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第87話 「54日目6時35分」

20180413公開


 4日ぶりに帰って来た新堺にはテント村が出来ていた。

 場所は放牧場にする予定の土地だった。

 まあ、すぐに使う予定では無かったから特に問題は無い。

 それに、あまり今の建物の近くに組み立てると、新しい住民用の住居を建てる邪魔になるからこのくらい離れていた方が良いだろう。

 テント村の南側を通り過ぎると、今までの新堺では見た事の無い光景が見えて来た。

 何と言うか、キャプションとして『人大杉』という文字が浮かぶような光景だ。

 住居区の南側は空き地になっているが、そこにワラワラと言う感じで人が沢山居た。


 面白い事に、それぞれがどの様な人物かは服装を見ただけで分かる。


 元からの新堺住人は麻もどきで編まれた貫頭衣を着ている。

 最近になってやっと漂白と染めに使える素材を発見したので、貫頭衣は以前の様な茶色一色ではなくなりつつあった。きれいな発色では無いが、茶色と薄茶色と黄色と薄緑色を選べるようになったという段階だ。

 志願した女子高生たち7人が主に手掛けているが、これは大きな一歩と言える。

 まだまだ量産するには技術として確立出来ていないし、色落ちや色移りや皮膚への影響の具合も把握出来ていない。人手不足から原材料も大々的に採取出来ていないので、特産品として売り出すには早い。

 他の特産品が好調なのであまり焦らずに開発する予定にしていたが、人手不足が解消される見通しが立ったので開発が進む予感がして来た。

 後は綿花代わりの資源が東の森で見付かれば、更に優位に立てるのだが、まだ発見されていない。


 あ、金井さんだけはトラ吉シャツを着ている。久し振りに見るが、浮きまくっている。

 まあ、それが狙いだろう。

 彼女の事だから世話係を買って出たのだろうし。

 

 私服の集団は第四次召喚災害の民間人側の『被災者』だ。

 駐屯地での納涼大会中に巻き込まれたので、浴衣姿の小学高学年くらいの女の子の姿も見える。

 今日で3日目だから、着ている服にも汚れが目立って来た。

 『しかのうら』がくれた10着の貫頭衣と新堺に有るみんなが使っていない貫頭衣を順番に使って貰って、順番に洗濯して貰おう。今の季節なら1日干せば乾くだろう。

 それと古着で良いので、『しかのうら』から追加で支援して貰う事も考えないといけないな。

 時間は掛かるが、十分な数の貫頭衣が『しかのうら』から届くまでは辛抱して貰うしかない。

 自衛隊員に関しては要相談だな。


 そして最後の迷彩服の集団は自衛隊だ。

 何か作業をしているのは分かるが、人数が少ない。

 残りの自衛隊員はどこかに出掛けているのだろうか?

 ああ、なるほど。

 ぐるりと見渡すと、気配察知圏外の草原を走っているのがちらりと見えた。

 体力維持の為に朝食前にランニングをしているのだろう。

 上半身はシャツ1枚の姿になっているのが、なんとなく日常の風景ぽくて面白いな。


 

 俺たちに最初に気付いたのは沢田來未さわだくみ君だった。

 高校生ながら大人顔負けに議論に参加して来る、新堺の進路を担う1人だ。

 彼女の意見は結構役に立つ。

 貫頭衣の染色に挑戦し始めたのも、彼女が同級生たちに仕事を割り振る為に提案したのが切っ掛けだ。おシャレに対する情熱を仕事に結び付けてしまえば、熱心に取り組んでくれると言う計算は当たった。

 道具作りは山本氏けんじゃ片岡進次郎かたおかしんじろう君がして、食用にも薬用にもならない木の実や草花の知識は山本氏けんじゃが提供したが、それらを交代で採集して、すり潰して実験したのは全て女子高生7人組だ。

 採集の際の護衛は主に楓たち3人が務めた。おかげで今では本物の妹以上に可愛がられている。

 染色の作業は地味な作業だが、喋りながら作業する姿に暗さは無かった。偶に歌謡曲を合唱したりして楽しそうだったりしたくらいだ。

 染色に取り組んでいる女子高生たちからは、銅器が作れる様になり次第に針を作ってくれと要求されている。

 理由は、現代風の衣服を仕立てようとすると現在使っている木製の針では不満だそうだ。

 


「宮井さん、楓ちゃん、水木ちゃん、沙倶羅ちゃん、おはようございます」


 來未君がこちらに走って来て、挨拶の言葉を掛けてくれた。

 今日着ている貫頭衣は淡い感じの橙色に染められている。新しい染料の試験中なのだろう。

 俺たちが挨拶を返した直後に、彼女が何かに気付いた様に視線を下げた。

 

「え、なに、この犬っぽいの!? ちょ! 可愛いんですけど!」


 彼女の視線を受けて、仔わらかみが上目使いに見上げながら尻尾を振っていた。

 あ、あざとい・・・

 この仔わらかみには野生の動物としての尊厳が存在しないか?

 あ、初めて逢った時から無かったな・・・ 

 來未君がしゃがんで、仔わらかみの頭を撫で始めた。

 仔わらかみが嬉しそうに眼を閉じた。尻尾もさっきよりも激しく振っている。


「えーなになに!? クミッチ、どうしたの?」


 ワラワラと女子高生たちがやって来た。

 全員が、仔わらかみの姿を見た途端に、目を輝かせた。


「うわ、犬だ! ちょー可愛い!」

「ほんとだ! あ、人間に慣れているみたい」

「やばい! カワイくてヤバい!」

「モフモフ来たー!」


 13人の女子高生が揃う頃には、仔わらかみは寝そべって腹をさらけ出していた。

 あざとい・・・

 完全に籠絡に全力を出している。

 猫なら、きっとプイとどっかに行っている。こういった所が、猫派の俺には受け入れられないな。


 女子高生たちが代わる代わるに仔わらかみとたわむれていると、山本氏けんじゃと黒田氏がやって来た。

 挨拶もそこそこに、山本氏けんじゃが訊いて来た。


「宮井さん、この子って『わらかみ』ですよね? どうしたんですか?」

「いや、一昨日の晩に『わらしか』を仕留めた時に1頭だけで狩りをしているコイツに出会ったんだが、最初っから懐かれてしまったんだ」

「うーん、確か『わらかみ』って警戒心が強い種族だった筈。それに必ず群れを作っている種族ですから、何か原因が有るのでしょうね」

「色も白いし、頭をよく見ると小さな角が1本生えているんだよ。もしかすれば突然変異か全く別の種族かと考えているんだけどね」

「それと、もしかすれば犬が『召喚』された珍しい例かもしれません」


 そう言って、清水有希しみずゆき君が会話に加わって来た。


「でないと、余りにも人間慣れし過ぎている事が説明できませんよ」

「可能性はゼロでは無いが・・・ 財前一佐に後で訊いてみよう」

「それが良いだろう。それに、子供とは言え『わらかみ』に拒否反応を示す『被災者』が居るかも知れないから、扱いには注意が居ると思うしね」


 別に俺が猫派だから追い出そうとしている訳では無い。多分・・・・・



お読み頂き、誠に有難う御座います。

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