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第6話 「55分後」

20170707公開


20170716セリフ表記変更


≪おとうちゃん、もういい?≫


 かえでが5㍍後の茂みから声を掛けて来た。

 俺は死んでいた被災者の顔に残っていた涙の跡を拭き終ってから返事をした。

 

≪ああ。ふたりとも、たかしくんにおわかれをしてあげなさい≫



 楓と水木みずきのクラスメートだった孝志君は太ももと上腕に受けた傷からの出血が原因で失血死をしていた。

 彼は、顔がポメラニアンに似た種族に転生していた。小冊子に載っていた種別で、それなりの数の被災者が転生した種族だ。

 俺たちと同じ様に身体は毛深くなっていたが、構造は余り人間と変わっていない。

 特殊能力は少なく、どちらかと言えばパワー型に分類される種族だ。

 俺たちよりもちょっと大きくなっていて、着ていた服やズボンなんかが小さくなって邪魔だったのだろう。すぐ傍に脱いだ青いポロシャツとジーパン、白いジョギングシューズが落ちていた。

 脱ぎ終わったところを襲われたのだろう。ポロシャツとジーパン両方ともに穴は開いていなかった。今は俺が折りたたんで重ねて置いてある。

 どうして彼の服か分かったかと言えば、水木の前の席が彼だったから覚えていたそうだ。

 ちなみに彼の親は授業参観に来ていなかった。

 こんな異世界で、誰にも看取られる事無く涙を流しながら孤独に死んでいったのだ。

 最後に思った事を考えると、何とも言えない気持ちになる。

 

≪このままにしておくのもかわいそうだから、うめてあげよう。そのあいだ、ふたりにはみはりをしてもらうけど、いいね?≫

≪うん≫


 答えたのは水木だった。手を合わせていた時には涙を流していたが、今は収まった様だ。楓も目が潤んではいたが気丈にも涙は流さなかった。

 そう言えば、彼女たちのおばあちゃん、すなわち俺の母親を見送った時も同じ反応をしていたな。


 立ち上った時に、何かの気配を感じて、気が付けばそちらに向けて自然と警戒の構えを取っていた。

 娘たちはそんな俺をポカンとした目で見上げている。

 自分でも訳が分からないが、何かがそこに居る事はこの身体の本能が知らせている。

 もう1つ訳が分からないのは、顔の前に目に見えない『力』が満ちている事だ。

 それも本能的に俺がやっている事だと知らせて来ている。

 足元に置いておいた木の棒を拾い上げ、出来るだけ落ち着いた声が出る様に心掛けながら声を掛けた。


≪だれかいるのか?≫


 反応は泣き声だった。

 動物が上げる鳴き声では無く、人間が泣く声だ。

 しばらく相手が落ち着くまでそのままの姿勢で待つ。

 楓と水木にも動かない様に囁く。

 

 2分ほど経ってから姿を現したのは、膝上までの薄いピンク色のスカートを穿いたポメラニアン顔の種族だった。


≪きょうかちゃん? わたし、かえでだよ!≫


 2人目の「被災者」とは生きて再会出来た・・・・・






お読み頂きありがとうございます。


 なんとか4日連続更新出来ました(^^;)

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