第11話 紫電
ガイ・ワームが出たのは岩肌が露出した山の中腹。そこまでの道のりはとても険しく、荷物が岩に当たったりして運びにくい
「アレックス、大丈夫か?」
「うん」
「無理はよくないぜ。アレスは昔できもしないのに勝手にドラゴン討伐に行って大変だったんだぜ? 難しいことなら助け借りるのは恥ではねぇよ」
「それとこれとは関係ない」
「はぁ、アレス、俺達の仲だろ? 少しくらノッてくれよ」
「覚えてないな」
「アレスは冷たいねぇ。シヴァ、ここらへんじゃない? ちょうど候穴もあるし」
岩だらけの地面にいくつか穴がある。これはガイ・ワームなどの地底生物が呼吸の為に、開けた穴だそう。
「そうだな。 恐らくこの穴はガイ・ワームのものだ。先に見つけた方から戦闘開始だぜ! イリンよろしく!」
「はいはい。"ストリーム"」
地面に魔法で生成した水を流し込む。呼吸の為の穴なので、呼吸を阻害すれば簡単に出てくるそうだ。
「ミネア、こっちにもあるぞ」
「シヴァ! そっちある?」
「あるぞ! どんどん出しまくれ!」
◇
「こっちの候穴は気持ち悪いくらいの多さだな。ミネア、どんどん行くぞ」
「はぁ。アレス、ちょっとくらい休ませてよ。言っとくけど、アレスもシェイドもガイ・ワームに攻撃通せないんだからね」
「何、鎧剥がせば楽勝だぜ。シェイド、スタンバっていてくれ」
「おうよ! ってここには立ち木一つ無いんだが」
「岩でも登っていてくれ。そんなことよりどんどん流せ!」
「ねぇ、ここ居ないんじゃないの? だって全然出てこないじゃん」
「そんなまさか、突然ドーンとこんな感じで出てくるんだろって……」
アレスの後ろから、装甲に包まれた約10メートル近くある芋虫、通称ガイ・ワームが現れた。
「ちょ、マジか! ミネア、魔法魔法!」
「あんたが近いから撃てないの! 早く離れて!」
「仕方ねぇ!」
アレスがミネアの元に跳んでいくが、完全に標的にされたようで、ガイ・ワームはアレスを追いかける。
「ちょ! アレス来ないでよ!」
「嘘だろ! なんで俺が狙われんだよ!」
「アレス、伏せろ!」
シェイドが弓でワームを射るが、装甲に弾かれる。
「く、口とかを狙おうにも下を向いてて狙えない。アレス! とりあえずミネアから距離を離せ! ミネア、隙を見て魔法だ! 最悪アレスが巻き込まれていい!」
「了解!」
「冗談だろ! 俺はリーダーだぞ!」
「知るか! 自分で撒いたなら自分で回収しろ!」
「行くよ! "ヘルソルト・ベリーフリーズ"」
氷のトゲが空中に現れ、ワームに降り注ぐ。ワームの装甲の隙間に氷が刺さり、その場所の周りが凍る。
「ミネアナイス!」
「アレス! 油断しないで、来てる!」
止まったアレスの方にワームが襲いかかる。しかし、アレスはその場に立ったまま、剣を押さえ
「"金剛障壁"」
アレスが突きだした手の前に半透明のバリアが現れ、ワームの噛みつきを防ぐ。
「シェイド!」
「了解!」
アレスに阻まれたワームは前に進めない。つまり、鎧の隙間を狙える。アレスの意図を悟ったシェイドは弓を振り絞り
「"フリーズアロウ"」
放たれた矢が次々と刺さり、その場所が凍っていく。
アレス達がワームと戦っている所にようやくシヴァ達がたどり着いた。
「シェイドは流石だね。シヴァ、取られちゃうよ?」
「当然だ。勝つのは俺達だからな」
シヴァは岩を足で蹴りながら登り、ワームの上空へ。そして槍を逆手に持って振りかぶり
「"グン・グニル"」
飛ぶ槍はワームの装甲を貫き外皮に刺さる。シヴァはワームの背中に着地して槍を抜いた後、ワームから離れた。
「シヴァ、準備できてるよ!」
「わかった! イリンお願いだぜ!」
「いくよ! "エクス・プロードアクセル"」
イリンの周りに赤い玉が浮かび、ワームへ飛んで行く。ワームに当たった瞬間炸裂しその外骨格を次々と破壊していく。
「コステロ、トリス! まだまだ行くぞ!」
「「おう(よ)!」」
コステロは素手、トリスは斧で、ワームの鎧を破壊していき、気付けばワームの体はヒビだらけ。
すごい、アレスやミネアとは比べ物にならない速さで、ワームを追い詰めた。
「流石破壊なら右に出る者はいないと言われるシヴァ達だな。だが、調子に乗ってると痛い目に逢うんだぜ。アレス! 俺達は美味しいところだけもらっていくぞ!」
「ハッハッハッ! シヴァ、お前達が鎧を破壊するのはいいが、それは同時に俺達に攻撃の機会を与えるようなものだぜ!」
「あ、しまった! 卑怯だぞアレス!」
「残念だったな!」
アレスは剣を天に掲げ、
「五月雨月より来たりて、黒雲走りし紫の刃!」
天からの紫の落雷を剣で受け止め、
「紫剛の副名より、払い給う! "紫電一閃"」
帯電した剣で、ワームを一閃。
大地に紫の雷が走り、全てを焼き尽くした。
「勝負あったな、シヴァ」




