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第82話 「53日目17時05分」

20180331公開

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「もう少しで新堺しんさかいに到着します。そろそろ見えて来ると思いますよ」


 山本氏がこちらを見て、声を掛けて来た。

 昨日からの付き合いだから短い時間しか接していないが、それでも『かなり出来る人物』という評価が私の中では固まっている。 

 今の言葉も、自衛隊の立場とそのトップというこちらの立場の両方をおもんばかってのものだろう。

 みんなに伝える役を譲ってくれたという事だ。

 私は後ろを振り向いて、励ます様に民間人のみんなに声を掛けた。


「みなさん、あと少しで到着する予定です。頑張りましょう!」


 反応は安堵感がこもったものだった。

 みんなの表情が更に明るくなった。 

 聞こえて来る言葉も声音こわねも、これまで以上に明るいものだ。

 35㌔もの移動をして来たとは思えない士気の高さの原因は、今も我々の先導と護衛を務めてくれている『第三次召喚災害被災者』の高校生たちによる。

 彼らは、彼ら曰く『トリケラハムスター』と呼んでいる厄介な草食動物を先導がてら狩りだしてくれている。その狩りの手並みは手慣れているだけでなく、わざと狩りの様子が見える様に計算されたものだった。

 更に、驚く事に小学生が3名も護衛に当たっていた。

 『しかのうら』と呼ばれる集落に向かった宮井氏の双子の娘さんと、その友達だ。

 宮井氏の娘さんも猫に似た頭部をしている。友達はドラゴンそっくりだ。

 3名とも宮井氏ほどの戦闘力は無いそうだが、それでも『新堺』有数の戦力だという。

 

 着々と狩られている『トリケラハムスター』の肉だが、本当に美味しい。昨日から連続で食べているが、食い飽きると言う事が無いのでは? と思ってしまう程だ。


 歓声が上がった。

 また、『トリケラハムスター』が狩られたのだろう。



 山本氏たち『第三次召喚災害被災者』が造った集落は、たった2ヶ月弱で生活基盤を築き上げたそうだった。

 今では、自分達で作った天日干しのレンガを他の集落に出荷しているそうだ。

 その他にも近傍に在る深い森から産出される香辛料や、数種類の植物から作られる薬なども開発して、特産品として売り出し中と言っていた。

 その特産品で得た食糧はそれなりの量になるらしく、備蓄を放出すれば何もせずとも1週間くらいは我々全員を食わせる事が可能だという事だった。


 はっきりと言って、異常だ。

 統合幕僚監部が配布した内部資料でも、『ニホン国』がまともに機能しだしたのは『第一次召喚災害被災者』と『第二次召喚災害被災者』の合流後半年以上経ってからだ。

 正確に言うと、ソル族と呼ばれる我々と同じ犬人系に属する少数種族が『不明敵対人類』との闘争に負けて離散し、難民と化してしまった彼らと合流してからだ。

 彼らが齎した文明無しでは遠からず地球で身に付けた文明さえも失っただろうと分析されていた。

 それまではかなりひどい状況が続いたと明記されていた。

 具体的には木の根や雑草を食べたりは当たり前で、『召喚』後の初期から手作りの槍で狩りをしたがそれも上手く行かなかったらしい。むしろ怪我人が続出した。

 得られた食糧が少な過ぎて餓死者も病死者も続出したとも書かれていた。病死した草食動物も食べて飢えを凌いだとも有った。

 端的な数字が有る。

 ソル族が合流した時期の乳幼児の生存数は数十名だったそうだ。

 23,000名以上の被災者には当然だが、数百人レベルで乳幼児が含まれていた。

 その数字を知っているだけに、山本氏たちの『新堺』が有り得ない程に上手く行っているという事を実感せざるを得ない。 



 しばらく歩くと、造りかけの柵が見えて来た。

 その向こうには、急造と思われるテント群が見える。

 結構な数が用意されている。

 その奥に、10棟を越える建物が並んでいるのが微かに見えた。

 ほぼ丸1日歩いて、遂に『新堺』と名付けられた集落に辿り着いたのだ。



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「もう少しで新堺しんさかいに到着します。そろそろ見えて来ると思いますよ」


 財前一佐が、その僕の言葉に頷いた。

 その目には感謝の色が浮かんでいる。


「みなさん、あと少しで到着する予定です。頑張りましょう!」


 財前一佐の声は良く通る。

 ポメラニアンもどきに『転生』して1日しか経っていないにも拘らず、人間の頃に、命令を出す時にはこの様な発声をしていたんだろうな、と思わせるくらいだ。

 実は、マイク越しだったけど僕は人間だった時の一佐の声を聞いた事が有る。

 去年の信太山駐屯地祭に陽太ひなたと一緒に行った時に、開会の挨拶を聞いたからだ。  

 声帯が違う点とマイク越しという違いから想像するよりは意外と似ている気がする。


 数分後、柵が見えて来た。

 家畜を飼う予定で作りだした柵だ。 

 完成にはまだ時間が掛かるが、完成次第に数種類の草食動物を捕獲する計画が進んでいた。

 未完成の柵越しに、テント群が見える。

 こちらは僕も初めて見る。

 昨日の内に戻った黒田さんが『しかのうら』と交渉して建てて貰ったのだろう。

 取敢えず、雨露をしのげれば良いという基準で建てたせいか、急造感が半端では無い。

 新堺に到着次第に、本格的な住居をどこに建てるのかを話し合う予定だ。

 本来は主導する筈の宮井さんが『しかのうら』に行っているから、僕と黒田さんが主導するしかないだろう。

 新堺の建物が見えて来た。

 最初の頃に建ててもらった住居とは別に、今ではいくつかの作業場等が追加されている。

 一番大きいのは、集会所兼食堂だ。

 大きさはほぼ100平方㍍だから60畳くらいだ。

 こちらの建物には家族連れに入って貰う事になるだろう。

 食事は外で摂るしかないだろう。


 まあ、僕らも経験した事だ。

 新しい住民にも慣れて貰うしかない。

 結局、持って帰って来る事になった採集現場用の3つの竈をどこに設置しよう・・・

 


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