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第67話 「7日目8時25分」

20180202公開


*第61話「3日目11時05分」の平原の距離感を修正しました。

 【彼らの集落から見て北西方向に3日間ほど歩いた位置に在る森と湖の側に、或る黒ポメの集落が有ったそうだ】 → 【彼らの集落から見て北西方向に半日ほど歩いた位置に在る森と湖の側に、或る黒ポメの集落が有ったそうだ】


 エアーズロックもどきの上にベースキャンプを造るのはすぐに済んだ。

 2日間掛けてかまどの基となる石などの資材を持ち込んでいたので、それを組み上げるだけだったからだ。

 ただ、テントを建てる事が出来ないので全天候型のベースキャンプと言うには程遠い。

 黒田氏も雨が降っている状況では飛べるかどうかが不明だし、安全上からも雨天の時は偵察飛行はしない方針だから問題無い筈だ。


 トリケラハムスターの肉を焼く為に手頃な石を使ってかまどを組んだが、将来的には山本氏けんじゃが試作中の簡易レンガで造る積りだ。

 その試作している簡易レンガだが、完成にはまだまだ掛かる予定だ。

 山本氏けんじゃの話では工程としては半分くらい済んだが、この後にも山が有るらしい。

 粘土の素材となる土と葉っぱの調査と採取、規格作り、型枠作り、粘土造り、型枠で造ったレンガの基造り、乾燥、焼成、焼き上がったレンガの検査と実験という工程の内、現在は乾燥の段階だ。


 正直なところ、これほど本格的なレンガ造りになると思っていなかったので、ビックリだ。

 最初の素材探しだが、これは意外と簡単に済んだ。

 根拠地から50㍍ほど森に寄った場所に、有望な土を発見出来たのだ。方向としては南東になる。

 まあ、山本氏けんじゃ曰く、実際は焼いてみなくては分からないらしいが、それでもかなり期待出来るそうだ。

 強度を上げる植物繊維が豊富な葉っぱも、森の外縁部だけで十分な量を採取出来た。

 その際には採取をしてくれた高校生全員が黒ポメ製の槍を持って行ったが、更に万が一の為に清水有希しみずゆき君が護衛として同行した。

 採取の指揮を執ってくれた山本氏けんじゃによると、猿もどきの姿も声も気配も無かったそうだ。

 俺がクマもどきを倒した事が影響しているのかもしれん。 

 


 次の規格作りの段階で山本氏けんじゃの豆知識の量には驚きを隠せなかった。

 山本氏けんじゃが決めた規格は、1個の大きさは20㌢×10㌢×6㌢と、10㌢×10㌢×6㌢の2種類だ。

 山本氏けんじゃの話では、JIS規格では21㌢×10㌢×6㌢らしい。

 長辺が21㌢と言うのにはきっと意味が有るのだろうが、レンガの基となる型枠を造る際に5㍉単位の調整が難しかったので、半分にしたサイズを造る時に1㌢単位になる様にした。

 もっとも、有田琴音ありたことねちゃんの筆箱の中に入っていた15㌢サイズのプラスチック製定規が無ければ、きっと単位なんて適当になっただろう。

 本当に、琴音ちゃん様サマだ。


 実際に型枠を造ったのは、片岡進次郎かたおかしんじろう君だ。

 自分の事を拙者と言う男子高校生だ。

 手先が器用で、性格も真面目だ。口調だけがおかしいのかもしれない。

 まあ、山本氏けんじゃ曰く、キャラ作りらしいが・・・

 型枠は黒ポメが持ち込んだ木材を回して貰い、それを貸してもらったノミモドキを使って2個ずつ造った。

 懸念材料が有るとすれば、組み合わせた時に固定が可能な様に作った上面の突起と下面の窪みが上手く機能するか? らしい。

 上手く機能すれば、積み上げた時の強度が上がるそうなので上手く行って欲しいものだ。


 粘土造りも高校生たちが大活躍してくれた。

 ここでも先頭を切ったのは沢田來未さわだくみ君だった。ノリノリで泥まみれになってくれた。彼女が居てくれてかなり助かっている。

 取敢えず、60個を試作して、今は乾燥中だ。

 ただ、問題は必要となる薪の量だった。

 俺が想像していた量よりも、遥かに上回る量が必要との事だ。

 今日も高校生たちが薪集めに行く予定だが、俺の身長を越える山が出来るくらいは必要だそうだ。

 なんでもレンガ作りの為に森林伐採をし過ぎて衰退した文明が有るらしい。

 20個ずつの2つのグループに分けて薪の量を減らして焼いても問題無いかを調べると言っていたが、薪を大量に使う焼成をせずに、日干しだけで強度が得られるかも20個のレンガで試すとも言っていた。

 東の森はここから見ても視界一杯に拡がっているので、伐採し尽くす事は無いだろうが、労力を考えると乾燥だけで済んだ方が絶対に楽なんだが。

 


 

「お父ちゃん、見て! ゾウさんがいるよ!」


 かえでが声を張り上げたのは、そろそろ火をおこそうと思っていた時だった。


「親子かなぁ?」

 

 水木みずきがこっちを見て声を上げた。沙倶羅ちゃんもこっちを見ている。

 3人とも俺に見て欲しいのだろう。

 「どれどれ」と言いながら、3人の側に行き、彼女らが指差している方を見た。


 こっちに来た日の夕方に見たゾウもどきが11頭、北西10㌔ほどをゆっくりと歩いていた。

 こちらの方向に向かって歩いているから真正面から見る形になった。

 体高は3㍍といったところか? 地球のゾウと同じ様に鼻が長い。牙は無い。象牙のハンコはこの世界には無いんだろうな。確かにゾウに見えなくも無いが、耳が小さいせいで、牙が無い事と合わせて考えると、やはりゾウそのものでは無いという印象だ。

 もっとも、牙の代わりに頭に立派なつのが1本生えているのが4頭いる。きっと雄か雌かのどちらかにだけ生えて来るのだろう。

 全体的な印象として巨大なユニコーンの様にも思える。

 そういえば、水木が言う様に3頭のゾウもどきの身体が小さい。確かに子供の様だ。

 興味深いのは、俺の本能が戦いたがっている事だ。

 食料として認識せずに、単純に戦いたいと思っている事が分かる。

 どんだけ戦闘狂なんだ、猫もどきは? 



「いくつかの家族がグループを組んでいるんだろうな」

 

 俺の言葉に、沙倶羅ちゃんが答えた。


「やっぱり地球のゾウさんと違うんですね」

「どういう事?」

「地球のゾウさんはオスは別にくらすらしいです。テレビで言っていました」

「へー、そうなんだ」


 俺は素直に感心した。


「ゾウさんって、大人しいですけど、あばれだしたらすごいみたいですね? 私、テレビであばれているのを見ました」

「あー、あるある。なんか、車にライバル心を持っているみたいに車相手に暴れるんだよな」


 その時、ゾウもどきから少し離れた地面が揺れた様に見えた。

 いや、何かが猛スピードで地面を移動している。


「あ!?」

 

 楓が気付いて、声を上げた。

 その何かが、先頭を歩くゾウもどきの左の前足に突っ込んだ。

 だが、跳ね飛ばされてしまって、そこを後続に踏まれてしまった。


「トリケラハムスター・・・」


 ちょっと呆然とした声で楓は言った。


「むちゃしやがって・・・」


 水木が後を継いだ。


 

 いや、なんで、敬礼のカッコをするかな、水木?

 脳内に或るAAを思い浮かべてしまった俺は正常だと思う・・・・・・





お読み頂きありがとうございます。

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