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第80話 「53日目4時25分」-8月5日 土曜日-

20180316公開

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 殉職者6名・・・

 犬に近い頭部に変化した6名の部下の死に顔が頭から離れない・・・



 先月から準備を始めた今年の駐屯地納涼大会は開始前から盛況の兆しが有った。

 毎年好評の部隊が出す屋台はもちろん、本格的なやぐらも設営し、来賓、地域の盆踊り保存会、住民も招いたイベントは駐屯地に対する理解を持って貰う為にも重要だ。

 『召喚』に巻き込まれたのは開始してから30分ほど経った頃だった。

 一瞬で、夕やみ迫る納涼大会会場の風景が、日が傾きかけた草原に変った。

 ねっとりとした蒸し暑さが和らいだので、この地は湿度が低いのだろう。

 会場に居た人出の密度に比べればかなりまばらだが、それは大体300㍍の範囲に散らばったからだ。ぱっと見た感じ、200人くらいは視界に入っていた。


 最初に頭に浮かんだ事は安全確保だ。

 のどかに見える平原だが、この地には敵対的な勢力や肉食獣、危険な草食動物が存在する事は広く知られている。

 統合幕僚監部が内部資料として出している情報には民間に流されていない情報も記載されているので、いかに危険な土地かという事は国民よりも知っている。

 もし、この地が『不明敵対人類』の勢力圏ならば、すぐに移動する準備に入るしかない。 

 問題は発声が出来ない事だった。この問題は情報には含まれていなかった。

 身振り手振りで、なんとか集合を始めた矢先だった。

 ライオン程の大きさの肉食獣の群れに襲われた。

 ライオンの狩りの様子は何度か映像を見た事が有るが、速度も力強さもライオンより上だった。

 その猛獣に対し、部下は勇敢に立ち向かってくれた。

 1頭に対し複数で当たり、私服を着た市民をなんとか保護しようとした。

 それでも、彼我ひがの戦闘力の差は誰の目にも明らかだった。数カ所で円陣を組んで防御に入ったが、崩壊は時間の問題だった。

 だが、それをひっくり返す援軍が現れた。

 彼、後に『第3次召喚災害』の『被災者』だと分かったが、宮井氏は空中を移動しながら、詳細不明の火力を使って、安全地帯を作ってくれた。

 もし宮井氏(身長は小学生並みなのだが一種異様な存在感が有る、猫に似た頭部を持つ人物だ)が来なければ、1名の生存者も生まれなかった事は明らかだ。

 その後も、統合幕僚監部が掴んでいない未知の種族を含めた増援が救助に来てくれた。

 

 纏まった部隊の現状報告では、駐屯地に居る人員の約1割の部下が『召喚』に巻き込まれていた。


 第37普通科連隊

   本部管理中隊情報小隊  2名    2尉1名 3曹1名

         衛生小隊  2名         1曹1名3曹1名

         連隊本部班 1名              士1名

   第1普通科中隊第1小隊10名    2尉1名 2曹1名 士8名

          第2小隊 7名         3曹1名 士6名

          第3小隊 4名              士4名

                          2曹1名 士5名殉職

   第2普通科中隊第1小隊12名         2曹1名3曹2名 士9名 

          第2小隊 4名    3尉1名 2曹2名 士1名

          第3小隊 6名              士6名

   第3普通科中隊第1小隊 8名         2曹1名3曹1名 士6名

          第2小隊 5名    2尉1名      士4名

          第3小隊 6名         3曹1名 士5名   

   第4普通科中隊第1小隊 6名         2曹1名 士5名

          第2小隊 3名              士3名

          第3小隊 5名              士5名

   重迫撃砲中隊      2名              士2名 

 第49普通科連隊

   第3普通科中隊第3小隊 2名    3尉1名 3曹1名

 第3後方支援連隊第2整備大隊 8名        2曹1名3曹2名士5名  

 第398会計隊        2名                士2名

 信太駐屯地業務隊       5名        3曹1名 士4名

 第318基地通信中隊信太山派遣隊 2名           士2名

 第131地区警務隊信太山派遣隊  6名      2曹1名3曹1名士4名


 1普中の第3小隊に殉職者が集中しているが、彼らは20頭近い猛獣の襲撃に晒された市民を助ける為に自らを犠牲にしたとの事だった。


 

 上司としては、その奮闘によって市民の被害が軽傷者までで収まった事に誇らしさを抱くべきなのだろうが、頭が下がる思いしか浮かばない・・・

 




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 まだまだ夜明けには時間が有る。

 だが、そろそろ朝食用の狩りに行く準備をする事にしようか。

 半分眠っている意識を覚醒させる為に、起き上がって伸びをした。

 たっぷりと10秒ほど伸びをし終ってから見渡すと、直径40㍍の円陣を描く様に置かれた馬房柵と、自衛隊員が何人かでグループを組んで、何カ所か在る隙間を埋める様に立っているのが見えた。

 1つの班に槍を持った隊員が1人か2人は居る。

 槍は俺たちが持って来ていた5本と予備の槍3本の計8本を回している。

 さすがに『イイノヒコ』たち黒ポメの槍は借りれないから訊く事もしていない。


 俺は詳しくないが、山本氏けんじゃが教えてくれた事だが、自衛隊には銃剣術と言う武術が有るそうだ。ライフルの先に銃剣を差して接近戦をする為の武術らしい。

 確かに、映画かなんかで見た覚えは有る。

 形や長さが違うので、身に付いた技を全て使える訳では無いし、対人戦闘用の武術がどれくらい『わらかみ』相手に通用するか不明なところは有るが、それでも素人が使うよりは遥かに戦闘力が上がる。

 何より、素手で『わらかみ』の相手をするよりは、安心感が有るだろうし、自衛隊員のやる気というか士気が上がる筈だ。

 まあ、俺の様に遠距離攻撃手段を持っていれば槍の有無は関係無いが。

 そういう意味ではドラゴンもどきの2名の自衛隊員は俺と同類になるな。


 それと、俺が夜の狩りに出ている間に、『召喚』された自衛隊員の所属部隊の詳細が判明していた。

 聞いた事も無い部隊名も有ったりしたし、教えてくれた山本氏けんじゃが更に階級別の数字も挙げていたが、さすがにそこまでは覚えきれなかった。

 しかし、自衛隊の部隊というか職種というか、そんな知識まで持っているのだから、山本氏はさすが賢者だとしか言えない。

 

 

 

お読み頂きありがとうございます。

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