第5話 初仕事
「よっしゃーアレックス! 今日もやるぞー」
勘弁してくれよ。朝から筋トレのフルコースなんて。
やっと休みが終わる。
今日の依頼はまだ受けてはいないらしいが、受注したら速攻向かうそうなので、ゆっくりとはしてられないだろうな。
「アレス! アレックス! 朝ご飯だよー!」
ミネアが大声を張り上げて宿の方から呼んでいる。
「了解! 飯だからアレックス、休憩だ」
◇
「アレス、次の依頼は決めたの?」
「いや。でも、今回は軽めにしようかなと思っている。アレックスにはまだ教えることが山ほどある」
「じゃあ、近場になるのか」
「そうだな。でかいのはしばらくはできないから、当分は簡単なのを1日おきにこなしていく生活になるかな」
「アレックス君には早く魔物とかにも慣れてもらわないとね」
朝の団欒。アレックスはようやく彼らとの生活に慣れてきていた。だが、自分の特殊な体質に慣れるには、全く慣れていなかった。
「アレックス、お前左腕真っ赤だぞ?」
「え? あ!」
「アレックス君また太陽に晒したの?」
アレックスが左手を見て大慌てしている。
「だめでしょ、一応包帯巻いておくけど、外さないでよ」
ミネアが丁寧に包帯を巻いていく。
「なんだよミネア、回復させてやれよ」
「シェイド、アレックスに神の加護使えないぞ」
「ごめんね、アレックス君。右だったら簡単に直せたけど、左は火傷させちゃうからね」
アレックスはため息をつく。しょうがないとはいえ、不便なのは本人もいい気がしない。
「アレックス、そんなに気にするなって。他人と違うってのは時には生き抜く為の武器にもなるだろ? きっとアレックスにしかできないことがあるはずなんだからさ、前向きになろうぜ!」
シェイドが必死にフォローするが、朝飯の時間は、いつもより早く終わった。
◇
「これなんかどうだ? 『巨大熊1頭の討伐』準備もあまり要らないし、何よりも場所が街に近い」
「これはどうだろう。『子竜の群れの討伐』急ぎだから報酬も弾むし、一度アレックスにも連携を見せるのはどうだ?」
「でも場所が結構危ないじゃん。もっと後にしない?」
「これはどうだ! 『首なし騎士の調査』戦う必要ないらしいし、まずは荷物運びを慣れさせて……」
「「なんかあったらどうすんだよ!」」
「何、冗談だ冗談。調査とか性に合わんし首なし騎士とか強さ以前に苦手だからな」
「あー、アレスこの前骸骨剣士でビビって泣いてたもんな」
「いや泣いてない! 断じて泣いてない! ……泣きそうになっただけだ」
「はいはい、言い訳はいいから、さっさと選ばないと時間無いよ!」
こんな風に選んでいるのか。何か思ったより軽いな。一応大事な仕事選んでいる時なんだよな……
「アレックス、決まったぞ!」
「今回は巨大熊1頭の討伐になったよ」
「アレックスにとっては最初の仕事だな。説明とかは向かいながらするからよく聞いておけよ!」
◇
山間の獣道へ歩みを進める。アレス達に続いてアレックスは列の最後で荷物を引きずりながらゆらゆらと歩いていた。
アレスは草むらを見た後、アレックスを呼ぶ。
「アレックス、これは熊の糞だ。まだ新しいから近くにいる可能性が高いぞ」
「あ、アレックス君、なんでアレスがこういうのを探してるかって言うとね、今回の様なターゲットが獣とかの時は基本的に相手の痕跡を探して辿るのが基本なの。広い森では見つけなくちゃ何もできないからね。それで……」
ミネアがそう自慢気に話していたが、突然シェイドに止められる。
「ミネア、ストップ。小鬼がいる」
「あ、ホントだ。シェイドよろしくね」
「はいはい、任されましたっと」
そう言ってシェイドは木の上に登り、弓を引き絞る。
ミネアは俺達と一緒に草むらに隠れながら説明してくれた。
「見て、シェイドのお仕事だよアレックス君」
シェイドは群れから少し離れた個体や他の個体の死角にいるゴブリンを正確に音も立てずに一匹づつ射抜いていく。
「シェイドがいるお陰で私たちは無駄に魔力とかを使わなくて済むんだ。もし私が魔法でやったら周りからいろいろなヤツが集まって来ちゃうし、アレスも体力を消耗させちゃうからね。だからこれはシェイドの主な仕事の一つなんだよ」
「片付いた」
「サンキュー、シェイド。いい仕事ぶりだ」
「フ、当たり前だ」
「あ、今のはね、アレックス君に尊敬して欲しくてちょっと格好づけたんだろうね。普段はこんなイタいキャラじゃないから安心してね」
「ちょ、ミネア! 俺の計画を!」
「残念だなー。そんな態度取らなきゃまだ格好いいのに」
「ミネア、シェイド、あんまり大声で騒ぐとでかい獣とかが寄ってくるぞ」
「ははは、大丈夫大丈夫。まだそんなに森の奥にきてないでしょ? 心配しすぎだって……」
ミネアがそんなことを言った時だった。
ズシーン! と木々が倒れる。鳥は鳴きながら逃げ、巨大な獣の咆哮が響く。
森の支配者たる巨大熊。
その雄々しき姿立ち姿は、倒れた木々の真ん中で太陽に照されていた。