
現在、〈戦略級〉に認定されている技術は百に満たない。うち約四割が魔術、約六割が魔法、剣技は《皓の剣術・白黒分明》だけ。それも、魔術四割のうち半分以上は、魔法を魔術に体系化し直しただけの魔術だったりする。
そして、いくら〈戦術級〉の技術を極めても、それが〈戦略級〉になることはまずない。大抵の場合、〈戦略級〉に出来るほどの魔力に術式が耐えられず負荷過剰術式破損する。実は私も、カンナに見せたくて限界まで《桜吹雪》に魔力を流し込んでみたことがあるけど、その時も結局術式が負荷過剰術式破損してしまって、《桜吹雪》の基になった〈戦略級〉魔法、《夜を舞い散る桜の刃》みたいに、山を削り飛ばしたりとかは出来なかった。
〈戦略級〉技術は、学べば使えるようになるものじゃない。魔法は当たり前だけど、魔術や剣技でも、筋のある、才能のある者じゃないと使えない。
そんな〈戦略級〉技術だから、勿論使い手も少ない。現在、〈戦略級〉技術を使えると言われている人は、各国や冒険者ギルド本部が公表している人で三十人。非公式を含めても、精々七十人ほどだろうと言われている。全員が違う〈戦略級〉技術の使い手だとしたって、登録されているうちの四分の一は、誰も使えない技術ということだ。
使えるだけで、世界の頂点に君臨出来る技術、〈戦略級〉。
しかも、恐らく未登録。人類未踏、第二の〈戦略級〉剣技。
もしかしたらロンガルソさんは、それを使えるんじゃないか?
この疑問に応えてくれる人は、この場に誰一人としていない。
その代わりに、その技術が放たれたところに突然、何かの生命体の魔力反応が起きた。
他に見るものを失った私は、殆ど無意識のうちにそれに意識を向ける。
明らかに人間より大きなそれは、二つの魔力反応を乗せて、空中高くへと飛び上がった。
今回の剣技・魔術・その他です。
小灯
下位魔術。手元に小さな光を灯す。
加熱
下位魔術。指定した物体を加熱する。
冷却
下位魔術。指定した物体を冷却する。
水弾
下位魔術。水の塊を生み出し、相手に発射する。
芸術氷原
最上位魔術。自分の場所から地面を凍り付かせていき、地面に触れているものも同時に凍らせていく。広範囲に効果を与えるなら大量の魔力を長時間流し込む必要がある。
皓の剣術・白黒分明
《皓の剣術・白刃》を発動した剣を素振りし、指定した範囲内に存在する全生命体にその斬撃を加える。剣技だが魔術の性質も強い。
桜吹雪
《鎌鼬》の派生形最々上位魔術。とても小さく鋭い《鎌鼬》を無数に生み出し、指定方向に纏めて飛ばす。
夜を舞い散る桜の刃
幾千という魔力を桜の花びらの形に整え、自分の意のままに操る。魔力は物体(通常は固体という条件)に触れることで風による斬撃効果を生み出す術式を纏い、物体を切断する。
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