第70話 「8日目12時35分」
20180210公開
ゾウもどきの最年長の『ヤマさん』との会談は昼食を摂りながら続いていた。
『ヤマさん』は器用に、『鼻先の両手』で出された料理を磨製石器製の二股フォークとナイフで切り分けて食事をしている。
最初は別れた鼻先の指もどきに目が行ったが、道具を使っている姿を見ると、分かれた鼻先は2本の腕に思えて来た。
人間で言うと、手首の根本くらいが鼻先の左右に生えている感じだろうか?
確かに、フォークとナイフを使うならば、人間同様に左右で異なる動作が必要だ。
それにしても、世界と種族が違っても、知性を持つと同じ様な道具を発明するんだな。
他のゾウもどきは、この『しかのうら』で調達する物資の手配に行っているか、側を流れる川に行っている。
川に行ったのは子供3人とその親たちだ。
父親の1人が「クサワラノイワ氏」で、もう1人の父親が『ヤマさん』と『オカさん』の1人息子の「クサワラノカワ氏」だ。成人後に独立して離れた土地で奥さんと出会ったそうだ。
馴れ初めまでは聞いていない。
さすがに種族が違い過ぎて、興味も湧かない。
もっとも、出会った場所の説明の中で出て来たが、平原には『新堺』と『しかのうら』の横を通る川以外にもう少し小さな川が北向きに流れているそうだ。
この辺りではそれほど大きな川では無いそうだが、かなり北の方に在る山脈から流れている川と合流した後はかなり大きな川になるそうだった。
ゾウもどきは乾燥には強いそうだが(2~3日は水を飲まずに歩いても平気だそうだ)、きれい好きな事とリラックスする為に水浴びが出来る場合は1日に数回は水に浸かるそうだ。
まあ、日本人も風呂好きだから、少し分かる気がする。
どうでもいいが、この黒ポメの集会所の床はとんでもなく頑丈だな。
ドラゴンもどきの清水有希君と『ヤマさん』の2人が乗っても大丈夫なんだから。
多分、ゾウもどきとの交流が有るから、床が抜けない様に強度を持たせているのだろう。
そういえば『新堺』で建築中の住居だが、中井沙倶羅ちゃんと清水有希君のドラゴンもどきが2人で住む建物は、他の建物よりも遥かに太い木材を使っていたな。
しかも、かなり深い穴を掘って基礎にしていたから、ちゃんとしたノウハウが有るのだろう。
『しかのうら』と交流が出来たことは本当に僥倖だったとしか言えないな。
でなければ、『文化的な暮らし』どころか、サバイバル状態がずっと続いた可能性が高いからな。
それに、平原でゾウもどきとばったりと出会った場合、こんなに平和的な会談なんて出来なかったかもしれない。
「そういえば、亡くなった母から聞いた事が有るな。我らの先祖は『いんえいうろおむ』という土地から来た、という話だったか・・・ 詳しくは母も知らなかったようだが」
そんな爆弾発言が出たのは、食事の終わりの方だった。
俺たちがどこから来たかの話が出た時だった。
「もしかして、あの帝国の時代の事かも知れませんね。フォークとナイフが有ったかは分かりませんが」
「私の記憶では、当時の帝国には青銅製のフォークが存在していました。そう考えると、有り得ない話では無いかも知れませんね」
『ヤマさん』の言葉にすかさず反応したのは山本氏と佐藤先生だった。
「だが、『召喚』災害は日本でしか起こっていない。その説は無理が有るのでは?」
「もしかして時代によってバラけていたのかも知れませんし、日本国内でだけ『召喚』されるようになる前は別の場所でも被害に遭っていたのかもしれませんよ?」
「どっちにしろ、確証は無いか・・・」
俺の疑問に山本氏が答えてくれた。
俺たち3人の会話を興味深そうに見ていた『ヤマさん』に山本氏が説明してくれた。
「失礼しました。先ほどおっしゃった『いんえいうろおむ』という名の場所に心当たりが有ったので、意見を交わしていました。もし、我々が考えている通りならば、貴方たちの祖先は我々の世界では有名な時代、有名な土地から来たと考えられます」
「ほう・・・」
「日本人の大人なら、多分ほとんどの者が知っている有名な土地の名です。我々の言葉で『ローマ帝国』と言います」
「ろーまていこく・・・」
「ええ、偉大な土地です。その土地からこちらに来た可能性がかなり高いと思われます」
「先ほど教えて貰ったぬしたちの『にほん』とは違う土地なのだな?」
「ええ。場所も離れていますし、季節が1500回から2000回巡る前に栄えた土地です」
「ふむ・・・ 善き哉。この度の出会いは良い知らせをもたらしてくれた」
そう言って、『ヤマさん』は目を細めた。
その表情はひどく人間臭かった。
お読み頂きありがとうございます。
寒波襲来の季節です。
そして、寒さに勝つ為に、感想が欲しい今日この頃です(^^;)




