第79話 「52日目19時45分」
20180310公開
『わらかみ』の子供は、俺の150㍍後をトボトボとした足取りで付いて来た。
途中、保存食のトリケラハムスターで作ったドライソーセージもどき(半分サラミソーセージみたいな作り方で作った)を1ブロック落としておいたが、しばらくそこで停まっていたから、きっと食べたのだろう。
まあ、100㌘くらいのドライソーセージもどきくらいでは満腹には程遠いと思うが、何も食べないよりはマシだ。それで満足してどこかに行って欲しいからした事だ。
とはいえドライソーセージもどきを食べたくせに、俺が気を利かせて仕留めたメスの『わらしか』1頭を無視したのだから、何をしたいのか訳が分からない。
首を斬り裂いてトドメを刺した後、その仔わらかみにあげる積りでそのままにして帰ろうとした。
2頭も『わらしか』を背負子に積むと強度の関係で速度を上げられないから、最初のオスだけを持って帰る気だったからだ。早く帰って、ドラゴンもどきの自衛隊員に食わせてあげたいからな。
それなのに、仔わらかみはメスの『わらしか』に見向きもせずに真横を通り過ぎようとしやがった。
ふざけるな、と思った俺は悪くないと思う。要らないなら要らないと言って貰わないと、貴重な肉が無駄になってしまう。
慌てて戻って、血抜きをして、背負子に載せた時の俺の顔はきっと、なまはげの様な顔になっていた筈だ。
まあ、猫もどきの顔でなまはげの顔は再現出来なかったが、俺の怒りは伝わったのだろう。その最中は200㍍ほど離れていた。
それからずっと、俺の後を付いて来る。
後ろを振り返る度に、仔わらかみは顔を下に向けて何かを探しているフリをする。
地面の匂いを嗅いでいるフリをした事も有った。
前を向いて歩いていても、常に何をしているか分かっているだけに、余りにも白々しい。
なんせ視線察知能力で、俺を見ている事が分かっているからな。
ひょっとして、俺の後を付けていると何か貰えると思い込んでいるのか?
それとも、別の思惑が有るのか?
満足すればどこかに行くかもしれないので、試しにもう1ブロックドライソーセージもどきを落としてみる事にしよう。
万が一の為に持っていたドライソーセージもどきだったが、これで手持ちは無くなる。
正直なところ、勿体無いのだが、このまま付いて来られるよりも良い筈だ。
俺は根っからの猫派だから、犬の様な『わらかみ』に懐かれても嬉しくない。
結局、仔わらかみは、みんなが居る場所の手前まで付いて来た。
正確には200㍍まで近付いたところで、ひっそりと伏せた。
視線はじっと俺を見ている。
取敢えず、ドラゴンもどきになった自衛隊員に『わらしか』の肉を振る舞う方が先決だ。
ヤツの事はその後に決めよう。
100㍍を切ったくらいまで近付いたところで、清水有希君が声を上げた。
彼女も気配察知能力を持っている。
有効範囲は100㍍ほどだ。
「あ、宮井さんが帰って来ました」
「どこだ? みえない!」
「ほら、あそこです」
こっちに視線が向けられるのが分かったが、まだちゃんと見えていない様だった。
うん、やはり猫もどきとは基本性能が違う以上に、まだまだポメラニアンもどきの能力を活かし切れていない。遠征隊の全員は俺が帰って来た事に気付いている。
まあ、ポメラニアンもどきには猫もどきの様な気配察知能力が無いし、夜目もここまで利かないし、まだ2時間も経っていないからこんなものかもしれん。
「だれか!」
40㍍手前でやっと見えたのだろう。周囲を監視していた自衛隊員から声を掛けられた。
えっと、これって、誰何と言うヤツだっけ?
そう言えば、合言葉とかを決めてなかったな。
仕方ないので、素で答えよう。
「宮井です。追加でシカもどきを仕留めて来ました」
俺の言葉にどよめきが起こった。
帰りは時速10㌔くらいしか出せなかったから、時刻はもう9時を回っている。
気配察知で分かっていたが、やはりみんな起きていた。
中には「しかだって。おいしいのかな?」と子供に言っている母親も姿も有った。
ツッコミたいが、ここは聞こえなかった事にしよう。
俺は脳筋だからな。
「みやいさん、わざわざありがとうございます」
『ざいぜん』司令が出迎えてくれた。
「いえ、それほどの手間では無いので構わないですよ。それよりも、ドラゴンもどきの隊員さんにはあれだけでは足りないでしょうからね。追加で食べさせて上げて下さい」
「かさねてありがとうございます」
その夜、もう1度、『被災者』全員に夕食(と言うよりも夜食か?)が振る舞われた。
ドラゴンもどきの2名の隊員には、何度も頭を下げられた。
やはり、全く足りなかったのだろう。
清水有希君にも感謝をされた。どうやら、彼女もみんなと同じ量しか食べなかった様だ。
うん、ゴメン、すっかりと忘れていた。
俺は脳筋だから仕方ない。
ついでに言うと、員数外の1頭にもおすそ分けをした。
尻尾を振りながら食べている様は、犬にしか見えなかった・・・
ただ、これだけははっきりと言っておかなくはならない。
俺は猫派である事を捨てる気は無い。
多分・・・
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