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第69話 「8日目12時15分」-6月20日 火曜日-

20180208公開


 俺たちは黒ポメの集落『しかのうら』から招待を受けたので、再び訪問していた。

 招待されたのは、前回の参加者に追加して高校生代表の奥村将太おくむらしょうた君と沢田來未さわだくみ君を加えた計7名だ。


 用件は紹介したい種族が居るからと言う事だった。

 で、早速訪問したのだが、その紹介したい種族と言うのが、例のゾウもどきだった。

 間近で見ると、本当に大きい。

 目の前にした時に、全員が思わずポカンと口を開けて見上げたのは仕方が無い事だと思う。

 想像してみて欲しい。

 自分の背丈の2倍以上の3㍍を超える体高で、体長が5㍍の立派な体格の種族を前にした心境を。あのクマもどきよりも更に体積が大きい種族を前にした感情を。

 我々で1番大きい身体を持っているドラゴンもどきの清水有希しみずゆき君が小さく見える程だった。


 闘いたいと思っても仕方ないよな?


 

 想像もしていなかったが、ゾウもどきは地球のゾウと違って会話が可能だった。

 ちょっと低音で聴き取り難いのが難点だったが、慣れれば問題無い。

 それと、これも地球のゾウと違って、鼻先が分かれていて、それぞれに4本の指もどきが生えていた。

 骨は無い様だが、かなり器用に物も掴めるのだから、もう指と言っても良いと思う。

 更に言うなら、鼻の孔はちゃんと顔の位置に開いていた。

 どんな進化をしたら、鼻の下がこんなに発達するんだ?

 『鼻の下を伸ばして』という言葉が全く仕事をしない種族としか言えんな。


 目を合わせた時に最初に思い浮かんだのは何故か、クジラの様な目だな、というものだった。

 知性が宿った、穏やかな黒い目をしていた。

 話しをしている内に分かったが、結構目の表情が豊かだ。

 笑うと、目尻の皺が深くなるし、まぶたも人間の様に細くなった。

 黒田氏や佐藤先生よりも感情が分かり易かったのは内緒だ。

 なんと言うか、意外と可愛いと思ってしまった。


 それと、器用な鼻先を持っているせいか、道具も使う。

 左右の前足に括りつけられたベルトには、それぞれ革で出来た2つの道具入れがぶら下がっていた。

 ご丁寧にも、雨が入り込まない様にカバーも完備だ。

 その道具入れの中には、銅製の短剣(特注品だそうだ)、銅製のスコップ(これも特注品だそうだ)、磨製石器製の包丁、何本かの杭、かゆい時に使うブラシ代わりの棒、食事に使う磨製石器製のフォークとナイフ、その他用途がすぐに分からない道具が固定されていた。

 ベルトには道具入れの他に、食事に使う為の木製のまな板兼食膳、何種類かの布製品もぶらさがっていた。

 うん、道具に関しては、今の俺たちよりも遥かに文明人としか言いようが無い。


 更に驚きの事実が判明した。この情報を教えてくれたのは黒ポメの『しがかわなのひこ』だ。

 11人(ここまで高度な知性を持っていたら、人間と同じ単位を使わざるを得ない)の内、3人が黒ポメの村を壊滅させた猫もどきと闘った事が有るそうだ。あの127年前の惨劇の直後の事だそうだ。

 そう、ゾウもどきは長寿の種族でもあった。

 最年長の「クサワラノヤマ氏」が217歳、その妻の「クサワラノオカ女史」が194歳、その弟の「クサワラノイワ氏」が159歳だ。

 どうでもいいが、『クサワラノヤマ』というのは、きっと『草原の山』と言う意味だと思う。

 なんか、名前と言うよりは『二つ名』の様だが、本人たちが気に入っている様なので気にしてはいけないのだろう。

 元々、3人は惨劇に見舞われた集落と交流が有って、その時に手に入れた銅製の道具を今も大事に使っているそうだ。

 で、その3人がいきなり襲って来た猫もどきと闘って、撃退したと教えてくれた。


 闘いたいと思っても仕方ないよな?



 黒ポメの集落『しかのうら』と今も交流している理由は、銅製の道具の研ぎがここでしか出来ないからだそうだ。

 今でこそ銅製品を鋳潰して磨製石器の研ぎ台や細かい形状にする為の研ぎ金具にしているが、本来はおかしな話だ。

 銅製の槍を造れるという事は、切れ味を維持する為に槍頭を研げる研ぎ石が存在していなければならない。

 ならば、その研ぎ石で磨製石器を研げばいいだけの話だと思うだろうが、何故か磨製石器に使われる石材とは相性が悪い様で、滑ってしまうので全然研げないそうだ。

 それと、銅製品は造れなくなったが、高度な磨製石器や布製品などの生活用品はここでしか手に入らないので、年に何回かはここに立ち寄るそうだった。



「しかし、ぬしの種族が服を着ているというのは違和感が有るのう」

「そう言われても、こちらからすると服を着ない方が違和感が有りますからね」

「ふむ、本当にキャツとは別の生き物の様だ」


 もう、1時間以上は話しているので、頭の中では勝手にゾウもどきたちの言葉を現代の日本語に翻訳してしまう様になってしまった。

 

「ところで、ヤツは強かったのでしょうか?」

「ああ、強かったとも。こちらが3人がかりだったから負けなかったと言える。もし1対1ならば、られていたかものう」

「それほどですか・・・」


 『ヤマさん』がちょっとしみじみとした風情で発言した。

 あ、『ヤマさん』というのは、『クサワラノヤマ氏』の事だ。

 ゾウもどきにも愛称と言うのが有って、そちらを使ってコミュニケーションを取っている。


「一番厄介だったのは、ちょこまかと動くから、こちらの攻撃が当たらん事だったわい。最後は3人で囲むようにして攻撃をして、なんとか怪我を負わせたから逃げて行きおった」

「なるほど」 

「もっとも、キャツは怪我が治ったら、この辺りを荒らしに荒らしよってな。そのせいも有り、キャツは『草原の死の主』と呼ばれてる程じゃ。結局、季節が2巡した頃にどこかに行ってしもうた」


 当時、この辺りを荒らした野生の猫もどきは、かなり強かったという事が窺える話だった。




 闘いたいと思っても仕方ないよな?




お読み頂きありがとうございます。

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