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第85話 「53日目19時15分」

20180406公開


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 部下の埋葬後に向かった場所は、共同の風呂場だった。

 レンガで出来た釜にせっせと薪をくべている高校生が居たので、近くを流れる小川から引いた水を薪で沸かしている様だ。

 木で出来た浴槽には予想よりも多くのお湯が張られていた。深さは、座った大人の肩が浸かる程だ。

 先に100人以上の民間人が使った筈だが、お湯は澄んでいた。

 

『日本人と言えばお風呂は欠かせませんからね。我が新堺自慢のお風呂です』


 我々と一緒に風呂に入った山本氏が笑みを浮かべながら説明してくれた。


『耐火用のレンガを造った傍から風呂釜に突っ込んだくらいですからね。本当を言えば、共同食堂用に回す筈だったんですけどね。揚水用の水車も同時に手掛けたので大変でしたね。でも、おかげさまで完成した時には、みんな大喜びでしたね』


 山本氏がちょっと遠い目をした。

 今では生活基盤が出来上がっている新堺にも苦労した時代が有ると言う事だろう。

 山本氏は少しだけ時間を置いて、質問をして来た。


『自衛隊さんが提供してくれるお風呂は、被災地では必須の支援ですよね? 財前一佐も何回か災害派遣に参加したと思いますが、好評だったのでは?』


 確かに私も自衛官になってから回数を忘れるほど被災地に派遣された。

 中でも東日本大震災での派遣は、規模、期間、任務内容の全てが桁外れだった。

 『入浴支援』と呼ばれる活動も多い時で海自の輸送艦も入れたら35ヵ所で展開された記憶が有る。

 実際に我々が使う事は少なかったが、それでも入浴する際に出会った被災者に直接感謝をされた経験も有る。


『ええ。確かにその通りです。実際には需品科が運用するので、我々は直接関係無いと言えば関係無かったのですが、自分も直接お礼を言われた事が有ります』

『きっと、先に入った被災者の皆様も、一息ひといき付けたと思います。この後は夕食を食べて貰って、疲れを癒して貰う予定です。とは言っても、寝る場所に関してはさすがに全員に屋根のある場所はご用意出来ませんので、簡易のテントで寝て貰う事になります』

『我々自衛官は野外での活動に慣れているからテント無しでも良いので、出来れば民間人の方にその分の資材を回す事は出来ないでしょうか?』

『さすが、自衛隊さんですね。そうおっしゃると思って、共同の食堂を被災者家族に使って貰う様にしています。60畳くらいですから、50人か60人は床の上で寝れますよ。まあ、布団や毛布はさすがに全然足りないので、幼児を含んだ家族だけ使って貰う事になりますけど』

『何から何までご配慮頂き、誠に有難う御座います』

『いえ、困った時はお互い様です』


 風呂場には幾つか、取っ手の付いた焼き物が置かれていた。

 驚いた事に、中には手作りの液体石鹸が入っていた。

 原材料は新堺の東に広がる森で獲れる木の実で、それを絞った後に幾つかの加工をして造るらしい。

 今は液体石鹸だが、将来は固形石鹸にする実験をしているとの事だった。


 ちなみに、こういう時に自衛官で長風呂する者は居ない。

 『カラスの行水』という言葉を、久々に山本氏の口から聞いて、少しだけ笑えたのは入浴の効果なのだろう。

  


 新堺を代表して佐藤先生が簡単な挨拶した後で、新堺で初めて振る舞われた食事は数種類の肉と、パンとクッキーの中間に近いもの、それとシイタケの出汁に似た旨みが効いたスープだった。

 パンの様なクッキーの様なものは『縄文クッキー』と呼ばれているらしい。

 トリケラハムスターと呼ばれる動物の肉はこちらに来てから4食連続で食べた事になるが、初めて使われた香辛料のおかげも有り、飽きる事無く美味しく食べられた。

 食事が終わった後、山本氏が立ち上がった。

 

『えー、皆さま、今から歯ブラシをお配りします。これに関しては我々も被災した日から使用しているモノです。現在の所、虫歯になった者は居ませんので、効果は証明されています』


 配ってくれたのは小学生たちだった。

 貰った歯ブラシは、20㌢くらいのL字状の木の小枝だった。

 一方の端が1㌢くらいで直角に曲がっていて、ブラシ状に加工していた。もう一方の端は鋭く削ってあった。


『見て分かる通り、ブラシになっている端と爪楊枝状にとがっている端になっています。すぐに慣れますので、この後、寝るまでに必ず使って下さい。ここには歯医者さんが居ませんから、虫歯になったら抜くしか有りません。お肉を食べ続けたいなら必ず使って下さい。ちなみに、原材料の採取及び加工は全て小学生のみんながしてくれました。出来ましたら、拍手で感謝の気持ちを伝えて下さい』


 私は真っ先に拍手した。

 勿論、感謝の言葉も合わせて伝えた。

 すぐにみんなが続いてくれた。配り終えた小学生が照れていたのが印象に残った。


『この後は、横になりたい方は寝床を用意してありますので、お休みになって下さい。ただし、急な事で布団も毛布も有りませんし、テントくらいしかご用意出来ませんでした。ただ財前司令の要請も有り、小さなお子様をお連れの方限定になりますが、あちらの食堂を使って頂きます。おトイレの場所はあちらになります。もう使った方は知っていると思いますが、なんと水洗です。ただ、誠に心苦しいのですが、トイレットペーパーは有りません。代わりとして肌触りが優しい葉っぱが用意されています。ご理解下さい。まあ、すぐに慣れますよ、きっと』


 ブーイングは起きなかった。

 もう使った人が使っていない人に説明している声があちらこちらで聞こえたくらいだ。


『何か、質問は有りますか?』


 いくつかの質問が出たが、概ね細かい事だった。


 

 こうして、『召喚』2日目が終わった。


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お読み頂き、誠に有難う御座います m(_ _)m


 ただし、この3日ほどご訪問者が増えたのにブックマークが1つも増えなかった事にショックを受けております(T_T)

 ・・・・・・・絶賛餅激落中・・・・・・・

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