第十三話 誰かの希望
「トーマ班、ユノ班、攻撃用意!第三区域に侵入させないで!」
「「了解!!」」
打てば響くような仲間の返事に、私はほんの少しだけ冷静さを取り戻した。
このミラストリア王国に、突如現れたドラゴン。風竜、〈颱風竜〉。
こういう事態にはミラストリア王国軍と連携を取ることを約束しているらしい〈天馬の翼〉は今、王国軍の指揮下に入るという形で戦線を共にしている。
だが、あちら側の指揮系統が損傷してしまったため、今この国にいる〈天馬の翼〉の中で最も称号が上で、かつ指揮を執ることに慣れている私が、臨時総指揮官として、王城地下の臨時中央指令室から国中に散った部隊の部隊長を代理している仲間の指揮を執っている。
「こちらトーマ、攻撃が通った様子無し」
「こちらユノ、同様です!第三区域、攻撃されます!」
しかし仲間から伝えられるのは、非情なまでの現実。
「あぁっ!!!」
もう何度目かも分からない、颱風竜が地上に降下して建物を荒らしていく姿を、映像投影用魔術道具を通して、私は悲痛な思いで見つめた。
「副官さん。住民はあの場にいないんでしたよね?」
「はい。全国の全区域に於いて、全住民の地下シェルターへの避難は既に完了しています」
「ユノ班、トーマ班、負傷者は?」
「こちらトーマ班。負傷者ゼロです」
「こちらユノ班。負傷者2、共に治癒魔術で回復可能なレベルです」
「良かった……」
つまりまだ、人的被害は出てない。だけど、それは颱風竜が人を殺すことではなく、王国を荒らすことを目的にしてくれているからだ。ドラゴンが本気で人間を殺そうと思えば、この程度の被害では済まないはず。
「みんな、あと三十分でギルドが派遣した〈黒の称号者〉が到着するから、それまで耐えるよ!」
そう言って私はみんなを励ますけど、でも、三十分も耐えられないと、まずみんな気づいてる。
三十分後には、この国はもう修復不能なダメージを負う。
「どうするべきなの……?」
だけど、このまま何もしなければ、この王国は本当に数年間立ち直れないような被害を受けることになる。国がどんな風になるかは、冒険者として様々な国を回ってきたから、なんとなく想像がつく。そこは、経済が縮小し、通りから商売の声が聞こえず、街から活気が消えた、まるで死人の街のような場所だ。
というかそもそも、本来冒険者ギルドは、一国に助力するようなことはしてはいけないことになっている。ギルド本部と同等とすら言われる影響力を持つ〈天馬の翼〉だから超特例で許されたことで、普通に考えたら私が今ここで指揮を執っているのはおかしいのだ。
でも、私はこの国を、此処に住まう数十万の人々を助けたい。その一心で私は、此処に立っている。
だって、立っているだけなら、私にだって出来るから。
「マツギ、貴方の《そして空は凪ぐ》はいける?」
「今すぐにでも打つことは出来ますが……打ててもあと数回です。……そうですね、三回というところでしょうか」
「三回……」
それで三回妨害したところで、三十分も耐えられるわけがない。だけど、マツギの保有魔力が尽きてしまえば、彼は死ぬことになるのだ。それに、もう既に二十回近くも打ってもらっていて、これ以上は彼の身体や魔力回路を損傷することになる可能性がある。
(実質、あと一回、ってとこかな)
問題は、その一回を、いつ使うか。
マツギの〈魔法〉、《そして空は凪ぐ》。
効果は、広大な範囲の空気の流れを抑制し、強制的に停止させる。この魔法の範囲内なら、空気にどのような衝撃が加わっても、それはすぐさま動きを凍り付かせる。
つまり、この魔法の範囲内では、ドラゴンは空を飛べない。
これが、マツギが《翼殺しのマツギ》と呼ばれる所以であり、そして彼が竜族討伐依頼で重宝される理由である〈魔法〉だった。
航空戦力が存在しない――例外は男竜人とアトランダ皇国の〈七皇剣〉ぐらい――この世界では、それこそドラゴンでも襲来しない限り使われないため、大抵の国で対空戦力が疎かにされている。
それは、アトランダ皇国、マトガイン帝国と並んで世界三大軍事国家とされるミラストリア王国でも同じだった。一応形式としては存在していたものの、あまりにも旧式なその魔術道具では、いくら魔力をつぎ込んでも大した攻撃にはならなかった。
だから私達〈天馬の翼〉の〈白金の称号者〉が自ら魔術を発動して攻撃しているのだが、所詮は人間一人が織り上げる術式。弱体化魔術を掛けず、魔術道具も使わずに、距離も遠いこの状況で、竜皮を破るほどの火力は、最々上位魔術を使っても実現出来なかった。
(〈黒の称号者〉が一人でもいれば……いや、せめて、それに匹敵する人がいれば……)
……〈黒の称号者〉に、匹敵する人?
そんな人が、無名のままこの世界にいるわけなんて――
(……もしかして、あの人なら)
あの人なら、それだけの実力があるかもしれない。
あの人なら、この戦況をひっくり返せるかもしれない。
そう思った瞬間、私の目の映像投影用魔術道具に、本当に、その人の姿が映った。
彼の身体から目が眩むほどの膨大な魔力が溢れ出て、そして颱風竜の動きが不安定になる。私は直観で、彼が何をしているのか、そして何をしようとしているのか分かった。
だったら、私だって彼を援護出来る。そして、そのためにはまず、部隊の士気を上げないと。
そんなこと、簡単だ。
「ロンガルソさんだ!ロンガルソさんが来た!!!」
私の叫びに呼応して、仲間の歓喜の雄叫びが、通話用魔術道具を壊しそうな勢いで轟いた。
「ロンガルソさんは、《空気誘導》で颱風竜の姿勢を崩し、地面に叩きつけるつもりだよ!だけど、これまで戦ってきた私達なら分かると思うけど、颱風竜の降下気流を下向きに固定するのは難しい!下手すれば被害が拡大する!
だから、先にマツギの魔法であいつを落下させて、姿勢を崩させるよ!そしたら颱風竜は慌てて上向きの気流を作り出すはずだから、それをロンガルソさんに捻じ曲げてもらおう!」
「全軍全部隊、上空100メル地点のドラゴンに攻撃する手段を持つ人は、全員それの用意!持たない人は、持ってる人達と自分を防護魔術や障壁魔術で守って!」
「マツギ、上空100メルに颱風竜が入ったら、そこから地上までの範囲に《そして空は凪ぐ》を展開して!三回分の魔力、全部流し込んでいい!あいつの動きを封じられるだけ徹底的に封じて!」
慌ただしく指示を飛ばし、部隊がどんどん動いていく様子を見ていたら、不意に私は、王城地下の中央指令室の映像投影用魔術道具に、一人の可愛い従妹の姿を見つけた。
もう彼女も二十歳、立派な大人だ。だけど、未だに健気に、ひたむきに生きている。
汗だくになりながら兵士達に水や汗拭きを配り、シェルターなどにいる冒険者に援助を申し出ている彼女の姿を見て、
「ありがと、カンナ」
とだけ、小さく呟いた。
そして私は、最後の賭けに出る。
全てを、自分の、仲間の命を救ってくれた、たった一人の男に賭けて。
「こちらマツギ。《そして空は凪ぐ》を発動します」
「了解。……全部隊、攻撃開始!!!!」
今回の剣技・魔術・その他です。
そして空は凪ぐ
本話参照
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