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第61話 「3日目11時05分」

20171202公開



 俺、山本氏けんじゃ、佐藤先生、黒田氏、清水有希しみずゆき君の5人が黒ポメの使節団と共に彼らの集落に同行する事になった。

 大人4人は黒ポメとの交渉の続きをする為と、集落の視察を兼ねている。


 彼らから提供して貰う事になる有形無形の援助は幅広いものになるのは確実だ。

 現状、こちらが提供出来るものは少ない。

 それでも授業参観中に『召喚』に巻き込まれた『被災者』43人と、新たに合流するであろう20人を加えた63人が生き残る為には、なんとか援助を引き出す必要が有る。

 タフな交渉になる事が想定された。

 移住は最初から考慮に入れていない。

 使節団の反応を見れば、猫もどきが3人も混じっていては精神的な圧迫が強過ぎると判断せざるを得なかったからだ。いっその事、このまま楓と水木を連れて妻の小百合を探す旅に出ようかとも思ったが、状況が流動的過ぎて踏ん切りが付かなかった。


 有希君は黒ポメが派遣する予定のクマもどき解体集団を案内する為に同行して貰う事にした。

 彼女を選んだ理由は、黒ポメ職人の護衛の意味も有るが、ドラゴンもどきと言う巨体を活かした荷物運びに必要だからだ。

 中井沙倶羅なかいさくらちゃんも考えたが、沙倶羅ちゃんは黒ポメとのファーストコンタクト時の事が有るので、人選から外す事にした。

 まあ、トラウマにはなっていないと思うし、頼んだら引き受けてくれると思うが、小学3年生の女の子にそこまでさせるのは良くないと思ったからだ。

 それに、楓と水木と一緒に狩りに行って貰う方が気も楽だし適材適所だろう。


 黒ポメの集落も、初めてクマもどきを解体するらしいので上手く捌けるか自信は無いそうだ。

 だが、上手く毛皮をなめせれば、その価値は計り知れない。

 彼らの集落はこの近辺では先進的な技術者集団として知られており、他の種族との交流も盛んだそうだ。

 遠くは1週間以上掛けてやって来る種族も居るそうだ。

 クマもどきの毛皮を絨毯に出来れば、それを見た他種族の黒ポメに対する評価が更に上がるだろう。 

 意外とこういう事は重要だ。

 現代でも、外交の場では自国を良く見せる努力をしない国は無い。在ったとすれば、その国は大きな損失をしている事に気付かないのか、見栄を張る事も出来ない程に弱体化しているかだ。



 黒ポメの集落に向かう道中に、山本氏けんじゃがツッコんだ質問もして、黒ポメの事をかなり明らかにしてくれた。

 彼らが猫もどきを異様に恐れている理由と、彼らが一時は銅器時代に突入していた事もこの時に判明した。

 彼らの集落から見て北西方向に半日ほど歩いた位置に在る森と湖の側に、或る黒ポメの集落が有ったそうだ。

 元々は『しがかわなのひこ』らの集団から分離して集落を築いたらしいが、そこでは銅鉱石が露天で掘れる土地が近くに有り、銅器の生産で繁栄し、本家よりも大きな集落になったそうだ。

 その集落を壊滅させた存在こそが猫もどきだった。

 その集落からは多数の難民が逃れて来たが、その事がトラウマになったのか、2度と進出する事は諦めたそうだ。そういった事も有り、猫もどきとの遭遇は種族の存亡に係わると言う教訓に結び付いたらしい。

 彼らは独自の暦を作っているが、それによると127年前の事だった。

 それ以来、銅鉱床から離れた事も有り銅器の生産も諦めて、息を潜める様に今の集落に引きこもったそうだ。

 その悲劇が有った頃には銅製の槍先はそれなりに有ったそうだが、今では違う用途に使っていて残っていないとの話だった。


 その代わりに発達させたのが石器を作る技術だ。

 石器と言えば、黒曜石を打ちつけて作った打製石器が真っ先に頭に浮かぶ日本人が多いかもしれない。

 だが、黒ポメの槍先はやや暗い灰色で、黒曜石では無い。第一、滑らかに磨かれた磨製石器だ。

 この石器に使われている石材が侮れないというか、かなりの優れものだ。

 政府が兵庫県に在る『SPring-8』で、帰還した『被災者』が身に付けていた品々を徹底的に調査をしているが、この石材を使った石器ナイフは地球には無い組成をしていた。

 モース硬度は6で黒曜石の5を上回る。硬さだけなら工具に使われる鋼並みだ。

 当然だが、磨く為には鋼以上の硬度が必要だ。

 そして、銅器がこの世界では最良と言われる理由に、俗称『ミスリル』という鉱物が絡んで来る。『ミスリル』をある一定以上の比率で含んだ銅は、硬度が鋼を上回るのだ。モース硬度は7に達する。

 しかも、融点は地球の銅と同じ1083℃。ちなみに鉄は1539℃だ。

 溶かし易いのに、冷めれば鉄以上の硬さを誇るなら、銅器が発達するのも当たり前だ。

 黒ポメは銅器を作れなくなったが、銅製の槍先を鋳つぶして石器の研磨台にすることで(地球では銅はモース硬度2.5~3と柔らかい為にその様な用途では使えない。だが、こちらの世界では先程言った通りに可能だ)、高度な石器を作る技術を手に入れて他の種族よりも先進的な種族であり続けた。


 しかも鍛冶の技術を土器に流用した事で、土器も特産品になっているそうだ。

 もっとも、佐藤先生曰く、最初に考えられていた土器では無く、窯を使っているなら炻器せっきの一種ではないか? との事だ。例えば信楽焼がそうらしい。

 山本氏けんじゃも佐藤先生も博識だとしか言いようが無いな。






「ああ、良かったぁ・・・ 助かったぁぁぁ・・・」


 黒ポメの集落で保護されていた20人の『被災者』の代表者が俺たちを見て、最初に漏らした言葉だ。

 彼の2㍍後ろには彼と同じく学生服を着た集団が居た。

 制服を着こなしている雰囲気から判断すると、高校生の集団の様だった・・・





 

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