第6話 発芽
アレス達は巨大熊と対峙してする。後衛のシェイドは後方に下がり、アレスは剣を構え、ミネアは魔法を準備する。
「シェイド、ミネア、行くぞ!」
「「おう!」」
「アレックス、シェイドの所まで下がれ!」
「わかった!」
熊は右腕を振り上げ、最前線にいるアレスに襲いかかる。
アレスは剣の腹で引っ掻きと蹴りを防ぎつつ、隙を見ては熊に斬りかかる。
「アレス、準備完了だよ!」
「了解! すぐ離れるから遠慮無くぶちかませ!」
ミネアが水の魔法を放ち、熊の体が吹き飛ぶ。岩にぶつかり、岩肌にヒビが入る。骨折は免れないだろう。
「シェイド、周りの様子は?」
「熊に怯えて、弱いヤツは逃げた。加勢していいか?」
「お構い無く!」
アレス達は簡単に熊を追い詰めた。トドメは確実に仕留める為にアレスが請け負う。
「"ネオ・クレイムスラッシュ"」
斬撃が熊を襲い、返り血が辺りを紅く染める。
「さて、お仕事終了だな。ミネア、照明魔法をよろしく」
「はいはい。"ファイバー"」
赤い光の玉が、空に昇っていく。
これは依頼達成時や、ピンチや迷子を周りに知らせる為の魔法であり、依頼には必須の魔法である。
ちなみに、これを使えない様な初心者用に、この魔法を詰めたビンが売られているのだそう。
「アレックス、終わったからこっち来ていいぞ」
「うん」
俺を呼んだアレスの方に向かう。上り坂なので、足取りが重い。
「アレックス、これが俺達の仕事の流れだ。この後にも達成の報告とかいろいろあるからな」
「あ、アレス、南からファイバー上がったけど、遠いからしばらくかかりそうだよ。 ざっと見積もって一時間位」
「長いな、仕方ないか」
アレス達が他愛のない会話をしていると……
死んだ筈の熊が少しづつ起き上がる。そして、俺を背後から襲撃しようとした。
「アレックス、危ない!」
「え? うわぁ!」
俺が気づいた時には、既に数メートルの距離。驚いて左手が空を引っ掻く。その時だった。
赤黒い瘴気が左手から滲み出し、熊を切り裂く。
熊は断末魔を上げ、やがて地に伏し、動かなくなる。
「アレックス、今のは?!」
「わからない、何だろ今の」
「ヴァンパイアの技か、何かおかしなことはないか?」
「そういえば、疲れがどっときた」
「成る程、恐らくその技は魔力をかなり消耗するのだろう。アレス、ミネア、荷物を少しだけ持ってあげよう」
後始末の手伝いに来た他の冒険者達と共に、熊の亡骸を運んだ後、アレックスはすぐに寝てしまった。
◆
狭い暗室の中、一人の男が水晶に映る主君に向かって話しかけている。
「計画通りです。種は確実に芽吹きました」
「そうか、それは何よりだ」
「例の技を使えるようになり、威力もなかなかのものです。将来は有望ではないかと」
水晶に写る黒い影が、ニヤリと笑う。
「ほう、なんと喜ばしいことだ。彼のことは引き続き頼むぞ」
「承りました」