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第63話 「3日目11時50分」

20180110公開



「本当に、あの、『リスサラ無双むそう』の自衛蒸巣・砲丸センセイなんですか!?」

「拙者、全巻持ってるでごわす!」

「マジか・・・」

「すげえ! 『嫁は全員、俺が守る!』って言って下さい!」

「しゃ、写真、撮って良いですと?」


 山本氏けんじゃは本人の自己申告以上の人気作家の様だった。それも、かなり熱狂的なコアなファン層を掴んでいるみたいだった。

 まあ、なんか変な言葉使いなのが2人ほど混じっているが、少なくともさっきまでのお葬式状態よりはよほど良い状態だと思う事にしよう。

 

「あまりサイン会もしないから顔バレしてないけど本物ですよ。それと僕の作品を買ってくれて、ありがとうございます。来月の末日に新刊を出す予定だったけど、さすがに無理かな。未だ半分しか書いてなかったからね。セリフはさすがに恥ずかしいからパスで。別に構わないけど、まだバッテリー残ってる?」


 おお、さすが賢者だ。山本氏は一斉に言われた事にちゃんと答えた。

 5人のテンションが益々上がった。

 それを見ている残りの2人は呆気にとられていたが、それでも先程よりも少しはマシな表情になっている。

 ひとしきり5人と話した後で、山本氏けんじゃは男子生徒全員に話し掛けた。

 

「みんな、僕たちの集落に来てくれるかな? ここと違って、住む家も不十分だけど、日本人同士で住んだ方が気が楽だと思うよ」

「拙者は行くでごわす。いや、行きたいでござる」

「あ、オイラも行きます」

「賛成!」

「もちろん行きます!」

「行かいでか!」


 うん、興奮しているのか言葉使いがぶれている気がするのが若干数居るが、他のみんなも行く気になってくれた。

 

「女子のみんなも一緒に来てくれるかな? まあ、強制じゃないし、ここの暮らしの方が良いと思うけど?」


 山本氏けんじゃの問い掛けに、女生徒たちが話し合いを始めた。


「有希っち、そっちの住み心地はどうなの?」

「住み心地って言っても、家が無いからねえ・・・」

「え? じゃあ、どこで寝てるの?」

「満天の星空のもと、草で作ったマットでオヤスミだねえ・・・」


 ニホントカゲそっくりの顔なのに、俺の目には有希君が遠い目をしたのが分かった。

 一斉に視線が俺の背中に突き刺さるのが分かる。

 何故、彼女たちを誘った山本氏けんじゃでなく、俺に視線が向くのかを訊いてみたい気もするが、逆効果だろう。

 今度は彼女らに正対する様に座り直す。


「正直に言うが、今の段階では保護した小学生28人の分しかテントが無い。大人たちや有希君と同じ種族になっているもう1人の小学生の家はこれから建てる予定だ。具体的な建築計画はこの後に行われるここの集落との話し合いによって決まると思っていて欲しい」


 彼女たちの視線を受け止める様に、目をしっかりと見渡しながら答えた。

 

「私、行きます!」

「え、來未くみ、行くの?」


 さっき、俺に手を振って来た女生徒が右手を上げながら宣誓した。

 全員の視線が彼女に向かった。


「だって、ここに居たら、負債が増えるだけだよ? 返せなくなる前に行った方がいいんじゃない?」

「負債って・・・ せめて恩とか借りとかって言ってよ」

「どれも一緒よ。ノーモア借金! 借りパク厳禁! それに、誰がその恩だか借りだかを返すのか? を考えたら、私たちに返せる? 私たちの労働力なんて、この世界ではあまり時給が高そうに思えないの」

「いや、そりゃあそうだけど」

「まあ、勿論、私たちの持っている数学や物理や化学の知識はチート級だけど、それを認めさせるのは骨だよ? もしかしなくても、魔法が有る段階でこっちの世界は地球とは違う物理法則が有るよ? 第一、言葉も分からないのに、どうやって認めさせるの? その事を考えたら、さっさと移った方が賢いよ」


 俺は思わず拍手しそうになっていた。

 それは俺だけでなく、山本氏けんじゃもそうだし、佐藤先生と黒田氏も同じだった。


「それに、宮井さんは猫なんだよ? 安心して任せても良いと思わない?」

「いや、それは根拠無いんじゃ?」

「カワイイは正義! って言葉を知らない? ましてや、娘さんたちも猫ちゃんみたいだし、行かないと言う選択肢は無いわぁ~」

「く、こいつ、誰か何とかしないと」

「來未の悪い癖が・・・」

「でも、宮井さんは信頼出来るって言うか、頼りになるって言うのは事実だなぁ。だって、私も助けてもらったし」

「詳しく!」

「吐け、吐いて楽になれ、有希っち!」

「悲しい話だけど、構わない?」

「構わん! 馴れ初めを聞かいでか!」

「森の中で、どうしようもなくて目の前で死なせてしまったオジサンの遺体を守っていたら、宮井さんが助けに来てくれたの。何も出来なくて、泣いている私を優しく慰めてくれたの」

「く、こいつも何とかしないと!」

「ヤバい、猫ヤバい!」



 えーと、こういうのをカオスというのだろうか?

 バイタリティが有るというというか、何というか・・・


「そういう事で、私は行くよ!」



 來未君の再度の宣言で、移住の話は決まった。

 

 その直後に、黒ポメの女性陣が昼食を持って来てくれた。

 メインのおかずは初めて食べる肉だったが、トリケラハムスターの肉に比べると少し脂っぽい印象だった。

 まあ、脂身特有の甘味が美味いから好みの問題程度だろう。

 味付けにマジカルペッパーを使っていないので、使ったらもっと美味くなる気もする。



 結局、黒ポメ側との話し合いが始まったのは、昼食を食べ終わってから1時間後だった。 





お読み頂きありがとうございます。


 書き上がった傍から即投稿(^^;)

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