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第65話 「3日目17時55分」

20180117公開



 目の前には黒ポメの女性陣が用意してくれた料理が並んでいた。

 これから、2つの集落の提携を祝う宴会が行われるのだ。

 場所は交渉にも使われた、黒ポメたちが集会や訪問者の宿泊などに使う高床式の大きな建物だった。

 出席者は高校生を含めた『被災者』全員と、黒ポメの部族からは話し合いに参加していた12人が参加した。


 話し合いはこちらの方が多くの益を得る形で纏まった。

 部族長を始めとする黒ポメ指導層は、短期的な利益を得るよりも長期的な利益を得る方を選んだと言える。

 俺たちの集落に家屋を建てる人材の派遣や必要な木材の提供も決まったし、衣服の提供も決まったし、彼らの特産品の石器を使った槍の提供さえも決まった。

 これらにより、俺たちの『新堺しんさかい』のサバイバル環境は一気に向上する。

 そう、俺たちの居住区域の名前も決めた。

 偶々なのか、必然なのか、『召喚』に巻き込まれた小学校も高校も、両方とも同じ大阪府堺市に在った。

 話し合いの最中に、お互いの集落の名前をどう呼ぶのか? と云う話になった時に、沢田來未さわだくみ君が提案してくれたのだ。

 ちなみに、『なのしがくぬひこ』を始祖とした黒ポメの集落の名前は『しかのうら』と判明した。

 


 目の前の床に置かれた高さ30㌢ほどの木で出来たローテーブル上に配膳された料理は、炻器せっきで出来た直径40㌢くらいの大皿に盛りつけられている。

 料理ごとに盛られており、大皿の数は10枚にも及んだ。

 各自には木製の受け皿と箸が配られた。

 肉料理も多いが、植物を原材料として作られた料理も意外と豊富な量が用意されていた。

 少なくとも、我々が用意出来る料理よりは遥かにバラエティに富んでいた。

 『しかのうら』は十分な食料を得る事が出来る環境なのだろう。

 でなければ、縁もゆかりも無い20人もの人間を保護して、その上面倒を見ようとは考えない筈だ。

 そう言えば、話し合いの途中で判明した事だが、沙倶羅さくらちゃんと対峙していた5人の黒ポメは金井さんと室井さんを保護しようと近付いたらしい。

 まあ、ドラゴンもどきの沙倶羅ちゃんに邪魔されるし、挙句には猫もどきの俺が手を出して来るし、とんだ災難だったとしか言いようが無い。

 ただ、おれが威嚇攻撃だけしかしなかった事が、俺たちに接触する判断材料の1つだったみたいだ。

 殺さなくて本当に良かった。



 宴会は黒ポメの部族長の挨拶から始まった。

 最初に勤めた会社の上司が大の時代劇ファンで、その人に見せられた古い時代劇のポスターに映っていた主人公と同じ様な三日月形の傷が額に刻まれた30歳くらいの黒ポメが部族長だった。

 身長は160㌢くらいで、服の上からも分かる位に筋肉が鎧の様に纏われている。

 それだけ聞くと脳筋の様に思われるかもしれないが、意外と調整型の人物だった。

 不思議なもので、最初の頃には意味を掴めなかった彼らの言葉も、何時間も交渉した後では結構分かる様になって来ている。

 まあ、元は同じ日本語なのだから、語尾などの用法や訓読みしか無いという点を頭に入れると、聞き取りは慣れてしまえるから当たり前と言えば当たり前だ。

 とは言え、山本氏けんじゃが突破口を開いてくれなかったら、もっと手間取ったと思う。

 むしろ、ヒアリングよりも、こちらが話す時の方が気を使う。

 音読みの言葉もそうだが、何気なく使ってしまう、ことわざや慣用句が通用しなかったりするのだ。

 特に四文字熟語など、中国の故事から来ているせいか、全く通用しない。

 こう言っては失礼だが、日本の歴史が中国を始めとする色々な国や世界各地の文明・文化と交流して来た事や、歴史上で起こった出来事が多かったのに対して、彼らの歩んだ歴史が如何に狭い範囲に収まって来たかが分かる気がする。

 悪く言えば語彙が少ない、良く言えばシンプルなのだ。


 黒ポメの部族長の挨拶が終わり、次は俺が挨拶をした。

 内容は、縁もゆかりも無い高校生20人を保護してくれた事と、犠牲になった5人を弔ってくれた事への感謝から始めた。

 更には、これから行われる我々への援助への感謝も伝えた。

 そして最後は、今後はお互いに手を取り合って、共に繁栄する事を願うという言葉で締めくくった。


 宴会にはお酒が出た。

 大事な事なので、もう一度言う。

 お酒が出た!

 ブルーベリーに似た果実を発酵させて作ったワイン風味のお酒だった。

 造り方は、よく洗ったブルーベリーもどきを丁寧につぶして、そこに発酵を担う秘伝の液体を入れて、3週間ほど掛けて常温発酵をさせるらしい。

 詳しくはさすがに教えてくれなかったが、美味しいお酒にするにはかなりの手間を掛けているのが言葉の端々に滲み出ていた。

 地球のワインと同じく、地下に作った酒蔵庫で寝かす事で熟成もしていると言われた時には、人類のアルコールに対する熱意は世界を渡っても衰えないのだと、大人組4人は妙に納得したものだ。

 味に関しては、素直に美味いと言えた。

 なんせ、ビール党の俺でさえそう思うのだから、ワイン党の黒田氏なんかは、目がちょっと潤んでいたのは仕方が無い事だろう。

 鷹頭の黒田氏が、しんみりとブルーベリー酒を飲んでいる姿は、ある意味哀愁と場違い感が漂っていたが・・・

 山本氏けんじゃも佐藤先生もお酒は嗜む程度らしいが、2人の感想も上々だった。

 お土産に5合くらいが入る炻器で、違う年度に造ったブルーベリー酒を4本くれるらしいから、集落で待つお母さんたちに飲ませるのが今から楽しみだ。

 

 

 宴会の後半は、かなり盛り上がった。

 原因は、お酒の力も有ったが、主に俺だ。

 俺が倒したクマもどきを実際に見た黒ポメ使節団の5人が、どうやって倒したかを訊いて来た事が切っ掛けだった。

 黒ポメにとって、森の中に生息している体長5㍍を超える種族は未知の存在だった様だ。

 多分、彼らが住んだ集落の側の2つの森には生息していなかったのだろう。

 もし遭遇していたら、彼らの事だから必ず伝承されている筈だ。

 まあ、俺自身がエアーズロックもどきの上から目撃した巨大な象もどきも、彼らが交流をしている種族の様だが、それでも5㍍を超える2足歩行も出来る種族は他に居ないのだろう。

 身振り手振りを交えた再現は、黒ポメにかなり受けた。

 生活の中で、狩猟が大きな要素を占める彼らにとって、武勇と言うのはかなり重要な事なのだろう。

 後で山本氏けんじゃから言われたが、恐怖の対象であった猫もどきの俺の強さを改めて知る事で、その存在を味方に出来た今回の交渉は大成功だったと、天下御免の向こう傷の部族長から言われたらしい。

 


 俺の武勇伝は、高校生たちにとっても大きな意味が有った様だ。

 彼ら彼女ら自身、狼もどきに襲われて実際にクラスメートが犠牲になったくらいだ。

 いくら気丈に振る舞っても、この世界で生きて行く事には心の底からは自信が持てなかっただろう。

 だが、怪獣と言ってもおかしくないクマもどきを倒した存在が味方に居るという事実は、安心感に繋がる。

 しかも、猫もどきは俺の他にも俺の娘たちが居る。有希君と沙倶羅さくらちゃんというドラゴンもどきも居る。 

 移住先に強い存在が複数存在すると言う事は、彼らの移住するという決意が間違っていないと思えた様だった。



 翌日は朝食をご馳走になった後で出発した。




 

お読み頂きありがとうございます。

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