表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/133

第8話 「1時間50分後」

20170708公開



 俺たちは孝志君の墓にもう一度手を合わせてから、河原に戻った。


 実はその頃には隠しようも無い問題が持ち上がっていた。

 4人ともかなり空腹だったのだ。

 転生時点ではお腹に何も食べ物が入っていなかったのだと思う。

 トリケラハムスターの血抜きも小川に沈めて終わっているし、火を付ける為の手段も持っている。

 俺のズボンのポケットにはスイスの有名なメーカーが出しているマルチツールも入っている。

 河原に戻る途中で薪になりそうな枝を確保したし、河原にもそこそこの量の薪が転がっている。増水した時に上流から流されて来たのだろう。


 だが、ここで食事に取り掛かる事は出来ない。


 第二の孝志君を生まない為にも、周囲の探索を進めるべきだ。

 第二、第三の京香ちゃんを発見すべきだ。


 俺たちが「召喚」に巻き込まれた教室には小学3年生の子供たちが29人居た。教室の後ろから数えたから確かだ。参観に来ていた親が20人といったところか? それと担任の佐藤郁恵先生も巻き込まれている。

 大人ならば、小冊子を真剣に読んでいれば、多少は落ち着いて行動をしていると思うが、子供たちはパニックになっているか、無警戒な状態で呆然としているか、親を探そうとして短慮を起こして危険な状態に陥っているかもしれない。


「みんな、済まないけど、お肉は後回しだ。他の子どもや親や先生を探しに行こうと思う」


 2時間近く経って、やっと、まともな日本語を喋れる様になってくれた。人間以外の生物の喉では日本語の発音が難しいと初めて知った。役に立たない知識だ。


 3人とも、俺を見詰めている。


「早くみんなを探して一緒に居た方が良いからね」


 本当の理由は『安心』、いや違うな。『安全』という言葉が一番正解に近い。


「でも、今のままだと危ないかも知れない。さっきのハムスターのでかいのと出遭ったら、危険だしね。だから自分達が出来る事を知る必要が有る」


 楓と水木は首を傾げた後で爪を見て、それから指先を摘まんだ。猫と言えば爪と猫パンチだよね・・・

 でも、残念ながら、2人の爪は猫みたいに伸びなかった。

 だが、俺自身は多分、何とかなると推測していた。

 本能が教えてくれるままに、意識を指の根本に集中した。


 京香ちゃんの気配を感じて、咄嗟に取った行動がヒントになっている。

 あの時は、俺はほぼ本能に従って動いた。

 楓と水木は何も行動出来なかった。

 その差は何か?


 俺の猫もどきの腕には、ふさふさで、毛並みが良い毛が生えている。

 ただ、掌に近付くにつれて短くて細い毛になっている。

 毛が生えていない指は人間のそれとそっくりだ。

 その指の根本に『力』が満ちて来る。本能が「出来る」と教えてくれる通りに刃物の様な不可視の爪が生えたのは5秒後だった。

 グー・パーをして、爪が指の動きと干渉しない事を確認してから、地面を引っ掻いてみた。

 驚くほど抵抗を感じずに地面に溝を刻んだ。

 

 やはり、俺は、楓と水木と違って、大人の猫もどきに転生している。

 




お読み頂きありがとうございます。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 3人とも、俺を見詰めている。 「早くみんなを探して一緒に居た方が良いからね」 全く他人のことを考えるより家族のことを考えろと思う。それとも、味方を増やした方が家族の為になると考えたの…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ