第1話 血
今話は、城に来た冒険者のリーダーの青年「アレス」の視点から始まります。
扉を開けるとそこには玉座に座ったヴァンパイアがいる。
あれが今回のターゲットか。
剣を握る手により一層力がこもる。
「アレス! 作戦通り行くよ!」
魔法使いの仲間のミネアがそう叫ぶ。
「了解! シェイドは後方から援護を頼む!」
「わかった!」
吸血鬼は人から吸血することで、血液と同時に魔力吸い、力を得ている。
まだ奴隷を見ていないが、いないのだろうか?
いないのならこの戦い、かなり有利に運びそうだ。
「フハハハハ! この我を倒そうなど。まとめてかかって来るがいい!」
ヴァンパイアは能力で爪を伸ばし、アレスに襲いかかる。
アレスは爪の連撃を剣で弾くと、隙を見ては斬撃を浴びせる。
数十合、ヴァンパイアと剣戟を繰り広げたころ、ミネアが大声で、
「アレス! 離れて!」
ミネアの魔法が完成したのだろう。
当初の作戦通り、あの魔法を完成させたようだ。
「おっと! させるかよ!」
ヴァンパイアが避けようと翼を広げたところをシェイドが両翼に矢を当て撃ち落とす。
「いくよ! "サン・ブラスター"」
ヴァンパイアに向かって強力な白い光線が放たれる。
光の魔法だ。ヴァンパイアを倒すのにはもってこいの魔法。
欠点としては太陽の届かない場所では完成に時間がかかること位だ。
今回の作戦としては、俺とシェイドが時間稼ぎをして、ミネアがその間にこの魔法を撃ちまくる。
我ながらセンスあるアイデアだ。
しかし、僅かに逸れ、当たったのは肩だった。
「シェイド! 逃げられないように脚も封じるぞ!」
「おう!」
シェイドと俺に挟まれ、攻撃を受けまくる。
「ぐぁぁぁ!」
剣の連撃や矢を何発当ててもまだ動こうとする。
しぶとい奴だ。流石はヴァンパイアと言ったところか。
ミネアの魔法によってヴァンパイアは片腕を使える状態ではないが、それでも俺は押され気味である。
だが、予定通り、ここまま行けばヴァンパイアを討伐できる!
だが予想外があった。いや、ここに来る前に調べるべきであった。
奴隷の少年がいたことを。
まさかこんなことになるなんて……
「いけるぞ! ミネア、シェイド!」
「アレス! いっちゃって!」
ヴァンパイアが扉を見た後に不敵な笑みを浮かべる。
「何が可笑しい」
「いや、君たちには預けるものがあったなと」
「?」
ヴァンパイアはそう言うと、微かに空いていた扉に向かって囁いた。
「アレックス、こっちに来なさい」
少年がフラフラとヴァンパイアの方に向かって歩き出す。
「スレイヴがいたのか!」
「アレックス、ほら早く来なさい」
戦闘どころではない。一刻も早く保護しなければ。
「ミネア! 少年を頼む!」
「解った!」
ミネアが急いで少年を抱き抱える。
少年を保護したが、ミネアが魔法を使えない。
シェイドと俺で倒すしかなくなった。
「ミネア! その少年を外まで! 俺達はコイツを倒したら向かう!」
「アレス!」
ヴァンパイアの爪を胸に受ける。
だが、少年とミネアを逃がさなければならならくなった。そんなことは気にしていられない。
「アレスとやら、ちょっと行って来ますね」
ヴァンパイアは身体をコウモリに変え、ミネア達の方へ向かっていく。
「まずい!」
シェイドも俺も全速力で向かう。
何とかぎりぎりで追い付いた。
少年の目の前で姿を戻したヴァンパイアの前で剣を振りかぶり、
「"ネオ・クレイムスラッシュ"」
しかしそれは浅はかだった。
少年は聖なる物を何も着けていないのに気づかず、俺はヴァンパイアを斬る。
ヴァンパイアの返り血が俺とその後ろのミネア達にふり注ぐ。
少年の身なりから、あることに気づいたミネアが庇うも、左半身にヴァンパイアの血液がかかってしまっていた。
「く、人間めぇ。だが、軽率だったぞ!」
ヴァンパイアはそう言うと、手を突きだし、魔法を唱えた。
「ミネア! 少年が!」
「もう遅い! 我がスレイヴは我の跡を継ぐのだからな」
少年に血が染み込み、左半身が白くなっていく。
「"メルサンクチュアリ"」
ミネアがすかさず解除を試みる。
――しかし、左半身は戻らず。肌は白く左目は金色。
少年は半身だけヴァンパイアとなってしまった。