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第56話 「2日目19時32分」

20170930公開


 俺は、串代わりの小枝に刺したトリケラハムスターの肉が焼けるのをぼんやりと見ていた。

 表面には山本さんが採取した香草がほんの少しまぶされている。

 俺と山田さんは一緒に遅い昼食を食べた。

 その時に初めて香草が使われていたのだが、一口目を食べた時の感動は忘れられない。

 ただでさえ美味いトリケラハムスターの肉が更に美味くなったのだ。


 でも・・・・・

 さすがに今日は疲れた・・・・・



 日没直前まで森を捜索した結果は、最悪では無かったが最良でも無かった。


 行方が分からなかった子供たちは全員が生存していた。

 山口和泉やまぐちいずみちゃん・茶ポメ、清水七海しみずななみちゃん・白ポメ、池田杏香いけだももこちゃん・茶ポメ、岡田風香おかだふうかちゃん・茶ポメ、石井公平いしいこうへい君・茶ポメラ、西村瑛土にしむらえいと君・茶ポメ、松木真治まつきしんじ君・茶ポメ、中川湊人なかがわみなと君・茶ポメ、の8人全員が生存していた。


 8人は子供たちだけで5人組と3人組の2つのグループに分かれて『召喚』された。

 それぞれのグループもキッズケイタイの防犯ブザーを鳴らしたそうだ。

 もっとも、時間を区切って鳴らすという所までは気が回らなかったので、初日には電源が落ちたそうだ。

 やはり、猿もどきは人工的な音には近付かない本能が有るのかもしれないな。

 誰かが日本に『返還』された際には報告するべき情報だと思う。



 授業参観に来ていて行方が分からなかった残りの父兄は、死亡が1人、生存が1人だった。

 生存していた清水有希しみずゆき君は七海ちゃんのお姉ちゃんで、現在高校3年生だ。

 両親は死亡していて、親戚の家に引き取られている。今日は学校に事情を説明して午前だけ授業を休んで来たらしい。

 特筆すべきは彼女がドラゴンもどきに転生していた事だ。

 沙倶羅ちゃんよりは少し大きく、色合いも少し赤っぽく見える。

 沙倶羅さくらちゃんに続いてのドラゴンもどきは戦力的にはありがたいが、思春期の女の子としてはどうなの? とも思う。


 強い種族に転生したから、森の中という厳しい環境でも生き残れたのは事実だ。それは間違いない。

 俺が発見した時には、彼女は低威力ながらもブレスを使って、猿もどき5頭を近付けまいとしていた。

 逃げなかった理由は『被災者』の遺体を守る為だった。

 死亡していたのは西村光男氏だった。

 有希君が発見した時にはまだ息も有って会話が出来た様だが、今朝になって息を引き取ったらしい。

 最後まで息子の事を気に掛けていて、最後の言葉は息子の名前だったと有希君が嗚咽混じりで教えてくれた。

 うん、あの子も沙倶羅ちゃんと同じく責任感が強い子なのだろう。

 でなければ、逃げ出している。

 遺体を運び出す事も志願してくれたしな。 



 これで、あの時、教室に居た全員の安否が分かった。

 子供たちは、田中孝志君を除いた28人が生存している。

 大人は、4人が死亡し、佐藤先生と父兄合わせて15人が生き残った。 

 合わせて43人の生存者だ。

 『転生』した種族の構成は、猫もどき3人、ドラゴンもどき2人、ポメラニアンもどき33人、鷹頭5人になる。

 猫もどきとドラゴンもどきのチート級が5人も居るが、4人が未成年というのが微妙なところだ。

 そこそこ強いポメラニアンが33人も居るが、成人男性が山本氏1人しか居ない。

 鷹頭に佐藤先生と黒田氏が居るのは結構頼もしいと言える。空から周囲の状況を偵察出来るメリットは大きい。

 全体的に見て、ただ生き残るだけなら十分に可能だと思う。

 ここには水源も有り、食糧も動物性たんぱく質なら十分に賄える。

 植物性の食糧は草原と森の中を調査しなければ正確な事は分からないが、大丈夫な気がする。

 住居も、猿もどきを警戒しながらだが、俺のブレスを使えば木材の調達は可能だろう。のこぎりやかんなが無いので板に加工する方法をどうするかだが、試行錯誤を繰り返せば大丈夫だと思う。

 ただ、衣服が問題となる。

 やはり、黒ポメの集落と交流を確立するしかない。  


 うん、楽観は出来ないが悲観する程では無い。

 生きて行けるだろう。

 ただし、ゴブリンの勢力圏が近くに無ければ、という条件が付く。

 


「おとーちゃん、もうお肉焼けたよ?」


 水木の声が思考の海を漂っていた俺を現実に引き戻してくれた。

 トリケラハムスターの肉が焼けた様だ。

 香草が良い仕事をしている。食欲をそそる香ばしい匂いが鼻をくすぐった。

 しかも、食べれば地球の胡椒に似た刺激も与えてくれる。

 マジックペッパーとでも呼びたくなるな。

 

「ああ、ありがとう。うん、美味しそうだ」



 夕食も食べ終わったし、歯も磨いたし、寝床にみんなで移動しようかという時に山本氏と黒田氏が訪ねて来た。

 今夜も3人で交代で不寝番をしようというお誘いだった。

 2日続けて命懸けの捜索をして疲れているだろう俺を外したいのだが、と申し訳なさそうに言っていたが、さすがに2人だけでは辛かろうという事で快諾をした。

 まあ、猫もどきは夜行性だし、半分寝ながら警戒する事も出来る器用さが有るので2人に比べれば疲れにくい。

  

 寝床の即席の木製テントが2つに増えていた。昨日よりも余裕を持って子供たちを寝かせられる。

 ただ、大人用のテントも1つくらいは作れたが、沙倶羅ちゃんと有希君の2人の寝床をどうするかを考えれば不公平になりそうなので明日一気に作る事にしたそうだ。



 刈った草を敷き詰めた露天の寝床は昨日よりも格段に快適だったと言っておこう。




 満天の星空の下、こうして被災2日目が終わった・・・・・




 終                       



 取敢えず第1章だけですが(^^;)

 第2章に関しては『ヘキサランド戦記』の続きを先に書くかどうかを悩んでいます・・・



ここまでお読み頂きありがとうございます。

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