第84話 「53日目17時40分」
20180404公開
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我々『第四次召喚災害被災者』は2手に別れる事になった。
民間人はトラの顔のイラストを描いたシャツを着た女性に先導されてお風呂に行く事になった。
一方、我々は山本氏の案内で、新堺を突っ切った先の川を渡ったところに在る墓地に行って殉職した部下を埋葬する事にした。
新堺の集落を構成する建物は全て木造の平屋だった。
2つの建物を除いて、全て同じ造りだ。
だいたい15㍍×5㍍の長方形をしている。
明かり取り用の窓は有るが、ガラスを使わずに木の板で作られているから何となく江戸時代の建物の様な印象だ。
まあ、つい最近建てられたばかりなので、古ぼけた感じは無い。
そのせいで、何故かちぐはぐな印象を受ける。
「実は、工期短縮の為に『しかのうら』での一般的な建物とは建て方が違うんですよ」
私の視線に気付いて、山本氏が説明をしてくれた。
「『しかのうら』は全て高床式で建てます。これは昔に『トリケラハムスター』が大量に発生した際に、食糧庫を除いて住居を竪穴式で済ませていたせいでかなりの被害を受けたからの様です」
山本氏はそう言って、言葉を切った。
「我々には気配察知に長けた種族が複数居ますから、異常が有ればすぐに分かります。異常発生の兆しが出た段階で対処可能です。ですから、日本の木造建築並みの床下しか取っていません」
「気配察知に長けた種族というのは宮井氏の家族の事ですか?」
「ええ。それとドラゴンもどきの中井沙倶羅ちゃんと清水有希君も、宮井さん程では無いですが、100㍍くらいは分かるそうです」
有益な情報だ。
部下にも竜種として『召喚』された者が居る。
民間人にも猫人系の人が居た。
「見ての通り、建物は出来るだけ同じ建築方法にして貰っています。多少の隙間風は覚悟の上で簡略化もしたので、建築期間は1カ月も掛かっていません。日本なら3カ月くらい掛かる筈です」
「なるほど。災害時の仮設住宅も3週間から4週間で建築出来るようになっているから、それと同じ様なものですね」
「ええ。それと、これから建てる住居は今在るものよりも出来は良くなる筈ですよ。『しかのうら』に刃の部分が磨製石器ですけど、鉋が導入されましたから」
「ほう・・・」
「これまでは木の板の加工はノミでしていたので、結構ムラが有ったり粗かったりしていたんですよ。今後はかなり精度が上がる筈です。可能なら簡易レンガを床下を囲うのに使っても良いですが、工期短縮の為には諦めるかも知れません」
なるほど。新堺を短時間でここまで立ち上げられた理由の一端を見た。
日本の技術を提供するのと引き換えに、協力関係を築いたのだろう。
「まあ、宮井氏が商売上手なおかげです。WIN-WINの関係に持って行ってしまう交渉術は見事の一言ですね。僕や他の人間だけだと足元を見られたでしょうし」
「その宮井氏が『しかのうら』に行った理由をお伺いしても?」
「理由は幾つか有りますが、大きなところでは2つですね。銅鉱床の開発が遅れる事へのお詫びと、更なる援助の要請です。『しかのうら』にとって、宮井さんはタフな交渉相手ですが、ちゃんと見返りも計算出来るので、話は纏まるでしょう」
そう言って、山本氏が後ろに目をやった。
「『ヤマさん』たちが曳いてくれている修羅も宮井さんが発案したんですよ。僕なら多分、車輪にいきなり飛び付くところですね。最終的には車輪に行き着くのですが、満足出来るくらいの完成度にするには時間が掛かったでしょ。そういう意味でも、すぐに結果を出すには修羅は最適な道具です」
一拍置いて、更に言葉を継いだ。
「その割には、いきなり自分を『脳筋』だと言い出すのですから、惚けていると言うか、大物と言うか」
そう言いながら、山本氏は笑みを浮かべていた。
新堺から山本氏と黒田氏の2人が立ち会ってくれた部下の埋葬は、墓穴を掘る時間も合わせて1時間ほどで終了した。
最後の別れの敬礼の最中にはすすり泣く部下が多かった。
誰もそれを責める事は出来ない。
第一、責められるべきは私だ。
帰りに、山本氏が教えてくれた話しが印象的だった。
「あの墓地に最初に埋葬されたのは僕の娘の同級生の男の子でした。田中孝志君と言います。彼は1人で、誰にも看取られる事無く亡くなったそうです・・・・・」
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