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剣聖エクスカリバー  作者: コウ先輩
1/5

set.1 勇者の意義

「剣の価値は、己の価値である」

 ―――――ウィル・A・ドラゲリオン




 ここは異界。砂塵の舞う中、城が一つ佇む。

「あれが…」

 遠くからでも見える。分かる。莫大な権力が今ここに宿っているのだ。それを知ると、恐怖が襲ってくるのは仕方ない。だが勇気あるものが一人、その城に、恐れも知らずに近づいてきた。

(…長かった…本当に長い旅だった。多くの仲間と出会い、そして別れ、今はただ一人だ。しかしそれによって結ばれた絆が、俺を前に歩ませてくれる。俺達の底に湧き上がる、『勇気』が恐怖に打ち克つ糧なんだ!)

 堂々と前から城へ入り、腰の剣を引き抜く。その剣は艶と白銀を持つ、美しいフォルムの剣であった。


 魔王は二匹の魔物を横に、玉座にて待つ。姿は悪魔そのものだった。種族はサキュバスに近く凶悪な羽を背に持つ。

「小虫が一匹…無駄な足掻きね。その程度の魔力じゃ一撃で木端微塵でしょうに」

 魔王は察していた。魔力だけなら、低級魔族にすら劣ると。ただ魔王は知らなかった。

「…たかが一匹に何を手こずっているの!?いやむしろこれは、こっちに来ている…?」

 気配はついに、扉の前にまで来た。

(なるほど、狙いは私の首ね)

 魔王は落ち着きを取り戻す。万全の姿勢をとって勇者を待つ。扉が開かれる。

 赤い血が剣先から滴る。オレンジの髪が血によってより黒くなっていく。その中の眼光は確実に魔王を捉えている。そのまま魔王のもとへ走り、剣を刺す。

「覚悟!」

 二匹の魔物はすぐさま起き上がり襲いかかる。既に遅く、彼らの間を勇者が抜け、魔王の胸に突き刺す…攻撃は不幸にもはずれ、奇襲は失敗した。だが、それだけで終わるわけじゃない。魔物も牙をむいて喰らおうとかかってくる。その時、血と同時に魔物の体を吹き飛ばす。もう一度試みる魔物。しかし、勇者の術中である。カウンターを合わせ、光の一閃が肉体を一刀両断。もう一匹を鼻に指すように顎まで剣を刺して身を固める。たちまち衰弱して、倒れる。勇者の息はまだ荒くなかった。が、魔王が剣を彼に刺そうとする途端に剣で止めた。鎧が大きな傷を負った。

「してやられたって表情ね」

 黒く、禍々しい剣は邪気を放っている。勇者の剣とは真逆の存在だ。光と闇の攻防、闇の剣が見た通り有利だ。

「…終わりね」

 魔剣が勇者を地獄に陥れんと押し込む。勇者は見切るように剣で受け流し、魔王の剣をちに落とさせる。魔王の目はまだ愉悦に浸っていた。

「はぁぁぁっ!!」

 一閃が魔王を打ち破る。魔王は悲鳴をあげ、身体が青い炎によって消えていく。魔剣だけを残した。


 城は崩れ落ちる。それを外で見守る勇者、魔剣を手にこの地を去った。その英雄の名は…カザ。




 ある街に馬車は辿り着く。血と雨の臭いが中で充満している。銀貨一枚にも臭いが移っていた。

「さ、とっとと帰った帰った!」

(あんなに冷遇しなくてもいいだろ)

 馬車から降りれば快晴、そして目の前には街の人が彼の道を阻む。

「勇者様が…勇者様が帰還なさったぞ!!」

 そもそもだが、魔王討伐の理由はこの街の防衛の任務である。もし倒せなければこの地は廃墟と化していたのだ。それに勇者業の中枢からは街からの撤退を命ぜられ、一度は()()()見捨てられた街なのだ。だからこそ、皆のこの喜びは心からの感謝なのである。決して穢れなどない。

「分かった。でもその前に、勇者業の中枢に連絡をとる必要がある」


 長老のオフィスに立ち寄る。

「挨拶しないのはまだいいとして、そのまま入ってくるのはどうかと思うぞ」

「本当に、すぐ出なきゃならないからな。故郷の人達が待っている。勇者業の中枢から連絡が来たんだろ?」

「おお、そうじゃ。いかにも文書はこの手元にある」

 長老は文書を開き、読み上げる。

「『勇者カザ殿、

 此度の魔族討伐、誠に天晴れである。さて今回の命令違反について、処罰を決行する。至急、中枢都市フランに上京せよ。

勇者連合委員長サウスより』

…これは一体」

「だからよ、見たまんまさ。俺はもう行く」

「ま、待ちたまえ!せめて君を祝して宴を開くべきなのだが」

「気持ちは嬉しいぜ。でももう決めてんだ」

 不思議なことに、彼の顔に寂しさは一つもなかった。彼もまた覚悟を決めた男の一人だったのだろう。



 長旅は続く。この街からフランまではなんと馬車を四回乗り換えなければならない。馬車での移動は騎手はもちろん、乗客にも影響を及ぼす。カザの疲労はとっくにピークを迎えていた。

(まだ三つ目だっていうのに…)

 気晴らしに外の景色で和もうとカーテンを開けると、遠くに機関車が汽笛を鳴らしていた。それは今乗っている馬車より遥かに速く、快適そうであった。

「…」

 自然と嫉妬した。あの街には馬車以外通っておらず、機関車など夢のまた夢、貴族の乗り物なのだから。

「ここで少し休んでおきますね」

(チキショウ…)

 もう何日かかかりそうだ。




 勇者連合の本部は屋敷である。ここの地価は比較的高いが、高額な依頼がそれをチャラにしてくれる。おかげでエントランスはいつも綺麗である。

「委員長!…委員長!」

「委員長はコロシアムで試合を観戦してるらしい。今は人も来ないし休んでていいぞ。俺が代わりにやる」

「そうですか、助かります…んで、なんの試合ですか?」

「今といえば、英雄王トーナメントあたりか?二回戦ぐらいはいってるだろう」

というと、扉は自然と開く。

「いやぁ、最高だったね。巡風(じゅんし)対バルフォア」

「委員長、お尋ねしたいことが」

「それよりも聞け!若きエース達の勇姿を!彼らは二年目にしてこの英雄王トーナメント出場を果たした逸…」

「それよりも!重要なことがあるでしょう」

 委員長はムスッとしつつ、話を聞く耳を持つ。

「今日は勇者カザの約束の日でしょう!忘れたのですか?」

「忘れてはいない。ただ…」

 委員長は間を置く。

「カザ君は今日は帰ってこない」

 二人は静まり返った。

「あと二、三日くらいかな?実際あそこらへんは交通網がほぼ整っていない、正直こっちに戻って来ること自体、奇跡に等しいんだ。未発達の街を守るなんてな。それを一人でこなした彼は」

「まさに『勇者』…」

 委員長は頷き、語る。

「しかし、無理をすることで勇者の負担も莫大なものとなる。無駄な犠牲は省きたい。これからも『勇者』としてあり続けるのだから」

「委員長…」




 その一日後、カザは無事フランに到着した。

「うぇっほえっほぉえ…」

…カザは無事に到着した。辺りは大きな建造物に満ち、剣を腰に据える戦士達の姿がちらほらと見える。

「まあ確実にあれだな、うんそうだな」

 二度見た。聖十字のマークが頂点にある。早速そこに向かった。錠は開けられている。その扉を片側をゆっくりと引く。

「勇者カザ殿…」

「ん?」

「…委員長がお呼びです。案内します」

 嫌々後をついていくカザであった。


「どうぞお入りください」

「あぁ、ありがとよ」

 ドアノブを引いて閉める。目の前には委員長がいた。

「よくぞ来られた。どうぞこちらに」

 椅子が一つあるので座った。

「んで、処罰って何だ」

「まず、忙しい中ここに来てくれたことに感謝する」

「どーってことねぇって」

「そうか、処罰についてだが…」

 厳しい顔をする委員長に、カザは戸惑った。

「どうした?」

「やはり私の口では言えん。どう考えても正しい行動をしたのは君なのだから」

「いや、俺は命令に背いた。本当に悪いことと思っている。処罰は覚悟の上だ」

 委員長はただ、カザの顔を眺めた。

「そうか、覚悟、か。なら私から一つ言いたいことがある」

「ほおっておけよ」

「それは、この処罰を決めたのは決して私ではないことだ」

 カザは驚きはしなかった。が少し動揺した。

「この命令は勇者連合を築いた貴族達が発したものなんだ。私はこんなことはしたくな」

「俺はもう言わん。委員長」

 委員長は涙を一つ流した。勇者としての次元が違う。委員長は次の涙を流さないうちに、文書を読んだ。

「勇者カザを…勇者連合から除名する…!」

 これを機に、カザはもはや勇者ではなくなった。

「分かった。んじゃこれで失礼する」

「ま、待ってくれ!」

 椅子から立ち上がったカザを止め、一枚の紙を用意する。

「せ、せめてこの、剣術格闘技に参加してはくれないか?」

 カザに手渡した。

「君の実力は無駄にするべきではない!勇者連合からはずれても、私は君が比較するまでもなく優秀な逸材ということは分かっているんだ!それを無駄にしたくはない!…だから…」

 委員長は懇願した。彼の実力に絶対の確信を持って彼を止めた。

 だが、カザはもらった紙を散り散りに破いてやったのだ。

「分かってくれ…俺の価値は、俺で見つけ出すんだ」

 カザはこの部屋を去り、扉を閉ざす。

「…」


 カザは宿を探しに外を歩き回った。さすがにこの臭いを請け負ってくれる宿は無さそうだが、とにかくチャレンジあるのみ。

「ダメ!」

「ダメだ」

「ダメです」

「申し訳ないです」

「すみません、よくわかりません」

 案の定だった。それにこの湿気はおそらく雨の予感だ。

(ちゃっちゃと見つけねぇと!)


と思ったもののそう簡単にはいかない。終着点は広場であった。

(もう無理…)

 カザはすっかり落ち込んでいた。

「あ、貴方は!」

「大剣…重量級一位の…バルフォア!」

 なんか訳の分からない事態に進展している。

「しかし、貴方がなぜここに!」

 バルフォアと呼ばれる者は話す。

「見慣れない魔剣使いが、この広場にいる。出てこい糞餓鬼、生意気な顔を引っぱたいてやろうぞ」

 名乗る者はいない。広場が静まり返った。何が起きたのか、正面を向くと巨漢が大剣の他に多くの剣を持ち歩いている。そして、こっちに歩いてきた。

「…お前か」

「何の話だ」

「その気配、魔剣のようだな?」

「だから魔剣がどうしたってんだよ」

「クク…お前には扱えきれん。私が使った方が良いということだ。どうだ?私にくれてやる気になったか?」

「あぁ、分かった」

 周囲が驚く。魔剣がこんな簡単に扱われることがあるのかと。

「ただ、条件がある」

「条件…?」

 皆が息を呑む。

「今日の宿がまだ決まってねぇんだ。俺が泊められるよう説得してくれたらあげてやる」

 周囲が更に驚く。魔剣がこんな簡単な交渉条件で差し出されることに。

「ククク…貴様のようなドブネズミに入れさせる宿などこの世には無いのだよ!」

「交渉決裂か!」

 カザはすぐに魔剣を引き抜き構える。対するバルフォアは

「貴様の魔剣など、剣で戦うに値せん!」

「そうか」

 カザが先制する。攻撃は躱された。

(チッ、少し重いが…なんてことねぇ!)

 カザは一発一発に渾身の一撃をぶつける…つもりであった。だが、当たらない。暫く攻撃を続けていると息があがった。足も動かない。

「今頃気づいたか…」

 隙を逃さずバルフォアはカザの首を握りしめる。身長差がカザを更に苦しめる。

「私はそんなつまらない交渉をせずともこうやって…」

 腹を何発も殴られ、顔にも数発、魔剣を手放して漸く解放された。

「力で制することができるのだよ」

 意識が朦朧(もうろう)とする。その間に魔剣は取られ、自分は蹴られ、金まで都市の人間に取られてしまう。

「こんな奴が魔剣を持ったところで、魔剣の名が廃れていくだけなのだ」


(…此処はどこだ?とても心地よくて…)

 少し、ほんの少しだけ、(まぶた)を開ける。曇天を通り越して、雷雨であった。体を少し倒して横を見る。どうやら路肩で倒れていたそうだ。移動しなければならないが、体が動かない。

「…そこの君」

(…見回りか?いや)

 右目以外の顔と頭を隠し、体を隠すマントを身に纏う者が目の前にいた。

「君も宿が無いの?」

「…」

「だったら同じ…隣、いいかい?」

 唇も動かせない。謎の人は隣に座る。

「実は僕も彼に負けちゃって、給料回らなくて…今日は路肩さ。独り身って不安定だから」

「…そう…」

 段々と回復してきた、ようやく体が動くようになる。

「もしもの為の金貨、見つけたけど…あげるよ」

 カザは謎の人の手を急に掴んだ。

「金もいらねぇ…だからといって、女もいらねぇ…でも、それ以上に必要な何かをアイツに、アイツに奪われた!」

「…魔剣のこと?」

「魔剣なんて、どうでもいい」

 カザは涙を雨とともに流す。自分の心の奥底にある『何か』を、あの男にもぎとられた。

「みんな俺を『勇者』と(おだ)てていたけど、正直実感わかねぇんだ。勇者なんてこの世界にはごまんといるからな…」

 謎の人は他に何かないか、マントの中で探す。そこで、カザは言う。

「俺には失われた『何か』があったはずなんだ…その『勇者』と呼ばれる所以の『何か』…剣さえ持っていれば『勇者』か?俺は『勇者』だったのか?」

 謎の人は立ち上がり、カザの前に立つ。

「君がそう呼ばれるほどの実力があるかどうかは僕には分からない。でも、自分で確かめられる方法なら知っている」

 カザは謎の人の顔を見る。彼が取り出したのはサウスが取り出したものと一緒であった。

「自分を知るための片道切符さ。あまりにも惨めだったから、君のために用意したんだ」

 カザは紙を再び手に取った。

「君に祝福あれ」

 謎の人はその場から去った。カザはその紙を胸に、今日は寝ることにした。

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