タサキショウタ 1
「さて、こんばんは。えー、今夜も素敵なラヴソングを流していきたい訳ですが―」
月曜日はいつだって憂鬱だった。
騒がしい教室に、窓の外から聞こえるやかましいセミの声。
風で膨らんだカーテンと、教師が乱暴に扱う黒板消しから舞う粉っぽい空気。
夕日の差し込んだ窓際の机と、安っぽいミラーボールみたいにキラキラ輝いた埃たち。
「リスナーの方々にリクエストを募りましたら、えー、こんなに―」
もしかしたら、多くの人たちはそんな環境に満足しているのかもしれない。
いや、満足までしていないとしても、僕ほどは嫌ってなんていないだろう。
異分子は間違いなく、僕のほうなのだ。きっと、誰に聞くまでもなく。
「って、ラジオじゃわからないですよね。ははは、は―」
それでも、とにかく僕は学校が嫌いだった。
小学生から中学生になった途端、突然現れた先輩なんて人種も好きじゃなかったし、
野球部ばかりヒイキする体育教師も好きじゃなかったし、
急に大人ぶって彼女を連れて歩く友達も好きじゃなかった。
「はは、はぁ…。いけないね、DJがこんな憂鬱な声を出してたら―」
だから、僕はいつだって学校のある月曜日が憂鬱だった。
できることなら、永遠に続く日曜日を求めていたかった。
それを僕の幼さだという人もいるだろう。実際、僕だってそう思っていた。
「あー、よし。さて、気を取り直して。いま聞きたいラヴソングのリクエストを募ったんです。そしたら、ほら―」
それでも、僕は僕なりにそのむなしさに抗ってきたつもりだった。
クラスで騒いでいる野球部たちと肩を組んで、はやりの歌を歌ったこともあった。
吸えない煙草を吸って見せるふりをしたこともあったし、親父のウィスキーをくすねたこともあった。
「たくさん、本当に沢山の応募がありました。リスナーのみなさん、本当にありがとう―」
僕は僕できっと、自分が「普通」じゃないことに気づいていたのだ。
だから、「普通」になりたくて、そんな馬鹿なことを繰り返してきた。
その結果、一人で勝手に疲れてしまって、この様だ。
僕は中学二年になる前に早々に落第して、見事、馬鹿な学生から引きこもりに成り下がっていた。
「こんな時だから、気恥ずかしさもなく、臆面もなく愛を語らなきゃならないと思います―」
そうして、学校にいかなくなって気づいたことは、ただ一つだった。
あんなに嫌いだった学校にいかなくなっても、まだ月曜日は僕を憂鬱にさせるということ。
そして、
「小惑星が地球に接触するまで、あと一日です。どうかみなさんに愛がありますように。愛を感じられますように―」
明日、世界が終わるとしても、
「では、聞いてください。忌野清志郎で『世界中の人に自慢したいよ』―」
二度と次の月曜日が来なくなることが分かっていても、
「いままで聞いてくれてありがとう。僕も家に帰ります。さようなら。ありがとう―」
月曜日は僕を憂鬱にさせるのだ。