第2話 白の肌
アレス達一行は、吸血鬼を倒した後、気絶した少年を連れ、城から脱出した。
その後、一晩開け、アレス達はとある街の宿の一室にいた。
「えっと、とりあえず皆、今回はよく頑張ってくれた」
「依頼の方は、とりあえず成功して、報酬もらってきたからね」
「サンキュー。ミネア」
「とりあえず、数日間は金に困らないね」
「あぁ。だが、一つ、話し合う必要がことがある」
「あの少年のことでしょ」
「その通りだ。俺達のミスにより、彼は半身が吸血鬼になってしまった」
「ミネア、どうにかできないのか?」
「ダメだった。あの時、儀式によって吸血鬼化するのは止まったけど、何度やっても左半身は戻らないの」
「そうか……」
彼の半身は、永遠にヴァンパイアか。
まだ、アレックスという少年は起きて来ない。
これから少年が背負う苦しみは計り知れない。
まだ幼い彼に何と謝ればよいのだろう。
「アレス、自分を責めても仕方ないよ。せめて、彼の今後について考えよう」
「そうだな。ミネアの言う通りだ。とりあえず、彼をどうしよう?」
「親の元に帰すのはどうだ?」
「身寄りがあるならそうするべきだ。だが、見た感じ連れさられてかなり経っている」
「親に帰すにしても、彼の半身はヴァンパイアなんだよ?もしも騒ぎになったら、あの子はどうなるの?」
「……ミネア、じゃあどうするんだよ」
「……」
「シェイド」
「すまん」
「アレス、あの子の様子見てくるね」
◇
気付いたら、ベッドの中にいた。
ヴァンパイアの血が掛かったところまでは覚えているが、そこからは完全に記憶が無い。
だが、俺はあの城から救出されたのは確かだ。
「あ、やっと目が覚めたね」
「おはようございます……」
「敬語じゃなくていいよ。お腹空いてない?」
すぐに「大丈夫です」と言おうとしたが、腹がなってしまった。
「ふふ。それじゃあ今から簡単に作れるもの持ってくるね」
笑顔だけど、それは申し訳なさそうな笑顔だった。
そういえば、手がやたらと白い。真っ白だ。
随分長く太陽の光を浴びていなかったからなのか。
そんなことを考えていたら、魔法使いっぽいお姉さんがご飯を持って部屋に入ってきた。
「ごめんね。こんなのしかなくて。仲間が下で待ってるから、食べたら来てくれる?」
「うん」
持ってきてくれたのはパンとスープだった。
これ結構旨い。だが、肝心な事はそこではない。
お姉さんが部屋からいなくなった後にそれに気付いた。
パンを掴む右手は見慣れた小麦色の手だ。
何故左手が白くなっている。
ヴァンパイアの血って美白効果でもあるのか。
そうだったとしてもやり過ぎだな。
美味しいが、量が量なので、あっという間に食べ終わった。
「食べ終わったんだね」
いつの間にかお姉さんがいた。
一緒に下へと降りる。
下の階には、青年が2人。片方は筋肉質でいかにも騎士みたいな顔、もう片方は、全体的に細い好青年である。
「おはよう。少年、よく眠れたか?」
「はい」
「敬語じゃなくてもいいんだよ」
「でも、恩人ですので」
「別に俺達は当たり前の事をしただけだし、それに……」
筋肉質な方が何か言い掛けた。何かあったのだろうか?
するとお姉さんが少し焦った表情をして自己紹介を始めた。
「私はミネア。魔法使いで、治療も担当してるんだ。何か困ったことがあったら私に言ってね」
「で、この細い方がシェイド。弓使いで、気配を消して先に魔物の数を減らしたり、戦いの時は後ろから援護してくれるんだ」
珍しく誉めるなよ。と、シェイドと言う青年が少し恥ずかしそうにしている。
「こっちのゴリラみたいなのがアレス。ここのリーダーで、大きな両手剣を使って、魔物と正面から戦ってくれて頼りになるんだ。作戦もよく考えてくるんだけど、だいたいは脳筋だから却下するんだよね」
「ちょ、おい!」
「それで、君のこと教えてくれる?」
お姉さんが優しく声を掛けてくれる。
「えっと、名前はアレックス。歳は、連れさられた時が9歳だったので、3年位経ってるから12かな。出身はピーテっていう山間部の村です」
「教えてくれてありがとう。アレックス。よろしくな」
「よろしく、お願いします」
「とりあえず、今まで寝ていたとはいえ、今日はじっくり休んでくれ。あんな環境でずっと過ごしてきてつらかっただろ?」
「でも、怪我したわけじゃないし」
「今のところ、金はあるから、俺達もしばらくはここで休みを取るし、君を一人で歩かせるわけにはいかないからな」
どういうことだろう。
「君の部屋らしき所にあったものは全部持って来たから、必要なものを整頓していてくれ。それと、夜になったら、その……君の今後について話がある」
いやな感じがする。
不安なのが彼らに伝わったようだが、今は言えないのだろう。
それならば聞かないでおこう。荷物の整頓にも時間がかかるだろうし。
今は考えないようにしよう。
「とりあえず、部屋に戻りますね」
「そうか。夜になったら呼ぶからな」
「うん。わかった」
部屋に戻って、無造作に置かれた多くの荷物から、自分の服などをより分ける。
中にはなんでこんなものを……って思うような物まであったが、それは仕方ないとして、日が落ちるまでに必要なものと明らかなゴミを仕分けた。
夕焼けが地平線に沈んだころ、俺を呼ぶ声が聞こえた。