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第零話 始まりの草原にて

誤字報告等々していただけると助かります!してくださった方はありがとうございます!

更新は超絶不定期です。お許しください。…コメントを見つけたら鬼のように頑張るかもしれませんが。(笑)

「《(あか)の剣術・閃乱》ッッッ!!」


 無数の赤色の閃光が、世界を縦横に切り裂いた。

 閃光に呑まれた竜族(ドラゴン)――正式呼称、雷撃竜(パラライザー)――が、苦しそうな呻き声を上げる。赤い閃光が閃いた後の黄色と黒の竜皮には、血が溢れ出す深い傷が刻まれていた。

 ドラゴンの前にいるのは、二十人弱程の人間。その内の六人程が集団の前で剣を構えて竜に相対しているが、みな身体がボロボロだ。彼らを庇うようにして、その最前線に俺はいた。

 雷撃竜(パラライザー)が首をもたげる。


「全員、避けろっ!!」


 俺の声と同時に、慌てて人間の集団が左右に割れる。その間を、雷の奔流が駆け抜ける。

 掠れば重症。触れれば即死。直撃すれば、死体すら残らない。雷撃竜(パラライザー)の〈魔法(マジック)〉、《雷ノ吐息(プラズマ・ブレス)》。

 だが、その集団の人々は、しっかりと致死の攻撃を避け切った。 

 そして同じくそれを避け切った俺の目が捉えたのは、《雷ノ吐息(プラズマ・ブレス)》を吐いて、ほんの少しだけ動きの止まったドラゴンだった。


「はああぁぁあッッッ…」


 片手でも両手でも振るえる俺の剣に、左腰の横で左手を添える。そのまま全身の魔力を自分の制御下に置き、あるべき形へと姿を変えさせる。

 幾度となく振るった、最高の愛剣。磨き抜かれた、得意の剣技。この一撃なら、例え竜族(ドラゴン)であろうとも、ちゃんと致命傷を与えられるはず。

 そう思った途端。

 身体の中の魔力が、恐ろしいほどに増大した。

 唐突なその変化を抑えきれなくなる、と思った次の瞬間に、魔力は引き締められてどうにか元の形に戻った。ただし、その密度は桁違いだ。さっきまでの俺の魔力が岩なら、これは匠に鍛えられた鋼――


「《(みどり)の剣術・翠華》ぁあッッッ!!!!」


 その変化にもお構いなく剣技(スキル)は発動し、空に向かって、緑に光った俺の剣が降り抜かれる。

 その剣に沿って伸びた魔力は、緑色の光を纏って――

 ――目の前のドラゴンを両断した。



「「「「「すげええぇぇぇええええええ!!!!!!」」」」」


 刹那の静寂の後に、嵐のような歓声が飛ぶ。


「すげぇ!なんだあの剣技!」

「《(あか)の剣術・閃乱》で竜皮をえぐるなんて…」

「それもそうだけど、最後のなんだよ!?あれほんとに《翠華》かっ!?」

(みどり)の剣術にしたって、あり得ない威力だろ…。〈黒の称号者(ブラックカラー)〉か、あいつ?」

「急に飛び込んできたと思ったらこれっ!?こりゃあ惚れるわぁ!」

「あ、あの、サ、サインください!」

「俺もお願いします! あ、あと出来ればお名前も…」

「そうだ、あんた何て名前だい!?俺はお前を一生忘れねぇぜ!」


 みんなが興味深々と言った顔で、興奮を押し殺して俺の顔を見る。

 …あぁ、これ答えないと終わらないやつだよな。俺は他にさっさとやりたいことがあるのに。


「俺の名前はクリム。クリム・ロンガルソだ。所属は…まぁ、いずれ分かる」


「クリム!クリムだな!?分かった、一生かけてこの恩は返す!」

「ロンガルソ…? 〈純色の三家(キング・スリー)〉でも〈色付き(カラーズ)〉でもないのに、ここまで強いやつが…?」

「いずれ分かる、だってっ! やばい、かっこよすぎて死んじゃう」

「こりゃあ、これからはクリム・ロンガルソの時代だな!」

「クリム! クリム! クリム!」

 そう大歓声を送ってくれる集団を半分笑顔で適当にあしらいながら、俺は別のことを考えていた。


 あんのジジィ、今度は何やりやがったっ…!


 ほんの一瞬だけ俺が睨みつけた先には、白い髪を綺麗に後ろになでつけ、穏やかに微笑む老紳士が居た。

 二十人前後の集団の誰も、その老人の存在に気付いていなかった。

 一体何時そこに現れて、一体何処から、一体何をしていたか。

 その場でそれを知っていたのは、ただの一人としていなかった。




「おい、今度は何しやがった?」


 惜しまれながら先ほどの集団と別れ、二人で草原を歩き始めて数分。

 彼らの姿が見えなくなったところで、俺は横を歩く老人に言う。


「何のことでしょうか?」

「いや、しらばっくれんな。あの魔力が爆発的に増えたやつだよ。あんな強化魔術(バフスキル)、聞いたことないぞ」

「あぁ、最後に坊ちゃまに気持ち程度にお掛けした魔術のことですね」

「いや、気持ち程度って……あれ、明らかにおかしいだろ。魔力が数倍に引きあがったかと思ったら、魔力が()()()()()()()()()()()()()なんて。今度はなんの隠し技だ?」

「隠し技とは物騒な。坊ちゃまもご存じのはずですよ」

「俺が知ってる?あんな化物(バケモン)みたいな魔術、神聖技(ゴッドスキル)ぐらいだろう。しかも制御外の魔力まで制御させるなんて、どう考えても無理だ」

「いえいえ、ありますとも。仲間の魔力と制御力を増大させる魔術は」

「はっ、そんなご都合のいい魔術なんてあるわけ……

 …おい、ちょっと待て」


 あぁ、確かに今、一つとある可能性に気づいちまった。だけど、これだけはあり得ん。というか、これが当たりなわけが無い。頼む、これは外れであってくれ……


「まさか……《魔力回路接続(ネットワークコネクト)》、じゃないよな…?」

「正解ですとも、坊ちゃま」


 目の前の老人が微笑んだ。


「なんだそりゃああぁぁぁあああああああああ!!!!!!!!!!」


 俺の叫び声が、一帯の草原に響く。



 最上位魔術、《魔力回路接続(ネットワークコネクト)》。

 それは、自分を他人の魔力回路に接続することで、一時的に味方に魔力とその制御力を貸し与える魔術。他人の魔力回路を利用することで、自分の実力を疑似的に一気に引き上げる、最強の魔術。

 ……ではなく、ただのゴミ魔術だ。

 と言うのも、これを行使した発動者は発動した仲間に魔力回路を一部奪われるのだから、魔力の制御が格段に難しくなる。つまり、魔術も剣技もまともに使えなくなるのだ。しかも、これを行使すると大抵発動者への負荷が高すぎて、すぐぶっ倒れる。そして、その魔力回路の接続それ自体に多大な魔力と制御力を消費してしまうため、死ぬことを前提にして全魔力と制御力を与えても、並の人間じゃ大した増加にならないのだ。最上位魔術とは名ばかりな、完全に味方を無意味に損耗させるだけの、実戦用途のない無駄魔術だった。


 なのにそれを、このジジィは澄ました顔で発動し、誰にも気づかれることなく、そこそこの量はあるはずの俺の魔力を数倍に引き上げた。つまり、《魔力回路接続(ネットワークコネクト)》を維持したうえで、《失った気配(アンリアライズ)》と《最々上位魔力隠蔽パワーハイディング・マキシマム》を同時発動し、俺の数倍の魔力を俺に貸し与え、それでもなおピンピンしていたわけだ。



「…うん、分かった」

「何をでしょうか、坊ちゃま」

「あんたはおかしい。こんなん、人間が出来ることじゃねぇ」


 そうだ。こいつはおかしい。こんな奴、多分〈魔王〉ですら手に負えない。ただ魔力がどうとか制御力がどうとか、そういう次元じゃない。

 こいつは多分、頭の造りか何から、俺達人間とは根本的に違う。


「坊ちゃま、失礼ですが、そのお言葉はもう既にお聞かせいただきましたが」

「だったらもう一度だ。あんたはおかしい。なんて野郎だ、全く」


 そこで俺は一つため息をつき……そして笑った。


「だから、俺に教えてくれ、ジィ。俺はあんたに近づきたい。冒険者が執事に負けてられるかよ」

「そのような御言葉、恐縮でございます」


 俺の最強の執事は、いつものように優しく微笑んだ。

話の中に登場した剣技・魔術などを紹介します。読まなくても全然大丈夫です。


緋の剣術・閃乱

敵の周りを跳び回りながら、二十一回斬りつける。大型で防御力の低い敵に有効。


雷ノ吐息(プラズマ・ブレス)

大量の電子を吐き出し、経路上のものと周囲のものをプラズマ化させる。


翠の剣術・翠華

魔力で刀身を延長しつつ、最高の威力で剣を振るう。振り上げるか降り下ろすことが多い。


魔力回路接続(ネットワークコネクト)

本話参照


失った気配(アンリアライズ)

気配隠蔽(サインハイディング)》の派生形最々上位魔術。最々上位看破魔術を使われない限り、誰からも一切認識されない。


最々上位魔力隠蔽パワーハイディング・マキシマム

魔力隠蔽(パワーハイディング)》の最々上位魔術。最々上位看破魔術を使われない限り、膨大な魔力を隠蔽し、感じられなくする。



お読み下さり、ありがとうございます!

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これからもどうぞ、よろしくお願いします!

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