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第58話 「3日目6時25分」

20171011公開


 今現在、黒ポメ7人が、俺たちの前で胡坐あぐらをかいて頭を下げながら両手を拡げて握り拳を地面につけている。

 7人全員がそれなりの年齢の男だ、多分。


 黒ポメの集団に俺たちが近付くと、7人はこの姿勢になった。

 この姿勢は見た事が有る。

 日曜日の夜8時から放送されている大河ドラマで、戦国時代のシリーズを観てると頻繁に出て来る。

 武将が座る時にしているアレだ。


 実は以前、この座り方についてネットで調べた事が有る。

 武士が座る時は正座という印象が有ったのに、戦国時代の時はどうして胡坐なんだ? と思ったからだ。

 結果は意外と簡単だった。

 正座は徳川幕府3代目将軍家光の時に定められた座り方だそうだ。

 だから、戦国時代は胡坐でも無礼にならないらしい。

 まあ、それ以前に甲冑を着てたら脛当が邪魔で正座は無理だろうと後で気付いて苦笑いを浮かべたのは内緒だ。


 黒ポメの集団が持っていた槍はすぐに手に取れない距離に置かれている。

 恭順の姿勢を取っていると考えて良いだろう。

 それ以外の武器は身に帯びていない様だ。


 服装は、初めて逢った時と同じ様なくすんだ茶色の麻の様な繊維で織られた貫頭衣と柔道着の様なズボンだ。

 ただ、今日着ているのはかなり状態の良い物だろう。以前見た時と違って汚れも無く新品に近い一着だと分かる。

 また、腰の辺りに巻いているベルトの様な帯は黄色か赤紫色に染められていた。

 


 7人の黒ポメが無言で頭を下げている状況が1分は続いた。

 こっちが何かしないと、この気まずい空気が漂う状況が終わりそうにないのか? と思った頃に、俺の左側に居る山本氏が口を開いた。


「頭を上げて下さい」


 その言葉に反応する様に、黒ポメ全員が半分だけ頭を上げた。

 後ろに控えている女性陣が息を飲んだ気配がする。

 実際はまだ未確定だが、こちらの言葉に反応したのだ。日本語が分かると思ってもおかしくない。



 ただ、黒ポメの集団は頭を上げたが、視線は下げたままだ。


「わらら、なのしがくぬひこがすえばさぶらく」


 真ん中に座っている黒ポメが言葉らしき音声を発した。 

 俺たち全員が反応した。

 ただし行動を起こした訳では無い。

 そう、全員の頭の上にハテナマークを浮かべたのだ。


「くさわらがねのぬしさまにめどろたてまつり、よろこむこなうえなしさぶらく」


 更に続いた言葉にもう1つハテナマークが増えた。

 意味は分からないが、発音自体は日本語に聞こえる。

 外国語の様に子音が主でなく、母音がはっきりと発音されているからだ。

 俺は思わず隣に立っている山本氏を見た。

 俺の視線に気付いた山本氏が苦笑と共に首を振った。


「日本語の様に聞こえますが、自信は有りません。ただ、こういう場合の最初の言葉は自己紹介か、挨拶か、誰何すいかだと思います。多分ですが、コミュニケーションを取る事は可能でしょう。宮井さん、試しに彼らに自己紹介して貰えませんか?」

「俺でいいのかな?」

「多分。言葉を発している人物は明らかに宮井さんに向かって話しかけていますからね」


 

 俺は発言していた黒ポメの2㍍前に同じ様に胡坐をかいて座った。

 両手を膝に置いて軽く頭を下げた。

 視線を下げたままの黒ポメ全員が驚愕したのが分かった。


 まあ、ずっと気配を感じ取っていたが、かなり俺を恐れている事は分かっていた。

 まるで、死神か悪魔に対する様な恐怖だ。

 初遭遇時も俺を見た瞬間に逃走に移ったくらいだ。

 猫もどきを知っていて、普段から危険視しているのだろう。


「自分の名は宮井隼人と言う。そちらの名前を教えてくれないだろうか?」


 喋りながらじっと反応を見る。

 反応したのは【なはみやいはやと】という部分が一番大きかった。

 二言目に対する反応も明確だ。

 これは俺の日本語をある程度理解していると見て良いだろう。

 

 正対する黒ポメが頭を再び深く下げて発言した。


「みやいはやとのみこと、わなわしがかわなのひこさぶらく」

 

 後ろの方から、おお、という声が上がった。

 俺の名を理解した事が分かったのだ。コミケ―ションが成立している。


「ちょっと失礼しますよ」


 と言って、俺の左隣に山本氏が胡坐をかいて座った。


「わなは山本邦夫と申します」


 応対していた黒ポメが山本氏の方に向き合う様に身体の向きを変えて、答えた。


「やまもとくにひこすま、よしにさぶらく」



 山本氏は納得した様に頷いてから俺の方に顔を向けながら教えてくれた。


「やはり日本語で間違いないでしょう。ただ、古い上に変化もしている様ですから、現代の日本語とはかなり違っているみたいですね」

「古いってどれくらい?」

「うーん、どうなんでしょう。何となくですが漢字が入って来る前の時代の様な気がします」

「根拠とかはあるの?」

「聞いていた限り、音読みが無さそうなんですよ。日本の言葉由来の訓読みばかりでしたから」


 さすが、山本氏やまもとせんせいだ。

 そう考えれば、俺が言った【自分の名は宮井隼人と言う】の【自分じぶん】という部分に反応しなかった理由が説明出来る。


 


 黒ポメたちが『召喚』に巻き込まれた『被災者』の子孫という事がほぼ確定した瞬間だった。




お読み頂きありがとうございます。




 念の為に言っておきますが、mrtkは言語学者では有りませんので、作中に出て来る言葉に関しては専門家の考証を経た物ではありません(^^;)

 おかしい部分が有れば、作中で山本先生が言った様に【古い上に変化もしている様です】だからという事で突っ込まないで下さいね(^^;)

 そういう訳で、あまり真剣に考察をしないで下さいませ(^^)/

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