日々の営み
昼食は食堂にて。
男 松野隆雄は、ひたすらに米飯を食んでいた。
副菜は鶏と根菜の煮物。
彼自ら、先日行きつけの呑み屋で店主に教わったものを、拵えてきたのだ。
「美味いんすか、それ」
対面に座している若手、相模からの問いかけに、彼は少し口元を緩ませ鶏肉を口に運びながら応える。
「まぁまぁだよ。手前味噌だけども、初めてつくった割には上手くいったようだ」
「そうなんすね。俺、朒にく食ったことないんで気になっちゃって」
そう言って彼は、手元に並べられた麦粥と青菜に視線を向けた。
<身体改良...>
利便性の向上が、すなわち幸福への道となる訳ではない。
25年ほど前から始まった、新生児への施策。
草食動物の消化器官から培養した微生物を移植することで、朒にくを摂取せずとも蛋白質を得られる身体となるのだ。
穀物の不作、疫病などから深刻な食糧難となった煌暦55年※<1> より國が開発、導入を進めてきた技術だ。
昨今若者は青菜のみでも生きていける身体となる一方、朒にくは嗜好品として扱われている。
「うぅむ」
食の多様性の喪失が進む。
そのことに対して憂いを抱いた松野であった。
※<1>...本文では煌暦55年となっているが、あくまで2655年の略であることに留意されたし。