第十一話 カンナの独白
あまりにも、圧倒的すぎだった……
いや、まぁ確かに、私はまだ、ただの〈銅の称号者〉だよ?〈黒の称号者〉や〈白金の称号者〉のような圧倒的な力を持つ冒険者でも、ミラ先輩のように二つ名を持つような冒険者でもない。
もし私一人だったら、銀色の魔狼の群れどころか、銀色の魔狼一体ですら倒せないだろうな~って思うもん。
だけどね、私の年の離れた従妹には、〈天馬の翼〉に所属してる、最近〈白金の称号者〉になった冒険者がいるの。私は彼女と仲が良かったから、会えた時にはよく依頼に連れて行ってもらってたなぁ~。彼女の本気だって、何度か見せてもらった。いっつもいっつもすっごい魔術使ってて、彼女は今でも私の憧れ!
それに、ギルド本部に入ってからは、称号を問わず色んな人に会った。〈黒の称号者〉に会ったことだってあるの!だって、私の仕事は、そういう人達の本当の実力を把握して、適切な称号を与えることだからね。
だから私は、自分の実力は低くても、人の実力を測るのは得意なんだ。
……得意な、はずだったんだよ?
(クリムさん、貴方は一体、何者なの……!?)
昨日の夜、始めてクリムさんに会った時は、あんまり凄い人だぁとは思えなかったんだ。第一印象は〈銀の称号者〉で、強く見積もって〈金の称号者〉、ってぐらい。それでも、銀色の魔狼を倒したんだから、きっと本当は強い人なのかなぁとは思ったけどね~。オーラは凄かったし!
だけどね。今日の朝、ジィさんとクリムさんの冒険者登録を外のベンチで待っていた時に、偶然ミーナ姉さん――〈天馬の翼〉所属の従妹に会ったの! びっくりした、休暇でもないはずなのに、なんでかいるんだもん。
話を聞いたら、〈天馬の翼〉内で伸び盛りの〈白金の称号者〉を集めて連結部隊を組み、何体か竜族を狩ってたんだって言ってた。だけどその帰り道、〈悠久の草原〉で雷撃竜に襲われたんだって。
「だけどね、そこでね、クリム・ロンガルソって人が来て、《翠華》で雷撃竜を一刀両断しちゃったの!」
そして、ミーナ姉さんは笑顔で、こんなこと言い出したんだよ!?
――……いや、驚くでしょ?
ロンガルソさん……一人で、ドラゴン、倒したの?
竜族は、この世界に存在する生物の中で、二番目に強い種族って言われてる。一番目は〈龍〉――ただ、〈龍〉が種族か否か、そもそも生物なのか否かは結構学者によって解釈が違うらしいから、詳しくは知らない――、三番目は、エルフって言われることが多いかな。
なんでドラゴンがそんなに強いかっていうと、〈魔法〉を使うからと、空を飛ぶからと、竜皮と言われる強力な外皮を持つから。鋼より硬い竜皮を傷つけるには、よっぽど切断力に長けた魔術か、優れた威力を誇る翠の剣術が必要だって言われてる。それも、魔術なら最上位以上、剣技でもそれぐらいに匹敵する、すっごいやつ。私は、魔術だと上位魔術の《瀧槍》、剣技だとぎりぎり最上位かもしれない《蒼の剣術・隼》が限界だからなぁ……全然無理だ。
なのに、《翠華》で、一刀両断?
まぁ、確かに《翠の剣術・翠華》は最上位魔術に匹敵する剣技だけど、だからって、そんあのあり?
これまで話してた、穏やかで礼儀正しくて、〈称号〉の順番を知らないようなクリムさんとは、ちょっと結びつかないよ。
というか、そんな人と私が、これから一緒にダンジョンに行こうとしてるなんて、想像もつかない……。
でも、私は、クリムさんの何を知ってるの?
その後、カイト総ギルド長にばったり会って、クリムさんとカイト総ギルド長の緊迫感に満ちたやりとりで精神的に疲れちゃって少し休ませてもらったり、ミラ先輩を説得したりしたけど、とにかくその後、ダンジョンには来れた。
クリムさんは、随分と余裕そうだったから、やっぱり強い人なのかなぁって思った。だけど、最上位豚魔族を「知能は低い」呼ばわりはちょっと……。確かにおつむのほうさ多分相当弱いけど、あのバカ力はほんとに脅威なんだって!クリムさん、ほんとに、抜けてるとこと抜けてないとこの差が激しいよ~…。
まぁいっか、離脱するぐらいなら出来るって、ってそのまま扉開けて、私がゾンビだのゴブリンだのを剣で一体ずつ倒し始めたら。背後で、びっくりするぐらい膨大な魔力の反応がしたの!思わず振り返っちゃったら、何体ものモンスターの突撃を、涼しい顔で見逃すクリムさんが!!
「クリムさん!?」
思わず泣きそうな声が出たのには、ちょっと驚いたけどね。
その次のことには、もっとびっくりした。
クリムさんの左手から打ち出された、回廊を埋めつくすほどの暴風の渦。それが、回廊一杯にいたモンスター達を、たった一撃で片付けた!!
あ、いや別に、あの魔術自体には、そんなに驚いてないよ。あれは、最上位魔術《暴風螺旋》。別に〈白金の称号者〉なら基本誰でも、〈金の称号者〉でも半数近い人が発動出来る魔術だからね。銀色の魔狼を殲滅したクリムさんなら、使えてもまぁ、変じゃない気がする。
だけど、
(術式を、変えた……!?)
クリムさんは、なんと、回廊に沿って曲がっていくアレンジを加えていたの! 術式の織り方を変えたんだとは思うけど、でも、術式って、普通あんな簡単に変えられるもんじゃないよ?
うーん、結局どっちが、本物のクリムさんなんだろう……?
それが分かんなくて少し私の動きを鈍くしていたけど、それを上回るぐらい強力なジィさんの《上位身体強化》で、いつもと同じぐらいには戦えた。ジィさんも、やっぱり結構凄い人なんだなぁ。
そしてその後、ちょっとした好奇心から、私はクリムさんとジィさんにボス攻略を押し付けた。どれだけ派手な剣技で、どれだけ凄い魔術で倒してくれるのか、それが知りたくなったからね!
でも。
そこで見せられた、あの魔術は。
あれを発動するのは、どう考えても、〈黒の称号者〉でも無理!
というか、この世界にいる、どんな人間でも無理っ!!
直感で、感覚で、肌で、分かっちゃった。
それぐらい、これまでの人生で感じたこともない、人間が出せるだなんて思えない量の魔力だった。
そして、身体が裂けてもなお、無傷で復活するなんて。もうそんなの、魔術なんかじゃない。魔法だって、そんなに凄くはないよ。
桁違い。次元が違う。超生物。
そんな稚拙な言葉しか紡げなくなるぐらいに、圧倒的だった。
(ねぇ、正体を教えてよ、クリムさん……)
一体、貴方は…………何、なの……?
*
そして暗い迷宮宮殿の吹き抜けの外周に転移した俺は、ジィとカンナをその場に残して、全力でダンジョンパレスから飛び出す。
だがもう、街を満たす異常な量の魔力だけで、俺の予想が正しかったのは証明されたようなもんだ。それでも一応、何かの勘違いだと嫌なので、俺はダンジョンパレスの外を見まわした。
多くの一般人が、冒険者が、王国憲兵の支持に従いながらも、慌てて走り回っている。店は全て閉まっていて、人が集まってる場所以外、なんだか閑散としている。
ふと、空気がやけに乾燥していることに気づいた。秋では、ここまで湿度が下がることはないはずだ。
そう思った時、ふっと俺のいる場所が日陰になった。
そして頭上に、莫大な量の魔力反応を捉えた。
「逃げろ!こっちに来たぞ!!」
誰かのその悲鳴に、怯えながらも指示に従っていた一般人が、とうとう恐怖で、屋内の入口に殺到する。最早街は、混沌の巣窟となっていた。
予想が当たってしまったことを確信しながらも、俺は空を仰ぐ。
そして、やはりそうだったと、分かってしまう。
「竜族だぁぁああ!!!」
清々しいほど綺麗な青空の中を、黒い大きな影が――
ドラゴンが、悠々と泳いでいた。
今回の魔術・剣技・その他です。
蒼の剣術・隼
敵の横を高速で走り抜けると共に斬り付け、背後に回ってから背中をもう一度斬る。
上位身体強化
《身体強化》の上位魔術。身体の出力を強化する。
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