第5話 「45分後」
20170706公開
何故、『「召喚」されてしまった時に注意すべき10項目』の最初の項目に【01:周りに危険が無いかを確認しましょう】が来ているか? を正確に理解している日本人は少ないと思う。
俺なりに考えたが、答えは『日本人は平和ボケしているから』という理由だと思う。
いきなり『召喚』されて、見知らぬ土地に放り込まれれば、誰だって呆然としてしまうのも当然だ。
日本でなら動かずに救助を待つ方が正解の場合が多いだろう。移動する事で体力も消耗するし、探す方も手掛かりを失うかもしれないからだ。
だが、ここでは、自衛隊も消防隊も警察も来てくれない。
自分の身は自分で守る必要が有る。
『覚悟を決めろ・・・・・』
それを端的に示す為の第1項だと思っていたが、どうやら正解だった様だ。
今、俺たちは1匹の『草食動物』に襲われている。
たまたま俺の方が先に発見したから3人とも最初の突進を躱せたが、気付くのがヤツの方が先だったら確実に娘のどちらかが大怪我をしていたと断言出来る。
外見はどでかいハムスターと言っても良いと思う。体長は多分だが60㌢は有る。
愛くるしい目や耳や胴体はハムスターそっくりだが、左右の目の上に2本の角が20㌢ほど伸びている。
強いて言うならハムスターと恐竜のトリケラトプスを掛け合わせた感じに近いか?
コイツの事は小冊子に載っていたが、草食動物の癖に縄張り意識が強くて、縄張りに入った動物に突進して来る為に、習性を知らない頃の「被災者」は警戒せずに突進を受けてしまって、かなりの人数が怪我をしたと書いてあった。
弱点は正面以外の攻撃に弱いと有ったが、この子供の様な身体で相手にするには強敵だ。
肉は焼いただけで美味しく食べられるらしい。ほぼ全ての転生先の種族で食べる事が出来るそうだ。
俺の転生先の種族の猫もどき人の本能は生肉でもご馳走だと認識している。
気になるのは、角に赤い血がべっとりと付いている事だ。
覚悟を決めて、両手で持った棒を上に構えてから目を逸らす。ヤツは好機とばかりに突っ込んで来た。
予想通りの速度で、予想通りのコースで・・・
狙うのは鼻だ。剥き出しの感覚器官を痛打すれば、さすがに動きが止まる事に期待を賭けて上に構えた木の棒を思いっ切り振り下ろした。振り下ろしている途中で軌道が左にずれたのを必死で修正する。ほぼ狙った所を叩く事が出来た。衝撃でヤツの顔が下を向いた。2本の角が踏み込んだ俺の左足数㌢前の地面に突き刺さった。
もう一度木の棒を振り上げて叩き付ける。今度は角の根元の間だ。完全に動きが止まった事を確認して後ろを振り返った。
5㍍後ろで見守っていた娘たちと目が有ったが、何というか、目が爛々と輝いている。
遭遇前にコイツらの肉が美味しいと言った事を覚えているのだろう。
俺も空腹が我慢出来なくなりつつある。
だが、解体も焼いて食べるのも後回しだ。
角を濡らしていた血の主を探すのが先だ。
100㍍先の小川の河原で、俺たち猫もどきとは別の種別に転生した「被災者」を発見した。
ただし、息はもうなかった・・・・・
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