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落第中年 invisible game  作者: アボリジナル・ バタースコッチ
1/22

彼方から155(ミリ)牽引砲の咆哮が響く。


「始まったか」


男はそう呟くと、胸当(チェストリグ)から弾倉を取り出した。

連発銃に装填を行い、右側の槓桿(チャージングハンドル)を引く。

敵機甲部隊があと数刻もすればやって来る。

こちらは丘に身を隠しているため、相手の視線が通ることはないとはいえ、これから攻勢をかけるのだ。

心臓の鼓動はやく、地面や装具に触れた部分から己の血潮が脈打つのを感じた。

最も近くの味方までは20(メートル)ほどある。

微かに見える戦友の顔は、かなり強張っているようだ。


すぅ、と長い息を吐いた。


これまで幾多の戦線を渡り歩いてきた猛者であっても、引金に指をかけるまでの時間は普段の何倍にもなるのだった。


長い時間、硬直していた。


周りは森や崖が多く、男達の正面を敵部隊は通るはずなのだ。


ー 今や味方は潰走。


有力な機甲戦力はなく、部隊の主力は歩兵や砲兵。

火力として期待されるのは、もはや重迫や牽引砲を残すのみであり、後方部隊を護衛しながら撤退するのがやっとであった。

本土に上陸され2週間。

ここまで押し込められるとは誰が予想しただろうか。

そう、男達は敗軍の殿を務めているのである。


「ああ..もっと愉しみたかったなぁ」


やがて國軍は解体され、皿帝(べいてい)の傀儡になる。

そうすれば、自分はどう処されるのか。

果たして一般市民として生きていけるだろうか。

そんな思考を反芻するうち、履帯が地面を掴む音 ー



奴らが、姿を現わす。



肉眼では豆粒ほどに見えるが、光学機器を覗くと その全貌が露わとなった。


鈍色に光る車体、(そそ)り立つ砲身。

皿帝(べいてい)塹壕装甲車(せんしゃ) S60、兵員輸送車S2の混成部隊が丘陵を越えてくる。

60台以上の車輌が一箇所に殺到する。

S60は6台一列になり、先鋒となって進んでくる。

その後にS2が続いた。

男達が潜む丘まで700(メートル)の所で、突如轟音が響き渡った。

ここからは見えなかったが、味方の誰かが梱包爆薬を起爆したのだ。

それが合図だった。

爆破を喚び水として、一斉に射撃を始める。

なけなしの弾を撃ち込む。

10秒もせぬうちに弾倉が空になる。

装甲車は潜望鏡や視察窓、特に車長のいる展望塔(キューポラ)を集中して狙う。

男の射撃によって左側2輌の動きが止まる。

弾倉を脱着し、装填、槓桿を引く。

弾倉がまた空になる。

装填、槓桿を引く、装填、槓桿を...

その動きを反復する。

手持ちの弾倉は撃ち尽くした。


敵装甲車のうち何輌かは最初の攻勢で大破したが、殆どの車輌はそのまま、鉄の川となって押し寄せた。


遂に男達のいる丘を、装甲車が登りきる。

塹壕装甲車は味方を履き潰し、兵員輸送車が側面銃眼(ガンポート)から鉛を打ち付けた。

味方は悉く倒れる。

自分も弾を受け、倒れこむ。


ヒューヒューと息を吐き、男は静かに運命(さだめ)を呪った。






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