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第71話 「52日目16時27分」-8月4日 金曜日-

20180214公開


 俺の視界に入る、周囲360度の光景は、まさしく『THE 草原』というものだった。

 唯一、前方には今回の遠征の目的地である森が存在している。

 距離にして5㌔という所だ。今朝出発した黒ポメの集落『しかのうら』からは30㌔の距離が有るから、旅程の5/6を終えた訳だ。

 何度か予備調査の為に訪れている事も有って、ここまで来るとほぼ到着したという気分になるが、まだまだ気を抜けない。

 なんせ、今回はこれ迄と違って大所帯で荷物も多いからだ。守るべきものが多いと言える。


 今回の遠征は、銅鉱床での採掘をする第一陣だった。

 『新堺しんさかい』に建ててもらった住居が完成したので、今度はこちらがお返しをする番だ。

 彼らが抱える問題を解決するお手伝いを早速する事にしたのだ。


 同行者で異彩を放っているのは、ゾウもどきの11人だ。

 彼らは、銅鉱床への遠征の計画を聞くと、一族郎党で志願して来た。

 大事に使って来たとはいえ、さすがに100年以上も使って来たせいで、包丁やスコップがチビッて来ていたので困っていたそうだ。

 短剣だと思っていた包丁は、元は3倍以上も長くて厚みももっと有ったらしい。

 肉食も草食もどちらもいけるゾウもどきにとって、大型の草食種族を捌く時に重宝していたが、切れ味が落ちたり刃こぼれする度に研いでもらっているうちに小さくなってしまったらしい。

 仕方が無いと言えば仕方が無い。

 俺も有名な料理人のドキュメンタリーかなんかで、『駆け出しの頃に買った和包丁が、愛用して研ぎ続けた為に今ではこんなに小さくなりました』、という説明シーンを見た事が有る。

 そういう事情で困っていたところに、今回の遠征の話を聞いたのだから、渡りに船とばかりに同行を志願して来た。

 まあ、力仕事を任せられるという点では、こちらにとっても渡りに船と言えた。

 戦力として考えても、最良と言える。

 それに、彼らが所有している或る物資が有るか無いかで、いざという時に生死を分ける事になる。


 黒ポメの集落『しかのうら』からは、護衛役として12人の現役トップクラスの狩人が参加している。

 更に5人の炻器せっき造りの職人が採掘役として参加している。

 最初の計画では「修羅」を曳く為に両方とも2倍以上の人員を動員する筈だったが、『ヤマさん』たちが力仕事を引き受けてくれたおかげで人数を絞れた。

 ちなみに、職人の5人は輸送中はコロを「修羅」の進路上に敷く担当だ。

 今もせっせとコロを敷く為に動いてくれている。

 まあ、『ヤマさん』達ならコロ無しでも曳けるのだが、それをすると「修羅」本体の底が削れてしまう恐れが有るので、敢えて手間が掛かるがコロを使っている。

 1カ月近く掛かってやっと造った全長5㍍の「修羅」(ほとんどはいい感じに二股になった木材探しだった。何度、東に在る『昏き森』に入ったか分からない程だ)を、これからも繰り返し何度も使う為には仕方ない。



 俺たち『新堺しんさかい』からは6人が参加している。


 3者合同チームの調整役としては山本氏けんじゃ

 偵察役としての黒田氏。

 この辺りの草原に多数生息している、黒ポメが『わらかみ』と呼んでいる狼もどき対策としての清水有希しみずゆき君。彼女も使える様になった遠距離からのブレス攻撃は威嚇としてかなりの威力を発揮する事は、これまでの経験から明らかだ。

 最近は目撃談が無いとはいえ、野生の猫もどきが万が一姿を現した時の為の護衛としての俺。

 雑用係として、高校生代表の奥村将太おくむらしょうた君と沢田來未さわだくみ君。

 まあ、奥村将太君と沢田來未君の2人に関しては、本来は同行しなくてもいいのだが、本人たちが志願して来た。最初は高校生全員が志願したが、無駄に人員を増やしても仕方が無いという理由で2人だけ同行させた。

 志願した動機は『召喚』後にお世話になった『しかのうら』への恩返しと言う理由だ。

 いい子たちだ。

 そのまま真っ直ぐ育ってくれる事を祈るばかりだ。


 ちなみに、高校生たちは『新堺』の貴重な戦力にもなっている。

 『新堺』に来てからは、身体強化の能力も使える様になった事に加えて、『しかのうら』製の槍の使い方を全員が練習した成果だ。

 槍の使い方をみんなに教えたのは、『女子の嗜み』として薙刀を習った事が有る内山和子うちやまわこ君だ。

 ただ、彼女曰く、槍と薙刀では全く捌きが違うそうで、共通している突きを教えたそうだ。

 突きがメインの槍に対して、薙刀は斬るという攻撃が加わるらしい。

 長さも薙刀の方が長いらしい。

 だから、彼女自身は身に付いた薙刀術が邪魔してしまうから逆に困っていた。

  


「もう少しで森に着くから、もうちょっと頑張っておくれ」 

 

 炻器造りの職人と一緒に「修羅」の進路上にコロを並べている2人に、俺がそう声を掛けた直後に北の方を偵察していた黒田氏が戻って来た。


「お疲れ様。どうだった?」

「ああ、北西の方向に『わらかみ(狼もどき)』の大きな群れが居る。距離としては10㌔くらいだな。数は50頭前後。ただ、東に向かっているので、こっちには来ないと思う。『わらいぬ』は見当たらないな」

「なるほど・・・ こっちが風下だし、匂いが流れないのは助かるな。まあ、念の為に、みんなにも伝えておく。その他には?」

「特に無いな。念の為にこれから南の方を見て来る」

「そうしてくれると助かる」


 短いやり取りをした後で、黒田氏は再度上空に上がって行った。

 黒田氏との会話に出て来た『わらかみ』と『わらいぬ』の差は、大きな点では体長と身体強化能力の有無だ。

 『わらかみ』の方が大きく、身体強化の能力を持っている。

 小型で身体強化能力を持たない『わらいぬ』は、俺が初日に闘った種族で、基本的に弱っているか、群れからはぐれた草食種族を5頭から10頭の群れで狙う習性が有る。

 対して『わらかみ』は相手が大きな群れでも襲う事がしばしばだ。

 どちらが脅威かと言えば、圧倒的に『わらかみ』の方だ。

 その『わらかみ』が珍しい事に50頭もの群れを作っている。無用な危険を冒さない為にも、遭遇しない様に慎重に動く必要が有る。

 


 異変は森まで2㌔を切った段階で発生した。


 不自然な風が北から吹いた事が発端だった。

 何故、不自然だと感じたかというと、温度と湿度が明らかに違っていたからだ。

 風の温度がそれまでの気温より10℃は低く感じた上に、乾燥し切っていた。

 それに匂いもおかしかった。

 いて近い匂いとして上げるなら、急に降りだし始める夕立の直前の匂いに近いか?

 しかも、『一陣の風』とばかりに1回だけしか吹かなかった。

 地球とは空気組成も気候も違うから、こういう風も有り得るのかも知れないが、少なくとも俺は経験した事が無い。

 周りを見渡すと、ゾウもどきも黒ポメも全員が風が吹いた方向を見ていた。



「ヤマさん、何が起こっている?」

「分からぬ。初めて経験する風だ」


 200年以上生きている『ヤマさん』も経験した事無い風?

 まさか・・・


「この風を知っている。1度だけ吹いた。その時に起こった事は、『くさわらのねのぬし』も知っているはず」

 

 俺たちが知りたいと思った答えは黒ポメの狩人の1人からもたらされた。

 予備調査で一緒に組んで来た『イイノヒコ』だ。狩人チームのリーダを務めている実力者だ。


「『こうこうせい』たちが現れた時に吹いた風と同じ」


 俺は『こうこうせい』という言葉が出た瞬間に決断した。

 

「山本さん、黒田さんが戻ったら、今の事を伝えて欲しい。俺と高校生の3人は北に向かう」

「我らも行こう」

「かたじけない。ならば、『角持つのもち』だけ付いて来て欲しい。残りはここで待機を」

「分かった、そうしよう」

「我らも行く」

「助かる。だが半分は残しておいてくれ。『わらかみ』の群れがこっちに来ないとも限らない。迎え撃つ準備をさせておいてくれ」


 戦力の半分を連れて行く事になるが、それでも残った戦力で『わらかみ』の群れを迎え撃つだけなら対処は可能だ。こういう時の事も考えて「馬房柵」を「修羅」に積んで来ている(まあ、野営する際の使用が本来の用途だが)。

 


 『ヤマさん』、『イワさん』、『カワさん』の3人は額に角を生やしている。

 ある程度の年齢を越えた男性の半分くらいの確率で生えるそうだが、『角持ち』になった個体は風系の能力が使える様になる。

 彼らが使う風系の能力は、地球で1番有名だった異世界生物の『ユニコーン』も使うそれとは比較にならない威力を発揮する。

 体格に見合うだけの威力を持つそれは、有効射程は100㍍近く、直径5㌢くらいの木くらいなら2発も撃ちこめば斬る事が可能だった。

 しかも、狙いも細かい調整が可能な為に、草原の覇者として君臨するゾウもどきの強みだ。

 まあ、頑強な体格に見合う防御力も有るので、彼らに突っかかるのはトリケラハムスターくらいなものだったが・・・



 高校生たちに5人の被害を齎した『わらかみ』の群れは5頭だった。

 『召喚』された『被災者』のもとに、俺たちが先に到着するのか、それとも50頭もの『わらかみ』の群れが先に到着するのかは、全く予測が付かなかった。


 だが、1つ確かな事が有る。

 もし、出遅れた場合は、考えたくも無い惨劇になる。






お読み頂きありがとうございます。


 ここまでお読み頂いた方はお分かりでしょうが、前話に比べて今話は長い・・・

 ええ、mrtkは気まぐれ派です(^^)

 気分次第で短くも長くもなるし、早くも遅くもなります(^^)/

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