第59話 「3日目7時45分」
20171122公開
俺の前にあぐらを組んで座っている7人の黒ポメが、手に持ったトリケラハムスターの串焼きを口にするよりも、俺たちの根拠地の様子を見る方に気持ちが行っているのが分かる。
視線が落ち着かないのだ。
そして、かなりの時間を子供たちとそれに付き添う親たちに視線を向けていた。
幾種類もの種別が仲良く朝食を食べているからだろう。
俺は政府発行の小冊子を読んでいるし、元が日本人同士だから違和感の無い光景だが、彼らにすれば違和感だらけなのだろう。
子供たちも黒ポメが気になるのか、チラチラと見ていた。
あれからいくらかのやり取りをした後、遅くなった朝食を摂る為に彼らを河原の根拠地に迎え入れた。
彼らにすれば、命懸けの訪問だったのだろうが、こちらにもこちらの都合というものが有る。
腹を空かせた子供たちに食事を食べさせる事よりも重要な事はそんなに無い。
在るとすれば、それは全て生命に係わる事だ。
そして、今は命のやり取りをする場面では無い。
ならば、子供たちに朝食を食べさせる事が何よりも優先される。
まあ、俺たち大人も腹が減ったから食べたかっただけなんだが。
彼らも想像していたよりも遥かにスムーズに行われた接触に安心したのか、あっさりと食事の誘いに乗った。
まあ、俺の推測だと、最悪の場合は7人全員が殺されるという所まで予測していたと思う。
それほどの恐怖を猫もどきに抱いていた様だし、視線も気配もそれを裏付けていた。
もしかすれば、彼らの集落が猫もどきに襲撃された事が有ったのかもしれない。
ただし、今回遭遇した猫もどきは衣服を着ている事から、話し合いが可能だと考えて、それに縋ったのだろう。
俺の予定では、今日にでも彼らの集落に行こうと思っていただけに、彼らが来てくれた事は渡りに船だ。
諸手を上げて歓迎だ。
だから気前良くトリケラハムスターの一番美味しい部位のモモ肉を彼らに割り当てした。
最初は固辞していたが、早く朝食を食べたい俺がニッコリと笑うと震える程恐縮した後で受け取ってくれた。
「あららどれ程居るのですか?」
もっとも、山本氏は食事よりも好奇心の方が上回っている様だ。
さっさと食事を済ませて、黒ポメの代表者の『しがかわなのひこ』に質問をした。
多分、漢字で書くと志賀川名彦か、志賀川奴彦とかになるのだろう。
それとも師賀彼和名之比呼だろうか?
うん、分からん。
ただし、彼らが漢字を知らない事ははっきりしている。試しに地面に書いた漢字には全く反応しなかったからだ。
それにしても、さすがとしか言えないな。
山本氏は短い時間のやり取りで、会話のコツを掴んでいた。
例えば、『あなた』に当たる言葉は『あ』の一言で表し、複数の場合は『あら』になり、『自分』は『わ』で、複数形は『わら』となる様だとトリケラハムスターを焼いている間に教えてくれたからだ。
漢字で書くと『我』と『我等』という所だろうか?
「わららよそぢあまらむつやさぶらく」
えーと・・・ 分からん。
「山本さん、彼は何と言ったんだ?」
答えが分かったのか、頷いている山本氏に思わず助け船を求めたが、恥ではないだろう。大人組で一緒に食べているみんなも同じ様に山本氏に目を向けているのが証拠だ。
もちろん頭の上には全長50㌢、全幅20㌢のハテナマークがもれなく浮かんでいる。
金井和美さんのトラ吉などは泣きそうになっている。
ちょっと分かるぞ、その気持ち。
「46の家族が居るという答えだと思いますよ」
何故分かるのだろう?
みんなの頭上に浮かんでいるハテナマークが全長60㌢に成長した。
「よそじが40で、むつが6、合わせて46ですね。やという部分が所帯を表しているみたいです」
そう言って、山本氏が『しがかわなのひこ』に手振りを交えて質問をした。
「あらやらよそじあまらむつ?」
『よそじ』の部分では指を4本立てて、『むつ』の部分では両手を使って6本の指を立てた。
「さにさぶらく」
『しがかわなのひこ』が大きく頷いた。
『先生』では役不足だ。これからは山本氏の事を『賢者』と呼んだ方が良いかもしれない。
みんなのハテナマークがビックリマークに変っている。
もし、この場に押しボタンが有れば、きっと、へェ~、へェ~の大合唱が起こっていただろう。
お読み頂きありがとうございます。
半分気まぐれで更新します。
念の為に再び言っておきますが、mrtkは言語学者では有りませんので、作中に出て来る言葉に関しては専門家の考証を経た物ではありません(^^;)
おかしい部分が有れば、作中で山本先生が言った様に【古い上に変化もしている様です】だからという事で突っ込まないで下さいね。だから、あまり真剣に考察をしないで下さいませ(^^)/




