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第64話 「3日目15時35分」

20180113公開


 保護された高校生20人の内、奥村将太おくむらしょうた君と沢田來未さわだくみ君の2人が黒ポメとの話し合いに立ち会う事になった。

 奥村君の同席に関しては、生き残った20人をなんとかまとめ上げていた事と、高校生グループの意見を反映するという名目で参加して貰った。

 猫好きの沢田君の同席に関しては、俺たち大人4人の推薦だ。

 猫が好きだからという理由で移住を決めた形になったが、彼女が言った『恩が返せなくなる前に移住した方が良い』という意見表明は、かなり鋭い裏読みの能力を持っている証拠だ。

 黒ポメが裏切るとは思えないが、このまま高校生たちをこの集落に置いておくのは、いざとなった時に人質にもなり得ると言う事に気付いていた証拠だ。後でこっそりと聞いたら、「あら、バレていましたか」と言って、舌を出していた。

 ここに高校生を置いておくのは、只でさえハードな交渉になる筈なのに、譲歩するネタになってしまいかねない。

 まあ、彼女の様な鋭い人間なら、同席させておけば、奥村君がクラスメートに交渉の内容を伝える際にも独自の視点を追加してくれるだろう。


 

 そして、交渉が始まって2時間ほどが経ったが、現在は休憩中だ。

 ここまでは、思った以上に譲歩を勝ち取れている。

 かなりの難航を予想していただけに、拍子抜けもいいところだ。

 山本氏けんじゃもこの結果に驚いたくらいで、思わず援助される内容を途中で2度確認したほどだ。


 今までにこちらが負う事になった一番大きな債務というか、仕事としては、銅鉱床への採掘集団派遣の際に俺が同行する事くらいだった。

 そして、この事が大きな譲歩を勝ち取る事になった理由だ。

 実は、彼らの集落はかなり深刻な或る問題を抱えていた。

 昔使っていた銅製の槍先を原料とした石器の研磨台の稼働数が残り少ないという事だ。

 むしろ推定1500年以上もよくももたせたものだと思う。

 危機打開の為に、最近になって猫もどきに蹂躙された集落跡に何度か決死隊を派遣して、槍先などの銅製品の発掘をさせたらしい。

 だが、成果は無かったそうだ。

 それなら、露天の銅鉱床に行けば良いと思って質問したが、行かなかった理由はいくつか有った。

 まずは、採掘される鉱石に含まれる銅の含有率の問題だ。

 山本氏けんじゃが補足で教えてくれたが、地球で採掘される鉱石で含有率は1%有るか無いか、らしい。

 1㌔の銅を得るのに100㌔の鉱石が必要となり、運搬に多大な負担が掛かる事になる。銅製の槍先なら数本有れば1㌔になる、のにだ。

 運搬に負担が掛かるだけなら良いが、肉食の種族が生息する中での移動だ。危険性が増えるのは当たり前だ。速度も上がらないから移動時間も掛かる。ますます危険性が増す。

 そこに更に悪条件が重なっていた。

 野生の猫もどきが、の集落跡の周辺で他の部族に目撃されていたのだ。

 もう、八方ふさがりと言って良い。


 集落としての価値を高めていた石器作りを継続出来るメリットは計り知れない。

 交渉が始まるのに時間が掛かったのは、俺という猫もどきを万が一の用心棒として使う見返りを纏める為に費やされた様だ。

 鉱石を確保出来るならば、かなりの譲歩をしても良いという結論に至るのに必要な時間だった訳だ。

 俺たちとしても、否も無い。

 むしろ、今後の事を考えると銅器製造に再び乗り出して欲しい程だ。

 その為には鉱床近くに炉を造る方が良いのだが、それは拒否された。



「山本さん、修羅って聞いた事が無いかな? 藤井寺市の図書館で展示されているんだけど?」

「聞いた記憶は有りますね。それがどうしたんですか」

 

 差し入れされたお茶を飲み下した後で、山本氏けんじゃたずねてみた。

 茶碗は日本では当たり前の釉薬が使われておらず、彩色も絵柄も無い褐色の土器っぽいものだった。なるほど、これが炻器せっきと言うヤツか。

 なんか、素朴な感じがして、気に入りそうだ。

 お茶自体の味は、なんと言うか独特のにがみは有るが、飲み慣れれば美味しく感じられそうだ。



「修羅と言う運搬方式を彼らに教えるのも良いかもしれないと思ってね」


 少なくとも、この集落内を最初に案内された時には、リアカーや一輪車に類する物を見なかった。

 多分だが、車輪と言う概念が無いのだろう。

 ポメラニアンもどきの能力には肉体強化が有る。移動手段を徒歩で済ますならば、車輪の発明は難しいのだろう。今から車輪の作り方を伝えても精度を上げるのも難しいし、木製の車軸では長持ちしないだろう。

 と言う事は、鉱石の運搬手段は背中に背負うという方法になる。 

 1人当たり50㌔を背負って、10人で運搬すれば500㌔の鉱石を運べる。

 やはり、修羅を使った方が楽な気がする。


「宮井さん、それは良いかも知れませんね。ええ、確かに有りですね」


 佐藤先生が会話に加わった。歴女れきじょとしては当然だろう。


「あれなら作るのが簡単だし、実際に古墳を造るのに使われていたから実績も有りますし」

「実は名前だけ知っていて、構造を知らないのですが、どんな構造なんですか?」


 山本氏けんじゃも知らない事が有るんだな。


「木製で二股になっているんですよ。多少の段差なら乗り越えられる様に先端は船の様になっていて、何トンという石室も運べた筈です。確か・・・ 出土した藤井寺市が300人掛かりで実用に足りるかの試し曳きをした筈です」

「14㌧の石を再現した修羅に載せて、300人で曳いたけどあまり動かなかったので、丸太を敷いて曳いたところ、簡単に動きましたよ。子供の頃に親と一緒に見に行ったからよく覚えているんですよ」


 もう、30年近く昔の思い出だ。

 楓と水木くらいの子供だった記憶が有る。


「まあ、2㌧の鉱石くらいなら、ポメラニアンもどきなら肉体強化を使ったら15人で曳けば十分に使える気がしますね。各自で背負って運ぶ場合は、いざという時には逃げ遅れる可能性もありますし」


 うん、自分で言っていて良いアイデアな気がして来た。




 5分後に再会された話し合いでは、すぐに試作に取り掛かる事が決まった。






お読み頂きありがとうございます。

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