第83話 「53日目17時35分」
20180403公開
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テント群を右手に見ながら進むと、行く手に数十人の住民の姿が見えた。
多分、新堺の住民全員が出迎えてくれているのだろう。
服装は1名を除いて、麻と思われる素材で編まれた衣服を着ている。確か貫頭衣というやつだ。
山本氏から聞いていたが小さな住民が本当に多い。ここから見える内の2/3が子供の様だ。
大半は我々と同じ犬人系の種族だが、黒田氏と同じ鳥人系の種族の姿も見える。
その中から、小さな身長の集団がこちらに向かって走って来た。
子供と思われる犬人系の種族なのだが、違和感を抱く程に速い。
あっという間に走って来て、先頭を歩いていた宮井氏の娘さんたちと合流した。
遅れて鳥人系の子供たちも合流して、仲良く話し出した。
麻と思われる素材で編まれた見慣れぬ衣服を着ているせいか、現代社会に生まれた日本人の子供には見えない。
確かに人間の姿ではないので当然の印象なのだが、それでも別の見方もせざるを得ない。
ここの住人はこの異世界に根を張れたのだ、という事を・・・
黒田氏と、彼と同じく鳥人系の女性の2人が出迎えの先頭に立っている。
5㍍の距離まで近付いたところで、自然と立ち止まった。
お互いに向かい合う。
女性がこちらの全員を見渡した後で言葉を発した。
「この度は大変な目に遭われたと聞いています。私たち『新堺』の住民は皆さまを歓迎します」
そう言った後で、深々と頭を下げた。
それに合わせて、黒田氏も、後ろの住民も頭を下げた。子供たちも頭を下げていた。
5秒ほどして頭を上げて、こちらを見た。
隣に居る山本氏が目配せをしているし、これまでの経緯からも私が代表して言葉を返すしかないだろう。
「皆様も大変な目に遭われたと聞いております。その上での歓迎に深く感謝致します」
本来なら挙手での敬礼をすべき場面だが、敢えて頭を下げた。
全員が部下なら私に倣って挙手で敬礼をするだろうが、それでは民間人が戸惑うだろうと考えたからだ。
ここは、全員で感謝の意を示すべきだ。
後ろに居た民間人のみんなもバラバラながらも頭を下げた雰囲気が伝わって来た。
全員が頭を下げる気配を探っていると、女性が言葉を掛けて来た。
「頭をお上げ下さい。お互いに巻き込まれた被災者です。これからは助け合って行きましょう」
後方で頭を上げて行く気配を感じながら、一拍置いてから頭を上げた。
「そのお言葉に、重ねて感謝致します」
お礼を述べた途端に、鳥人系の2人の後ろから茶色い毛の犬人系の女性が前に出て来た。
唯一日本の服装をしている女性だ。
何故かトラの顔のイラストが描かれたシャツを着ている。しかも下はヒョウ柄のパンツだ。
「さあて、挨拶も終わった事やし、食事にしまひょか? それともお風呂にしまひょか?」
手を叩きながら、大きな声で訊いて来た。
その言葉に空気が緩んだ。
後ろから、「え、お風呂に入れるの?」、「そういえば、汗でベトベトしてる」、「さっぱりしたい」などの言葉が聞こえて来た。
その中に「ねえ、かあちゃん、なんであのおばちゃんだけトラの顔のシャツを着てるの?」という子供の声が混じっていた。
「お、そこのボク、ええところに気が付いたな! それはな、オバちゃんがみんなの世話をするからやで! ほら、みんなポメラニアンみたいな顔をしてるから、見分けが付かんからな! それにトラの顔とヒョウ柄は大阪のオバちゃんの制服みたいなもんや。何か有ったら、トラ吉シャツを着てるウチに言うてや!」
信太山駐屯地に赴任してから大阪のオバちゃんパワーは凄いと何度も思ったが、異世界でも健在な様だ。
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さすが金井さんだ。
宮井さん命名である『トラ吉』まで繰り出して、場を完全に暖めてしまった。
そう、新たな被災者が、『召喚』という災害に罹災した事で自分達は不幸な目に遭ったと考えていたのに、それを吹き飛ばしてしまったのだ。
「そういう訳で、食事にする? お風呂にする? それとも・・・」
ワザと一拍を置いて、プっと噴き出すと金井さんはクルリと反転してさっさと歩き出した。
「そんじゃあ、行こか!」
歓迎式典と言う程でも無いが、この一幕は必要なものだ。
まあ、例えスベッてもそれはそれで構わなかったと思う。
自分達よりも先に召喚された被災者がコテコテの喜劇をしたのだ。
心に余裕が生まれる筈だ。
大阪の人間にとって、笑いというものは何よりも優先されるし、フラれたらフリ返すかリアクションするのが本能の様なものだ。
その証拠に、後ろから伝わって来る気配が完全に変わっていた。
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お読み頂き、誠に有難う御座います m(_ _)m




